4話 嗜好の時間
◇◇◇
それから広瀬とつるむようになって二週間。
まだ一緒にゲームをしたのは数回程度だ。一週間に2、3回と言ったところだろうか。
初めの広瀬は本当にRPGが好きなのか、と疑問に思うほどゲームが下手だった。
話によると俺と出会うまで、休日の暇つぶし程度にやるぐらいだったとのこと。
まあ、それでも本人は、ゲーム中リラックスできるから大好きだと供述しているのだが。
今思い返すと本当に不思議な出会い方だと思う。
でも、広瀬とは未だにリアルで話したことは一度もないという更に不思議な関係。
同じ学校の結構仲のいい友人なはずなのに、お互い今の関係で満足している。
それなら無理にこの関係を壊す必要はない。そう、俺たちは空気を読み合う友人だ。
俺は今日もそんな広瀬とゲームをやる予定なのだが。
ふと、壁にかかっている時計に目をやる。
時刻は18時。
もうそろそろ――
――ヴー。
そこでスマホが震えた。
そこから俺は今日も広瀬にぶっ通しでRPGの良し悪しを教えた。
広瀬はこの二週間でかなり成長したと思う(多分)。
さすがに雑魚敵は余裕で倒せるようにはなったのだが、ボス戦がまだ、少しばかり苦戦してしまう。
というわけで。
「なあ、広瀬」
いつも通り初級ボスと戦いながらも、キーボードより手前に置いているスマホに話しかける。
『ん』
広瀬も俺と同じような構図で通話しながらやっているのか、一瞬だけキーボードの音が聞こえてきた。
「ギルドには入らないのか?」
『えっ。ギルドって、ゲーム内のチームみたいなやつ?』
「そう、MMORPGとかならギルドの参加はほとんど必須条件みたいな感じで」
じゃないと、とてもじゃないが上級ボスには敵わない。
一応ソロでプレイしている人もいるにはいるのだが、大体がプレイ時間5000時間以上の超猛者プレイヤーか、重課金勢の二択。
広瀬には悪いが、広瀬はゲームセンスが皆無なので加入を勧めたいところなのだが。
『うーん、まあ私が加入すれば確実にギルドに貢献できるとは思うけど』
「ふっ……うーん、どうだろ」
『おい、今一瞬鼻で笑ったな貴様』
「気のせいだよ……ふっ」
『くっそ、ボスなんて私一人でもよゆ――あっ――』
「ん?」
広瀬の声が喋っている途中でいきなり途切れたので、一体何かと思い、画面左側へと目を向けると、
【minami】と表示されたキャラクターのアイコンに被さるように【dead】表記。
「うん、やっぱ広瀬にはギルド加入をお勧めする」
『うん、今超絶に屈辱的だけど浅野の意見に賛成』
ということで広瀬を俺の加入しているギルドへと迎え入れることに。
『【暗黒の魔道士たち】って、ギルド名が……なんか凄いね』
「分かる。俺もそれに惹かれてここに加入した」
『えっ、もしかして浅野って結構、ちゅうに…………』
「ん? どうかしたのか?」
『いやっ、なんでもない――ってか、それより浅野ギルド入ってたんだ』
「まあ、そりゃ上級ボスには挑みたいからな」
『浅野でもボス戦キツいとか……RPG恐るべし』
まあ、MMORPGってそういうものだし、と言おうとすると同時にまたしても、こやつ本当にRPGが好きなのか? と疑念。
でも、趣味程度に触るぐらいなら確かにそういうのをいちいち気にする意味はないのかもしれない。
「ああ、後それと」
『まだ何か?』
「ギルドに入るにあたって一つ推奨があるんだけど」
MMORPGにおける長年続いている問題点。それは、
「性別」
『性別?』
ネカマによる被害はネトゲ全般に言えることだが、MMORPGは特にだ。
ネカマによりトラウマが与えられたプレイヤーは、プロフの【女】という表記を目にしただけで蔑む対象に。
もうそんなになるぐらいなら辞めてしまえ、と思うかもしれないが、それでも辞められないのがMMORPGの怖いところ。
「だから面倒かもしれないが、プロフの性別だけは非公開にしておいた方がいいと思う」
『なるほどね……もしかして浅野にもそういう経験が?』
「いや、まあ……あるにはある」
逆パターンだけど。男の人だと思っていたら女の人だったパターンだ。
正直楽しければ性別なんてどうでもいいのだが、あの時は驚いたものだ。
『なんかご愁傷さま』
そんな感じで今日も俺たちはRPGを堪能したのだった。
時刻は21時。
そろそろやめ時だ。
そんなに長くやっても広瀬を疲れさせるだろうし、疲れない程度に楽しむ。それが俺たちのモットーだ。
『そういえば浅野、ご飯いつ?』
雑魚敵でレベルを上げながら広瀬が尋ねてきた。
「晩御飯ならさっき食べた」
『ゲームしながら?』
「うん」
『うわ、行儀悪っ』
「RPGの頂点へ登り詰めたいのならこんなの朝飯前よ」
『夜飯だけどね』
「うるせーわ――ってか広瀬の晩御飯は?」
『私はさっき食べた』
「ゲームしながら?」
『うん』
「行儀悪いよ」
二人で雑魚敵を狩りながら他愛ない会話をする。
もう今となってはこういう会話をするのが当たり前になってきた。
電話越しだからということもあるかもしれないが、やっぱり俺と広瀬は考え方が似ていると思う。そのおかげで話しやすい。
『ってか、親は仕事?』
そう思っていたのに、聞かれたくないことを聞かれてしまった。
「まあ、そんなとこ……」
俺の家は父子家庭で、少し複雑な家庭。というよりかは複雑になってしまった家庭。
それを説明するのは少々面倒くさい。というのは建前で、本音を言うと単純に言いたくないだけ。
もし、話したとしても広瀬は良い奴だから、何かが起こるとか考え方が変わるとかはないだろうけど、俺たちはあくまでゲームをするだけの仲。
ネットの友達とさほど変わらない関係なのだ。
そんな人からいきなり重たい話を持ちかけられたら、面倒くさいと思うに違いない。
『そっか』
だから、それ以上は深く聞いてこなかった広瀬に俺は心の中でただただ感謝した。
そこから俺たちは、結局30分ぐらいゲームを楽しんだ。
終わった時の時刻は21時30分。
広瀬と絡み始めた時は、大体18時~20時までとかがほとんどだったが、最近少しずつ時間が増えていってる。
だが明日学校ということと、広瀬が真面目ということもあって、この時間帯で終わるのが大抵。
それでも少しずつプレイ時間が増えていくということは、その分、広瀬がRPGの沼にハマっていってるということなので俺からすれば嬉しい限りだ。
「さて、俺はもう少しだけやるとするか」
広瀬が落ちた後、俺はギルドの友達と23時までゲームを嗜んだ。
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