57話 デート
文化祭が終わってからしばらくが経った。
俺たちは好き同士と分かって、付き合った? と思う。
実際に『付き合う』という口約束のようなものをしたわけではないけど……。
自分で言うのもなんだが、さすがにあれで付き合ってないは無理があると思う。
とは言っても、付き合う前と何ら変わりない。
強いて言えば、美波の嫉妬心が強まったぐらいだろうか。
まぁだが、美波は前から嫉妬深いところがあったので何とも言えない。
そして今はそんな美波と共にゲームをしている。
今回は久しぶりにビデオ通話でやり取りしている。そのため、スマホ画面に目をやると、
『何見てんだよ』
スマホ越しで美波と目が合った。
「ビデオ通話なんだから見て当然だろうが」
『つまり、樹は意味もなく私の顔を見たいんだ?』
「べっ、別にそうは言ってないだろ」
『えへへっ、冗談だって。真に受けすぎ』
「くっ、くそっ……」
『でも特別に許したげる。目いっぱい独占していいよ』
「うっ……」
美波はこういうことを平気で言ってくるから困る。
「そ、それより早くボス倒しに行くぞ」
『え〜、まぁいいけど』
それから俺たちはいつものようにボス周回をした。
そして、ボスを倒し始めて二時間が経ったぐらいのこと、
『そういえば樹の誕生日っていつなの?』
美波から通話越しでそんなことを言われる。
「えーっと、11月16日」
『明日じゃん! なんで言ってくんないの』
「いや、だって……」
ここ数年間、祝ってくれる人もいなかったし……ここ二年の俺の誕生日は、帰りにショートケーキを買って食べるくらいの平日と何ら変わりない面白みのない一日。
どっちかと言うと、ケーキを食べながらゲームができるのが、至高の時間だった。
なので、俺は誕生日を特別な日だなんてこれっぽっちも思わない。
『うーん、ならさ、明日休日だしデートしない?』
「で、デート?」
『何その知らない言葉を初めて聞いたみたいな反応……』
「それはそうとして、デートってどこ行くんだよ?」
『それはね――』
◇◇◇
そうしてデート当日。
俺は駅前の分かりやすい位置でスマホをいじりながら美波を待っていた。
今日はどこへ行くのか……。
昨日の美波との会話を遡ってみる。
『映画とかどう?』
「映画か……確かに最近行ってなかったな」
『樹、映画館で映画見る派なの?』
「うーん、まぁ上映中だから行くってのがほとんど」
『なるほどね。ちなみに私は家で見る派』
「そうなんだ」
『本当に映画館で見るの? 別に私はお家デートでも――』
その後の会話はよく覚えていない。
ちなみに何の映画を見るのかすら聞かされてない。一体何を見るんだろうか……。
そんなことを考えながらスマホ画面をボーッと眺めていると、
『たつき』
美波から名前を呼ばれた……無論メッセージでだが。
『後ろ向いて』
『後ろ?』
疑問に思いながら、言われた通り振り向くと、そこには、可愛らしい服装でこちらを微笑んでくる美波の姿があった。
美波は普段着ないロングスカートを穿いていて、一際目立っている。
まぁ、目立ってるのは服装関係ないかもしれないが。
普段から美波のスカート姿は目にするものの、いつもは制服のミニスカートなので、少し新鮮さがある。
その分……いつもより可愛く見えてしまう。
「何? 見惚れちゃった?」
美波は歩み寄るや否やそんなことを言ってきた。
見惚れていたことは事実だ。その証拠に美波は今現在、注目の的である。
だが、それを本人に伝えるかはどうかはまた別の話なわけで。
「何も言わないってことはそういうことなんだ?」
「うっ……」
ここで違うとは言えない。それは美波も分かっているのだろう、頬が緩みまくっている。
なので俺は、
「は、早く行こ。映画始まるぞ」
こうやって誤魔化すしかない。
俺は美波の「女の子の服装は褒めないと嫌われるよ」という言葉を聞き流しながら、駅の改札をくぐった。
その後、俺たちは電車に乗り、映画館まで向かったのだった。
そうして俺たちは目的地の映画館へ到着……したのだが、美波が見たい映画の上映まではまだ時間があった。
なので、上映時間になるまでいつものあそこへ行くことになった。
その場所とは、
「あれやろうよ」
美波がそう言って指さす方向には、レースゲームが四台ほど並んでいた。
そう、俺たちはいつも通り、ゲーセンに来ていた。だが、定番の格ゲーはやらないらしい。
「今日はこれやりたい気分。それに――」
美波は「これだったら負ける気がしない」と言わんばかりの勝ち誇った顔でこちらを見つめる。
まだ、戦う前というのに……。
「ハチの巣にしてやる」
「レースゲームで銃使わないでよ……」
いつもの会話が、立場逆転で行われて、俺たちは台にお金を入れた。
俺は椅子の位置やら、姿勢やらを正して、試合が始める前だというのに、いわゆるゾーンに入った。
その結果……俺たちの順位は――
・俺 11位
・美波 12位
俺たちのレースゲームのセンスは皆無だった。
「やめよっか」
「そうだな」
俺たちは逃げるようにレースゲームの台から退散した。
とはいえ他にやるゲームがあるのか……。
そんなことを考えながら、美波と共にゲーセン内を彷徨っていると、
「アッサー……? それに……美波ちゃん……?」
後ろから聞き覚えのある声が俺たちの名前を呼んだ。




