30話 提案
「おいおい、なんだよあの美少女」
「しめじさんって……え? あの人が? ずっと男の人だと思ってたわ……」
そんな驚くギルドの人たちの声を聞きつつ、振り向くとそこには見覚えのある長い金髪に整った目鼻立ち。誰もが目を奪われてしまうほどの美少女が立っていた。
早乙女さん? しめじさん? 意味が分からない。
「広瀬、これどういうことか分かるか?」
俺と同様に開いた口が塞がらない広瀬に尋ねる。
「ごめん、私にも理解不能。杏菜がしめじさんで、しめじさんが杏菜で……そして杏菜がしめじさん――」
ダメだ。広瀬が壊れてしまった。
お互いどうしていいか分からず混乱していると、
「あれ? 美波? それに……浅野くん? えっ! うそっ! どうして二人が!」
唖然としている俺たちに目を輝かせた早乙女さんが近づいてくる。
とりあえず適当に誤魔化そう。
「さ、早乙女さん、こんな所でどうしたの?」
そう訊くが、当然帰ってくる答えは。
「ゲームのオフ会に来たんだけど、もう終わっちゃったかな」
「そ、そうなんだ……」
「実は今日ある人と会いたくてオフ会に初参加しようと思ったんだけど……さすがにもう帰っちゃったかな……」
早乙女さんは酷く落ち込むように顔を俯かせる。
まさかとは思うけど……。
「ち、ちなみに誰と会おうとしてたの?」
俺が固唾を呑むと、隣の広瀬もようやく我に返り真剣な表情へと変わる。
「えっと、【アサ】って人なんだけど……多分もう帰っちゃったかな」
ですよねー。
確かに俺としめじさんは昔からのフレンドで女性ということも知っていたとはいえ……まさか同級生の、そして早乙女さんとは思ってもみなかった。
今のところ早乙女さんは気づいてなさそうなので可哀想だけどここはこのままやり過ご――
「アサくんたちは二次会不参加ってことで大丈夫だよねー?」
二次会の話を進めていたギルドリーダーが名前を呼ぶ。当然俺に向かって。
「「…………」」
「あ、あれ? アサくん? minamiさん?」
どうやらもう誤魔化しは効かないようだ。
「はい、不参加ですのでもう何も話さないでください」
「なんでっ!?」
驚くギルドリーダーを横目に、先程の俺たちと同様に開いた口が塞がらない早乙女さん。まだ状況整理はできていないようだ。
「…………」
アサの中身が俺と知って失望したのだろうか。
そう思った瞬間に早乙女さんは再度目を輝かせ、
「嘘! 浅野くんがあのアサくんなの!? ってことはもしかして同じギルドの【minami】って……っ!」
最上級の輝きを放つ早乙女さんは、広瀬に向かって目をパチパチさせる。
「う、うん……実はあれ私なんだよねー、まさか杏菜がしめじさんとは……こっちもビックリだよ」
もうさすがに誤魔化しが効かないと理解したのか、広瀬はいつもの凛々しい雰囲気で潔く答える。
早乙女さんは俺と広瀬を何度も見合わせて、可愛らしく目をぱちくり。
そして再度理解し興奮した早乙女さんは、俺と広瀬両方に腕を回して抱き着く。
「ほんとに奇跡みたい! これは運命だよ! うん、美波とは昔から固い絆で結ばれてたけど、まさかこんな近くに運命の人がもう一人いるとは!」
「とりあえず杏菜、一旦離れよ。周りの目が気になるから」
そんな興奮気味な早乙女さんを広瀬が落ち着かせると、早乙女さんも我に返ったのか離してくれた。
やっぱりこういう時の広瀬は頼もしい。
「外もなんだし場所変えて話そっか」
「うん、そうだね美波。浅野くんもごめんね? ちょっと興奮しちゃって……」
まるで飼い主から叱られた犬のように頭を下げられる。
「いやいや、大丈夫だよ。さすがに俺の方もビックリしたから」
本当にまさか過ぎたが、これで俺と早乙女さんの関係が変わることはないだろう。何せネット内でたまにゲームをするだけの仲。
確かにしめじさんは大切なフレンドだが、それでリアルの接し方が変わるわけが…………あった。
その後、色々話すために喫茶店へ入ったのだが、なぜか早乙女さんとLINEを交換することになっていた。
「でも、まさか美波と浅野くんがそこまで仲いいなんて知らなかったよ」
隣には広瀬、そして前に早乙女さん。俺たちは机を挟んで座っていた。そんな早乙女さんは現在机に身を乗り出してスマホ片手にLINEを開いている。
俺たちは先程、もう全てバレたようなものだから、と潔く出会いから今までのことを全て話したのだが、どうしてLINE交換をすることになっているのか。
別に連絡先交換ぐらいならどうってことないのだが、何せ相手はS級美少女。恐れ多すぎる。
そんなことを考えながら、交換に躊躇っていると、
「ねえ、私から提案があるんだけどさ――美波はずっと気を遣って浅野くんとなるべく接しないように我慢してたんだよね?」
「うん、まあ、そうだけど……」
「私が浅野くんと仲良くなれば、そんな悩みも解決できると思うの。私たち二人が浅野くんと話してれば変な誤解を招くこともなくなるし、美波も違和感なく会話に混ざれる」
「まあ、確かに……」
「でしょ? ってことで――」
そう言って早乙女さんはQRコードが表示された画面をこちらへ向ける。
いやいやいや、何も『でしょ?』じゃないんだけど……俺が広瀬に限らず早乙女さんとも仲良くする? そんなの学校内で指名手配されてもおかしくない。
それに一番の不安点。それは白鳥さんに関してだ。俺が二人と絡んで、彼女の嫌がる顔が容易に想像できる。
それでも……学校内で周りを気にせず広瀬と会話できるのは確かに最高かもしれない。
「分かったよ……でも、話すのは二人の時だけで。白鳥さんがいる時は彼女を優先してあげてほしい」
「ユイちゃん? まあ、浅野くんがそれでいいって言うなら――」
そうして俺は学校のS級美少女とLINEを交換したのだった。広瀬に服の袖を掴まれながら。
◇◇◇
ある程度話がついて俺たちは店を出る。
「じゃあ私はこの後用事あるから。またね、美波――アサくん」
そうして早乙女さんが帰っていく。その背中を広瀬と共に眺める。
早乙女さんだから距離の詰め方がとんでもないということは知っていたけど、早速名前で呼ばれるとは……。
「とりあえず俺たちも帰るか」
「そうだね」
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