32話 夏祭り
夏休み終盤。
たまに広瀬とゲームしたり、しめじさんとゲームしたりであっという間だった。
課題もさっき何とか終えたので、これでようやくゲームに励める。
そうして夏休み最終日である今日もフレンドとゲームをしようと思っていたのだが、
【minami】――オフライン――
【しめじ】――オフライン――
夏休み最終日だから仕方ないか。きっと二人とも遊んでいるのだろう。
そんなことを考えつつも、いつものボスへ攻撃しようとした瞬間、
「お祭り楽しみ!」
「そうだね、パパのために食べ物いっぱい買ってこっか!」
「うん!」
涼しい風を部屋に送り込むため開けていた窓の外からそんな親子の声が聞こえてくる。
そういえば今日はずっと窓の外から賑やかな声が耳に入ってきていた。
「祭りか……」
そう口にしたところで、
――グー。
お腹が鳴る。
たまには祭りの屋台で腹ごしらえをするか。
そう思い俺はお腹を鳴らしながら、夜の街へ繰り出すのだった。
◇◇◇
「ま、まずい……」
人が多すぎる且つ食べ物を買い過ぎてしまった。
ビニール袋両手に周囲には、さっきのような親子、そして友達同士やカップルで祭りを楽しんでいる人が大勢でかなり入り組んでいる。
やっぱり人が多いところは苦手だ。
それにさっきから……
「ねえ、俺たちと遊ぼうよ」「ちょっとぐらいいいじゃん~」
後ろの方からナンパするような男性の声も聞こえてくるし……さっさと帰ってゲームしながら食べるとしよう。
そう思い、踵を返そうとすると、
「「あっ」」
俺の瞳にはある女の子が映った。
思わず「あっ」という声が出ると、相手の方も振り向いた瞬間に俺の存在に気づいたのか同じように声を漏らす。
その相手とは、
「えっと広瀬……? こ、こんばんは」
二人の男に囲まれ、腕を掴まれている広瀬にとりあえず挨拶を。
「こ、こんばんは……?」
何とも言えない表情で広瀬が返答。
「えっと、これはナンパ、ですか……?」
俺のそんな疑問に二人の男性が口を開く。
「ち、ちげーよ! 俺たちはただこの子と花火が見てーなーって思っただけだよ」
「そうだよ! ナンパなんてするわけねえだろが!」
えっと……世間ではそれをナンパと呼ぶのでは? そう思うが、広瀬はなぜか俺の顔を見ているだけで何も言わない。
特に困っているようには見えなかった。それなら……
「えっと……それじゃあ俺はこれで――」
そして広瀬たちに背を向け、その場を去ろうとした瞬間、
――ヴーヴーヴーヴーヴー。
右ポケットに入っていたスマホが異常なくらいに振動する。スマホ自身が怒っているような気がした。
今すぐ見ないと……俺の直感がそう言った。
急いでスマホを取り出すと、
『おい』
『バカ』
『アホ』
『状況理解しろ』
『帰るな』
『助けろ』
広瀬のことだから、とは思っていたが、やはり広瀬は俺にナンパから助けてほしいらしい。
「えっとー……」
とは言っても当然、ナンパから女の子を助けるなんてボッチの俺には初めての経験なわけで……広瀬……どうしてそんな「やったれ!」みたいな表情で俺のことを見るんだ?
「なんだよまたお前か?」
「次はなんだよ!」
「その子離してもらってもいいですか?」
もちろん怖い。殴られたらどうしようとか考えてしまう。
「あ? 嫌だよ。なんでテメーにそんなこと言われねぇといけねぇんだよ」
「そうだぞ! 早く帰れ!」
これじゃあ埒が明かない。それなら暴力を振るわれる前に。
「おい、なんだテメェー!」
「逃げんな!」
俺は無理やり広瀬の手を引き、その場から逃げ出す。
当然追われるが、この人だかりなら――すぐさま逃走に成功した。
とりあえず人が少なそうな屋台の裏へ。
「はあはあ」
「ありがと浅野」
「大丈夫。ってか、広瀬なら別に一人でも逃げられたんじゃ?」
「…………」
なぜか広瀬からの返答はなく、更に目を逸らされる。
「おい」
「……ってか、すごい食べ物の量だね。どうしたのそれ?」
「当たり前のように話を逸らすな。まあいいけど……普通に帰って食べようと思ってただけ」
「一人で?」
「……うん」
「ゲームしながら?」
「うん。ちょっと調子乗って買い過ぎた……だから……」
「だから?」
「食べるの手伝ってほしい……」
「よく言えました」
「何か立場逆転してない?」
「気のせいだよ」
上手く話をすり替えられてる気がするが、何か広瀬は楽しそうだしいいか。
「ってか、広瀬一人で来たのか? 早乙女さんたちは――」
そう訊こうとした瞬間に、
――ヒュー、ドンッ!
そんな大きな音と共に俺たちの顔が眩しく照らされる。
淡く黄色に照らされた広瀬の頬はなぜだか仄かに赤みを帯びていた。
「あ、花火始まったよ」
大きな音の正体は花火らしい。
「ほら浅野、片方の袋貸して――」
「う、うん」
先程の『早乙女さんたちはどうした』という疑問は一瞬でどうでもよくなり、広瀬と共に屋台のご飯を食べながら、二人で花火を眺める。
そう思っていたのだが、花火を見上げているのは俺の方だけだった。
「浅野」
「なんだよ。花火見ねえのかよ」
「さっきは助けてくれてありがとね。カッコよかったよ」
そう言って微笑む広瀬。
その後、俺も花火を見上げることはなく、ご飯を食べるわけでもなく、屋台裏でただただ二人で見つめ合いながら時を過ごした。
最後までお読み頂きありがとうございます。
平日・午後12時投稿。
休日・午前7時投稿。
投稿はこの時間帯になると思います。
少しでも「面白い!」と感じましたら、ブックマークと★★★★★、よろしくお願いします!
 




