31話 いつも通りのゲーム
俺と広瀬は並んでいつもの帰り道へ。
「ってか、早乙女さんどうして俺と仲良くするなんて言い出したんだろう……?」
疑問に思っていたことを広瀬に訊く。
ゲーム友達だから、という理由は確かにあるけど早乙女さんは既に広瀬と白鳥さんという大切な友達がいる。そこに加えて早乙女さんは友達がたくさんいる。
そんな中、仲良くする人を増やすなんて……忙しくなるのは明らかだ。
「多分杏菜は浅野と仲良くなりたいんだと思う」
「? まあ、本人がそう言ってたし……?」
「じゃなくて、杏菜は昔から私の仲いい人とは積極的に仲良くしようとするの……理由はもっとたくさん私といるため」
「なるほど?」
「杏菜の言ってた通り、もし杏菜と浅野が仲良くなれば三人で遊んだりする時間も増えることになる……そうなれば杏菜は私といる時間が必然的に増えることになる」
確かに広瀬大好きの早乙女さんなら、と不思議に納得できた。
当然理由はそれだけではないとは思うが。
「それに……その……杏菜は恋愛とか分からないだろうし」
そう言ってさりげなく広瀬から手を握られる。
だけど前繋いだ時のように照れくさい雰囲気ではなかった。不安を埋めるような意味が含まれている気がした。
こんなことで広瀬の不安が解消されるなら、と思い俺からも握り返す。
「ありがと」
仄かに頬を染める広瀬から身を寄せられて、薄暗くなった道を歩いたのだった。
◇◇◇
オフ会の日から一週間後。
早乙女さんとのやり取りは初めに送り合った、よろしくスタンプから動きない。
早乙女さんが俺と仲良くしたいというのは本心だろうが、当然彼女にとって広瀬との時間の方が大切だろう。
だから、仲良くするとは言っても早乙女さんと俺との関係が変わることはない。今まで通りたまに広瀬を交えて会話する。
そんな微妙な距離感の友達。正直友達と呼べるのかすら怪しい。
それなら俺は今まで通り何もしなくていい。
そんな能天気なことを考えつつ、いつものゲームを嗜んでいると、
――ヴー。
スマホが震え、一切動きなかったトーク画面に新たなメッセージが追加される。
『アサくん! 今からやろ!』
それは早乙女さんという名のしめじさんからの連絡だった。
『分かった』
『なら、いつもの噴水待ち合わせで』
そう、リアルで会っただけで関係値が変わるはずがないのだ。今まで通り普通にゲームをするだけの仲。
変わったことと言えばゲーム内チャットからLINEになったことぐらいだろうか。
よし、今日はいつも通り【しめじさん】とのゲームを楽しむとしよう。広瀬とは違い通話するわけではないし――そう思っていたのだが、
『ねえ、アサくん』
『通話しながらやろうよ』
早速予想を裏切られた。
『えっと』
『どうしてまた?』
『美波から聞いたんだけど二人はゲームする時通話しながらやってるんでしょ?』
『それ聞いて確かに通話しながらの方が楽しそうだなーって思ってね』
『どうかな?』
『ごめんなさい』
早乙女さんはきっと俺と仲良くなろうと努力してくれているのだろうが、今の俺に早乙女さんと一対一で会話できる根性は持ち合わせていない。
『えー、そっか残念』
『それなら美波と三人でやる時は通話しようね?』
『うん分かった』
『ごめん』
『どうしてアサくんが謝るの?』
『私は一緒にゲームしてくれるだけで嬉しいよ』
『そっか、なら良かった』
『うん! 早くボス倒しに行こ』
『そうだね』
そうして俺たちは【アサ】そして【しめじ】としてゲームを楽しんだ。決して現実世界の感情は持ち込んでいない。今まで通り……。
『そういえばしめじさんって、どうしてこのゲームを始めたの?』
ボスリポップの待機時間にずっと気なっていたことを訊く。
『お兄ちゃんがきっかけかな』
『なるほどお兄さんが……』
『こんなこと言ったらブラコンみたいになるからあんまり言いたくないんだけど……』
『お兄ちゃんとの時間を増やしたくてこのゲーム始めたの』
やっぱり広瀬の言っていた通り、早乙女さんは自分の好きな人との時間を増やすためなら何でもするらしい。
実際問題、広瀬との時間を増やすために俺と仲良くなろうとしているわけだし。
『だけど今は別の理由でやってるかな』
『別の理由?』
『うん』
『ある人と一緒にゲームができるから』
『なるほど』
広瀬のことだろう。
確かに【minami】が広瀬だと分かった今ではそれが理由になるのも納得だ。
そしてついでに俺との仲も深める、きっとそんな感じだろう。
『お、ボス湧いたよ』
『狩るか』
『うん』
俺たちはその後もボス周回と素材集めをいつも通り嗜んだ。
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