43話 亀裂
それにしても一体白鳥さんは一人でどこへ行くのだろうか。
そんなことを考えながら、いつ声をかけようか迷っていると、
「…………これ」
白鳥さんはその一言だけで、串団子を購入。そのまま近くのベンチへと腰を下ろして食べ始めてしまった。
なんだか……うん。一人を満喫しているようにしか見えない。
もしかして白鳥さんは一人の時間が欲しくて、自分から広瀬たちの班を離れたのかもしれない。
どうやら俺の心配は杞憂だったようだ。
それなら彼女の時間を無駄にしてはいけない。
やっぱり余計なお節介なんて焼くもんじゃないな。って、そんなのは当たり前か。
そんなことを考えながら俺は佐藤くんたちの所へ戻ろうとした。
その瞬間――
「ユイちゃ~ん! やっぱ一緒に行こうよ!」
弾んだ声が白鳥さんの名前を呼ぶ。その声の後ろには当然……
「ちょっと杏菜。はしゃぎ過ぎだって」
広瀬もいた。
「ユイちゃん! さっき『一人がいい』って言ってたけど絶対みんなで回った方が楽しいよ!」
何とも早乙女さんらしいセリフ。でも、その言葉に白鳥さんは、
「…………」
いつも通りか、はたまた機嫌が悪いのか反応がなかった。
食べていた串団子を持ちながら俯いている。
「ちょっと杏菜。確かにその気持ちは分かるけどさ……唯奈ちゃんの意見も聞いてあげないと」
「え~、でもみんなといた方が楽しくない? それとも美波は楽しくないの?」
「いや、そういう問題じゃなくて……」
「私は美波と一緒にいるの楽しいよ?」
「まぁ、私も杏奈との時間は好きだけど……」
またまた二人はじゃれ合う。そのやり取りを同じ班の女の子が後ろから「ほんと仲いいね~」と微笑む。
そんな二人の仲睦まじいやり取りで、周りの空気も浄化されていく。だと言うのに、
「…………」
白鳥さんは未だ無反応だった。
俺にはまるで、白鳥さんと早乙女さんたちの間に境界ができているようにしか見えない。
そんな縁起の悪いことを考えていると、
「私は杏菜ちゃんが好き……」
「えっ? あ、ありがと……」
突然の白鳥さんの言葉に早乙女さんが照れくさそうに答える。
「でも……私は美波ちゃんには何の感情も湧かない……杏菜ちゃんを思う『好き』という感情も、『仲良くなりたい』という感情も……これっぽちも関心が湧かない……」
「えっ、それって……」
「私はずっと杏菜ちゃんとの時間が好きだった……それでも杏菜ちゃんは違った。今までは我慢して二人と一緒にいたけど…………」
そんな白鳥さんの言葉に一同唖然とする。
「ごめん、もう無理そう……」
「ちょっと待っ――!」
白鳥さんは持っていた残り一つの串団子を地面へ落として、逃げるように走っていった。早乙女さんはその後を急いで追う。
そうか、俺は今まで勘違いしていた。
白鳥さんは三人での時間が好きだからずっと俺に素っ気ない態度を取っているものだと思っていた。だが、違った。
白鳥さんは俺だけでなく、広瀬さえも……それだけ彼女にとって早乙女さんの存在は大きかったのだろう。
だから白鳥さんは……友達の広瀬にさえ嫉妬してしまった。
――しばらくその場で唖然としていた広瀬がようやく状況を理解したのか、反対方向へ走っていく。
「広瀬っ!」
俺はその後を追う。
広瀬のあんな顔は初めて見た……。
当然だ。今まで仲が良いと思っていた友達から『我慢していた』と言われたんだ。そんなの苦しいに決まってる。
なんと言えばいいんだ……そんなことを考えるよりも先に俺は広瀬の手を掴んでいた。
「広瀬……」
「って、浅野……?」
俺の声に驚いた広瀬は一瞬こちらへ顔を向けるが、その頬は濡れ、目の下は赤くなっていた。
広瀬は顔を背け、涙を拭うともう一度こちらへ向き直す。
「よっ、浅野。こんな所でどうしたの? 佐藤たちは――」
「無理に取り繕わなくていいから。全部見てたし」
「だよね…………もしかして慰めに来てくれたの?」
「まあ、うん……」
「余計なお節介」
「ほんとに?」
「ほ、本当に……」
そう言う広瀬の目には涙が溜まっている。必死に堪えているのだろう。
「広瀬。たまには甘えることも大事だぞ」
「な、なんのこと……」
「俺は何度も広瀬から慰められてるけど、慰めたことは一度もない。だから……」
「ちょっ――」
俺は初めて自分から広瀬を抱き寄せる。身長差があまりないせいで、後ろから背中を押す感じで自分の方へ寄せる。
少し無理やりかもしれないが、苦しそうな広瀬の顔を見てると、どうしてもこうしたくなってしまった。
「ズルいよ、こんなの……」
そう言いながらも広瀬は胸に顔を埋めながら、静かにすすり泣いた。
いつしかの広瀬からされたのと同じように、俺も胸を貸した。
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