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54話 文化祭 2日目

 とうとう来てしまった文化祭二日目。


 教室は緊張によって重苦しい雰囲気になっていた。


「みんな~、今日は絶対成功させようね~」


 そんな雰囲気が豆田先生の一言によって全員やる気に満ちる。


 そんな中、俺は……


 緊張によってどうにかなりそうだった。


 今まで、セリフがある役なんてもらえたことがなかった俺がいきなりこんな役を――本番になって怖気づいていた。


 そんな歩くことすらままならないまま、俺たちは体育館へ移動する。



 舞台裏で、セッティングが終わるまで待機していると、


「もしかして浅野、緊張してる?」


 魔女姿の広瀬から軽く肩をぶつけられ、そんなことを言われる。


「そ、そんなことないよ……」


「嘘つけ――」


 やはり見破られているようだ。


 どうやって誤魔化そうか考えていると、広瀬から両手で手を掴まれて、


「手、震えてるよ?」


「そうだよ……緊張してるんだよ」


 もう誤魔化しは効かないと思った。


「こういう時はねー、『人』を書けばいいんだよ」


「人?」


「そう。手出して」


 広瀬の言われた通り、手を差し出すと、差し出した手のひらに『人』という字を何度もなぞられる。


「ちょっ、くすぐったいって――ってか、『人』は書きまくるんじゃなくて飲み込むんだよ」


「え、そうなの」


「そうだよ。何回も書いてどうすんだよ」


「へぇ〜私いつも書くだけ書いて満足してたから知らなかった」


「そうですね。分かったなら早く手離してもらっていいですか?」


「それとこれとは話が別」


「別じゃないだろ!? ちょっ、やめろって!!」


 そう言っても広瀬はなぞる手を止めなかった。


 そんな俺たちのやり取りを面白いと思ったのか、


「楽しそう。私もやる――」


 唯奈さんがもう片方の俺の手を取り、書き始める。


 いやいや、なぜ増殖する?


「どう? アッサー。緊張消えた?」


「まぁ……」


 確かに緊張はなくなった。


「そっか……良かった……」


 唯奈さんは満足したのか、手を離して杏菜さんの方へ歩いていった。


「それでー……お前はいつまで書いてるんだ?」


「別にいいでしょ、減るもんじゃないし」


「はぁ……まぁいいけど」



 そしてその後、俺は始まる直前まで広瀬から手を触られていた。

 でも、最後の方は書くのをやめて、ただニギニギされるだけだったが、まぁ何も言わないでおこう。


 ◇◇◇


 そうして迎えた本番。


 幕が開き、ナレーションが始まる。


「昔昔、白雪姫という女の子がいました――」


 意外にも劇は滞りなくすんなりと始まった。


 あんなに緊張していたのに始まるのは一瞬だ。


 一瞬だけ、舞台裏から観客席を覗いてみると……満席……なのだが、それを遥かに上回るほどに人がいた。


 席が足らなくなるほど、なんと入り口の外まで人が続いていた。全員劇を見に来たのだ。


 理由は当然……


 俺の瞳には、美少女三人組――S級美少女と呼ばれる女の子と、A級美少女と呼ばれる女の子が映っていた。


 彼女たちは、一段と輝いていた。


 全員この三人を見に来ているのだ。だから俺が……。


 そんなことを考えているうちに、出番が回ってくる。


 仮面を被り、作り物の鏡を手前に置いて、舞台へ立つ。


 前を見ると物凄い数の人が俺に注目していた。


 怖い……緊張が再び俺の邪魔をする。


 失敗……。


 怯えながら、観客席を眺めていると、俺の緊張をなくすような柔らかい表情で魔女姿の広瀬が前に立つ。


「大丈夫だから……」


 小声で囁かれた、次の瞬間、広瀬は役に入り込む。


 そして、


「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは誰?」


 広瀬が例のセリフを口にした。次は俺のセリフだ。


 俺は先程まで気が狂うほど緊張していたはずなのに、広瀬の『大丈夫』という言葉のおかげか、


「この世で一番美しいのは白雪姫です。雪のように白い肌、真っ赤に染まった唇、ツヤツヤな髪の女の子です」


 俺は緊張していたことがまるで嘘かのように淡々とセリフを口にした。


 そんなセリフに広瀬は不満な表情を浮かべるが、今回のはちゃんとした演技だった。


 そのまま残りのセリフも全て言い終え、俺の出番はあっという間に終わった。

最後までお読み頂きありがとうございます。


平日・午後12時投稿。

休日・午前7時投稿。


投稿はこの時間帯になると思います。


少しでも「面白い!」と感じましたら、ブックマークと★★★★★、よろしくお願いします!

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