62話 秘密のビデオ通話
次の日の学校。
「おはよ、浅野」
「おはよ、広瀬」
俺たちはいつも通り挨拶を交わす。
ちなみに俺たちは普段学校では苗字で呼び合っている。
理由はもちろん、交際を周りに隠しているからだ。
特に隠す意味はないのだが、いちいち大っぴらにする必要もない。
それに言ったら言ったで、周りから揶揄されそうだし……後、照れくささも多少ある。
正直言うとそれが本音だ。
「どうしたの? 浅野」
「いや、なんでもない」
「そっか。それよりも今日の夜みんなでゲームやろうよ」
『みんな』とは、俺含めたいつもの四人だろう。
「いいけど……たまには四人じゃなくて他の人も誘わない?」
「誰、誘うの?」
「それは――」
◇◇◇
そして夜の集合時間。
ゲーム画面左上のパーティーメンバーには、
・俺
・minami
・ユイ
・しめじ
そして、
・さとー
・た
今日は三人だけでなく、追加で二人、一緒にやることになった。
やることになったとは言っても俺が誘ったのだが……【さとー】という名前の人が言うまでもなく佐藤くんで、この【た】という名前の人は……
『おい、田島……お前その名前どうにかしろよ……』
ゲーム内VCから、そんな佐藤くんの声が聞こえてくる。
『これ、いいだろ! 分かりやすくて!』
『分かりにくいから言ってんだろうが』
『チェッ。まぁいつか変えとくよ』
『それぜってー変えねーじゃん……』
そう、今日のゲームはいつもの四人に加え、佐藤くんと田島くんも加わった。
中村くんも誘ってはみたものの今日は予定があるらしいのでまた別の機会で、ということになった。
『ってか、なんでこいつがいんの……』
唯奈さんは言いながら田島くんのことをゲーム内で睨む。
『ユイちゃん! その言い方は酷いよ!』
そんな唯奈さんに杏菜さんが間髪を入れずに言う。
『だって……』
どうして唯奈さんはそこまで田島くんのことを嫌っているのか……少し記憶を遡ったらすぐ答えが出た。
スポッチャの時だ。まだ俺が美波としか関わりを持っていない時、田島くんは唯奈さんに猛アタックしていた。
あの時の唯奈さんは杏菜さんにしか興味がなかったから尚更だ。
『ってか、白鳥さんもこのゲームやってたんだね。ねぇねぇ、俺とフレンドになってよ』
いつしか聞いたような言葉。
もしかしたら今の唯奈さんなら――
『やだ』
ダメだった。
『ねぇ、樹』
遠巻きに二人の会話を聞いていると、美波が隣まで歩いてきた。
「どうした?」
『私に剣教えてよ』
「え?」
『いやほら、私って初め以外ずっと弓使ってたでしょ?』
剣を教える……昨日美波が佐藤くんと取りつけていた約束だ。結局あれは嘘だったんだが。
「まぁ、いいけど」
『やった。なら、強い武器ちょうだい』
「おい、てめぇ。まさかそれが目的か?」
『やばっ、じゃなくて』
「もう教えない」
『えー、ケチ。そんなこと言うなら、もう佐藤に教えてもらおうかなー』
「うっ……」
『ねぇ! さとー! 私に大剣教え――』
「教えるから!」
そんな俺の叫びに、美波が微笑を浮かべてスマホ画面を見下ろした。
キーボードよりも手前に置かれた俺のスマホ画面には、美波の顔がデカデカと映し出されている。
そう、俺たちは六人でゲームしているにもかかわらず、スマホでみんなにバレないようビデオ通話を繋いでいた。
繋ぐ必要はないが、それでも俺たちはお互いの顔を確認したいがために繋ぎながらやることに決めた。
そうしてその後、六人で色々モンスターを倒しに行ったのだが、正直ビデオ通話のせいで全く集中できなかった。
美波と二人っきりならまだしも、俺が別の人と話してる最中にも顔を見られてると思うと、どうもいたたまれなくなる。
『おい、顔逸らすな』
俺が佐藤くんに教えている最中、美波がそんなことを口走る。
だが、その近くには、
『顔を逸らす? 美波ちゃん、何言ってるの……?』
唯奈さんがいた。
『いや、なんでもない。それより唯奈ちゃん、これの素材集め手伝ってよ』
『うん……いいよ……』
『ってことで私たちはちょっと行ってくるから――』
美波が誤魔化すように言うと、二人は森の中へ消えていった。
『俺たちも素材集め行ってくるわ』
次に佐藤くんが言うと、田島くんと共に初級エリアへ行ってしまった。
そうして残ったのは俺と、杏菜さん……とは言ってもスマホ画面には、美波の顔が映し出されているのでなんとも言えない不思議な気分だ。
声は聞こえないのに顔は見える……。
『じゃあ、アサくん。私たちはいつものアレ、行こっか』
「そうだね。アレ、行くか」
そうして俺たち二人はいつもの上級ボスを周回したのだった。
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