34話 四人でゲーム
『じゃあユイちゃん、早速キャラクリからしていこっか!』
『うん……』
スマホから二人の声が聞こえてくる……というわけでもなく、今回に関してはヘッドセットから声が聞こえてくる。
俺のやっているMMORPGはボイスチャット機能も搭載されているので、今回はゲーム内で通話することになった。
パーティー内の近くにいる人だけの声が聞こえる、距離減衰というやつだ。
そんな感じでかなりの便利機能として幅広く使われているが、俺と広瀬はいつもスマホで通話していた。理由は……単純に慣れていたから。
それにビデオ通話ができるというのも大きい……あれから一度もしてないとは言え……やはり少し期待してしまう。
『浅野?』
考え事をしていると、隣の至近距離から広瀬の声が聞こえてくる。
『どしたの?』
「いや、広瀬の声が近くで聞こえるの新鮮だなと思って」
『確かに。私たちずっとスマホ通話だったしね』
「うん」
距離減衰によって、遠くでキャラの衣装を決めている早乙女さんと白鳥さんの声はほぼ聞こえない。
だが、隣にいる広瀬の声は、まるで本当に現実世界で会話しているようだった。
普段学校では経験できないこともあって……この機能かなりいいかもしれない。
「なあ、広瀬――これからは俺たちもゲーム内で話さないか?」
『…………』
なぜか返答がない。
「広瀬?」
『……やだ』
「スマホ通話がいいってこと?」
『うん――確かにこっちの方が便利だとは思うけどスマホの方が慣れてるし』
確かに、人間結局優れた性能よりも慣れたものを選んでしまう。
『それに……』
「それに?」
『ビデ――』
「……ビデ? トイレとかにあるあれか? 俺使ったことないや」
『いじわる……分かってるくせに』
「ごめん、冗談だって」
『次やる時は久しぶりにやろうよ』
「うん、そうだな」
完全に早乙女さんたちのことを忘れて、いつもみたいに二人で会話していると、
『美波! アサくん! ユイちゃんのキャラクリ終わったよ!』
遠くから小さく早乙女さんの声が聞こえてきたので、そちらへ向かうと……
『どう思う? 美波、アサくん』
どう思うと言われても…………かなり個性的というか特徴的というか……。
白鳥さんのキャラは、体は女の子のようにスラっとしているものの、なぜか頭にはゴリラのマスクを被っていた。
正直ネタとしか思えないが、なぜか真剣な雰囲気で早乙女さんたちは俺たちの回答を待っている。
『うん……何というか、個性的でいいと思う』
すると広瀬がそう言う。
『個性的』という感想を先越されてしまった。それなら、
「えっと……か、可愛くていいんじゃないかな?」
発言した後に気づく。完全に選択肢をミスってしまった。
『可愛い? 浅野何言って――』
『だよねー! やっぱり可愛いよねー!』
早乙女さんが興奮気味に声を上げる。
一瞬変な空気が流れたが、どうやら回答としては合っていたらしい。
それでも相変わらず白鳥さんは何も言わないのだが……。
『それじゃあ、ユイちゃんのキャラもできたことだし早速ボスを狩りに行こうー!』
テンションが高い早乙女さんを後に俺たちも続く。
◇◇◇
そしてその後、四人でボスを討伐しに行ったのだが、白鳥さんは初心者とは思えない剣捌きと回避能力で、一度も死ぬことなく終わってしまった。
『ユイちゃん凄いね! ホントに初めて?』
『ゲームは初めてやる……今までやったことなかったから……』
『そういえば唯奈ちゃんはお嬢様だったね』
そんな美少女三人組の会話を聞きつつ、俺はインベントリを整理する。
一見空気の読めない奴と思われるかもしれないが、きっと白鳥さんは俺の感想なんて求めていない。
きっと今日、一緒にゲームすること自体嫌だったと思う。
だから俺は極力白鳥さんとは関わらないよう距離を保つ。
そう思っていたのだが、
『アサくんはどう思った?』
早乙女さんからそう訊かれてしまった。
「えっと、本当に初心者とは思えないよ」
とりあえずそれっぽいシンプルな回答をしたが……
『…………』
当然白鳥さんからの返事は一切なかった。
『本当に初心者とは思えないよね! 多分今のでユイちゃんも操作慣れただろうし、今日はこのまま全てのボスを狩り尽くそう!』
『ちょっと杏菜、全てって……このゲームに何体ボスいるか知ってんの?』
『216体』
『即答……そういえば杏菜も浅野と同じく猛者だったの忘れてた……』
そんな二人の会話に最後白鳥さんが一瞬反応したように思えたが、誰も気にすることなく次のボスフロアへと移動した。
その後も俺たちは難なくボスを倒していくが、さすがに全てのボスを倒すことはできそうにない。
当たり前だ。
何せどんどんボスの難易度は上がっていく一方。
そうなれば、広瀬もキツくなっていき、当然白鳥さんはワンパンで死亡。
仕方ない。あまりこういうことはしたくなかったのだが、
「白鳥さん、この防具あげるから使って。多分広瀬と同等の防御力だからワンパンされることはなくなると思う」
少し離れた所で会話している早乙女さんと広瀬の方へ向かおうとしていた白鳥さんにそう言って防具をドロップさせる。
できることなら自分で強くなり、自分で防具を揃えてほしいところではあったが、このままワンパンされ続ければ彼女はゲームが嫌いになってしまうかもしれない。
そう思うが、なぜか防具は拾われない。
そこで我に返る。
「あっ、ごめん。嫌だったよね。すぐに直すから――」
そう言ってドロップした防具を再度拾おうとした瞬間、
『いや、いい……』
防具が拾われて、すぐさま白鳥さんの体に装備される。
そして無言のまま離れると思いきや、
『えっと……ありがと……』
最後、白鳥さんは聞こえるか聞こえないかの声量で言い放ち、広瀬たちの方へ走っていった。
「良かった……」
俺も最後、誰にも聞こえないよう安堵の声を漏らして、白鳥さんたちよりは防御力が少し低めの防具を装備し直して三人の方へ向かったのだった。
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