41話 修学旅行 2
その後目的地へ到着したのは夕方頃。
かなり遅い時間での到着だ。そのため今日はもう旅館へ行き、これからの注意事項や説明などを受ける。
自由行動や観光などは二日目からとのこと。
なので修学旅行を本格的に楽しめるのは明日からになりそうだ。
ということで俺たちは一度部屋に荷物を置いて夕食を食べるため食堂へ向かった。
到着すると既にクラスのみんなが集まっていた。そこには広瀬も、
「浅野。佐藤たちとは上手くやれてる?」
「大丈夫。少し変な人がいるけど、みんないいたち人だから」
「そっか」
安堵の声を漏らす広瀬。
今の広瀬からは先程のバス内での様子は一切感じられない。
理由はあの後メッセージでやり取りをしたからだ。
『不可抗力だから』
そう送ったが、そんなのただの言い訳にしかならない。それでも、あの状況だとそう言うしかなかった。
『知ってるよ。もう怒ってないから』
『その代わり――』
広瀬からある条件を出されてどうにか許してもらった。
その条件とは……まあ、夜のお楽しみだ。
その後夕飯を食べ終えて、しばらく部屋で休憩しているとようやく順番が回ってくる。温泉の時間だ。
「なあ浅野。広瀬さんとはどうなんだよ~?」
体を洗い、湯船に浸かっていると、まさかの佐藤くんからそんなことを聞かれた。
「え……でも……」
確かに広瀬との関係は良好だが、佐藤くんにそれを話すのは気が引ける。
「いいって、いいって。気にすんな。それに俺もう彼女できたし」
「そうなんだ…………って、えっ!?」
「あれ? 言ってなかったっけ? 実は夏祭りの時に告白したんだよ」
「そうだったんだ……全く気づかなかった……」
確かに最近佐藤くんは別クラスの女の子と話しているところをよく目にする。あれはそういうことだったのか。
「俺のことはいいんだよー。浅野の方はどうなんだよ」
佐藤くんがもう一度言ったところで田島くんと中村くんも近づいてきた。
「えっ!? 浅野って彼女いんの!?」
「浅野くんもしかして抜け駆けか?」
こういう話って、夜にするもんじゃないのか……とは言えず俺はその後も裸男子三名から詰め寄られたのだった。
◇◇◇
女子風呂にて。私は杏菜、唯奈ちゃんと共に湯船に浸かる。
こういう女子だけの集まりになると、やっぱり恋バナとかしたくなる。だけど、何せ相手が恋愛経験皆無の杏菜だから、
「ねえねえ美波ー、明日どこ行くー?」
なんかフワッとしてる。これじゃあ話したくても話せない。
唯奈ちゃんはというと……確実に男には興味がない。唯奈ちゃんは杏菜しか見ていない感じがする。たまに私すら忘れるぐらいだし……。
そんな唯奈ちゃんは今、なぜか私たちから離れた場所でお湯に浸かっていた。
最近唯奈ちゃんの様子が少しおかしい気がする。もしかして……
そう思い、バス内での記憶を遡るが……うん、あり得ない。
「ユイちゃんどうしてそんな離れた場所にいるの? こっち来なよ」
様子のおかしい唯奈ちゃんに杏菜が呼びかける。
今までの唯奈ちゃんなら絶対、すぐさま杏菜の呼びかけに応えていたのに……
「私はいい……」
今ではなぜか素っ気ない態度だった。
もしかするとバスで浅野と隣にされたことを怒ってるのかもしれない。
本当に浅野はどうしてそこまで嫌われてるのだろうか……。
私はその後、浅野のことを考えながら湯船に浸かった。
「美波、顔赤いよ? のぼせたんじゃない?」
「そうかも…………私先出てる」
(浅野、今何してんのかな……)
ボーっとそんなことを考えて、私はお風呂から上がった。
◇◇◇
夜。消灯時間は22時30分。
現在時刻は22時45分。
だが、俺たちは当然布団に入りながらひそひそと話していた。
どこの班も大体起きていると思う。何せこの時間帯が修学旅行の醍醐味とも言えるからだ。
多分そのことは先生も理解してくれているだろう。
だけど俺は……佐藤くんたちには悪いけどスマホで広瀬と連絡を取り合っていた。
『浅野たちの方は何してる?』
『話してる』
『何の話?』
『それは……』
この時間帯に話すことなんて一つしかない。
広瀬はそのことを理解したのか、
『いいなー』
『こっちは杏菜と唯奈ちゃんだからそんな話はかすりもしない』
『あー』
『確かに、二人とも恋愛興味なさそうだしね』
『そうそう』
『どうしよ、私もそっち行こっかなー』
『ダメ』
『なんで?』
『いや、それは』
『もう消灯時間過ぎてるし』
『それもそうだね』
『でも、どうせこの後会うじゃん』
『まあ、確かに』
そう、俺たちがバスの中でしていたやり取りの内容……それは今日の夜、会う約束をしていたことだ。
約束時間は23時。もうそろそろ約束の時間になる。
ということで俺は布団から出て、
「ごめん、三人とも。ちょっと外の空気吸ってくる」
「お? そか、いってらー」
目をこすりながら田島くんが答えてくれる。
中村くんも同じように軽く会釈をしてくれたが、佐藤くんは気づいていたのか、ニヤニヤしながら、
「頑張ってこいよ」
そう答えた。
当然俺と広瀬の関係を知っているのは、早乙女さん、白鳥さん、佐藤くんぐらいしかいない。
なので俺はそれを流すように「ただ空気吸うだけだって」と答えて、先生にバレないようこっそり外へ出た。
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