59話 家庭ゲーセン機
「唯奈さん?」
俺の視界には、私服姿の唯奈さんと……その奥には見るからに高級そうな車が停まっていた。
「昨日ぶりだね……アッサー」
「うん、そうだね。じゃなくて、どうしてここに? それにその車は……」
「アッサーは人と会うために理由がいると思う?」
「いや、別にそうは言ってないけど……」
確かに、理由がなくても友達と会って遊んだりすることはあるだろうが……たまに理由もなしに佐藤くんからLINEが飛んでくるのと同じ感じだろう。
って、今はそんなことよりも、
「本当に理由もなく、家に来たの?」
見た感じ、理由があるとしか思えないのだが。
「昨日言ったでしょ……?」
「昨日?」
「LINEのやつ……」
そう言われて思い出す。
昨日唯奈さんと別れた後に飛んできた『いつか私にも付き合ってね』というメッセージのことだ。
「え、えーっと、それで俺は何に付き合えばいいの?」
「それはね――」
「ちょっとっ!」
有無を言わずに、唯奈さんから腕を引かれ、高級車の中へ。
唯奈さんと隣り合わせで座り、困惑しながら俺は訊く。
「どうしてここまでして……」
「だってアッサーとゲームしたかったし……」
俺はそれを聞いた瞬間、大胆だな……ただそう思った。
今思えば、修学旅行との一件でも彼女は大胆な行動を取っていた。
俺にはないそんな彼女の行動力を少しだけ羨ましく思った。
「でも、ゲームって何やるの? MMORPGならいつも通りオンラインでも――」
「ゲーセン」
「左様でございますか……」
でも、美波に何も言わずに女の子と二人で遊びに行ってもいいのだろうか……。
俺は逆を想像してみる――もし美波が男と二人っきりで遊びに行ってたら……うん、確実に嫉妬してしまう。
唯奈さんには悪いけどここはハッキリと断らせてもらおう。
「唯奈さん――」
そう言おうとした瞬間に、
「アッサー……着いたよ?」
「着いた…………って、えっ? もう着いたの?」
「うん……」
急いで、車窓から外を覗いてみると、そこには、
高級車は立派なお屋敷? 豪邸の前に停まっていた。
「えっと、唯奈さん」
「なに……」
「ここは一体?」
俺はゲームをすると聞いたような気がするのだが……。
「私の家……」
「いや、そうじゃなくて……いや、確かにここが唯奈さんの家なのも驚きだけど。ゲーセンって…………もしかして――」
「うん。私の家に何台かアーケードゲームあるから……」
な、なんだよそれ……。
その後、俺は無理やり唯奈さんの家に招待され、地下室へ連れていかれた。
さっき唯奈さんは『何台かアーケードゲームがある』と言っていた。
だが、この数は……どう考えても『何台か』の次元ではない。
地下室には、見る限り奥までゲーム筐体が続いていた。
確かに前から唯奈さんの家庭は裕福だと思っていたが、まさかここまでとは……。
「じゃあ、やろ」
「ちょ、ちょっと――っ!」
そうして唯奈さんが一番初めに目をつけたのは……
「これやりたい」
エアホッケーだった。
「ふぅー……絶対勝つ」
唯奈さんは腕をまくると、闘志を燃やす表情へと変わる。
普段MMORPGでは、俺の方が先輩だから負けたくないのだろう。
一度でも負かしたいと思うのは、重々承知なのだが、今はそれよりも美波のことだ。
もし美波自身から唯奈さんと遊ぶ許可を貰ったとしても、女の子と二人で遊ぶことには変わりない。
それは唯奈さんに全くの気がなかったとしても。
オンラインゲームと現実で遊ぶのとでは話が違う。
だから、
「もしかしてアッサーは私とゲームしたくないの……?」
先程まで、闘志を燃やし楽しそうにしていた唯奈さんの表情が一変……いつもの無表情に戻ってしまった。
こんな表情されたら、
「いや、そんなことはないよ」
断れるわけがない。
なら、どうすればいいのか……。美波に許可を取ったとしてもほぼ無意味と言ってもいい。
そもそも二人っきりなのが良くない。つまり二人っきりじゃなければ――そして俺はある考えを思いつく。
ただ二人じゃなければいい。
簡単じゃないか、誰でもいいからここへ招待して遊べば……
そう考えた俺はスマホを取り出し、
「唯奈さん。他に誰か誘ってもいいかな? 大人数でやった方が楽しいと思うから。美波と杏菜さんと……あと佐藤くんも――」
言いながらスマホで美波に電話をかけようとした瞬間、
「嫌だ……」
唯奈さんがスマホの電源ボタンを押した。
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