27話 謝罪
放課後の帰路。広瀬と隣り合わせで歩く。
周りにわが校の生徒の姿は見当たらないとはいえ、広瀬との距離が妙に近い。
昨日のこともあるし、昼休憩のこともあるせいで、緊張はいつもの倍。
「どうしたの? 浅野。なんか今日様子変だよ」
「えっ、そ、そう? 別になんもないよ」
「嘘つけ。どうせ何か話したいことがあって誘ったんでしょ? はよ言え」
どうやらバレてるらしい。広瀬が教えてくれないなら今すぐに目潰しすると言わんばかりに手を構えている。
「とりあえずその手は収めていただいて……」
とは言っても、全てを話すわけにはいかない。話すのはあくまで昼休憩、盗み聞きしてしまったことだけ。
「実はさ……」
そして俺は広瀬に告白の現場を見ていたこと、事故だったこと、全てを伝えた。
「ごめん……」
「別にいいよ。こうしてちゃんと謝ってきたわけだし……」
ある程度、叱られると思っていたのだが、広瀬は怒るどころか……少し照れている?
なぜか広瀬は怒りの表情ではなく、頬が少しばかり紅潮している。
「……やっぱり怒ってる?」
気になった俺が尋ねる。
「いや……怒ってるわけじゃなくてさ。その……告白聞いてたってことは、最後の部分も当然……」
最後の部分……恐らく広瀬が言っているのは『カッコいい』という発言だろう。
つまり、
「もしかしてあれって俺のこ――」
「それ以上は禁止」
いつかの体育祭のように唇に指を添えられた。
すぐさま指を離されると同時に顔も逸らされる。
「広瀬?」
「うっさい、こっち見んな」
もちろん今の俺にも恥じらいは存在するものの、恥ずかしがっている広瀬を見ていると、恥じらいより好奇心が勝った。
「あーもう、ずるいずるい」
隣から悶える広瀬の声。
その声を聞いて、さすがに申し訳なくなってしまった。
「ごめん……何か奢るからさ」
「何もいらない。その代わり――」
隣で歩いていた広瀬が足を止めたので、俺も同じく足を止めて向き合うが、広瀬が顔を逸らすせいで目は合わない。
「浅野も私のこと可愛いって言え……」
すると、広瀬がとんでもないことを発言する。
「え……えっ?」
まさかの提案に困惑を隠せない。
「はよ言え。じゃないと許さない」
どうやら言うしかないようだ。まあでも、そのぐらいなら。
「か、可愛い……」
言葉ぐらいならと軽く考えていたが、想像以上に恥ずかしくて広瀬の顔が見られない。
「誰が?」
「ひ、広瀬が……」
「うん、もう一回言って」
「どっちを?」
「『広瀬は可愛い』って」
「っ!? 欲張りセットかよ……」
「ほら、早く。じゃないと焼肉奢りね」
さっきは『何もいらない』と言っていたくせに……狡猾な奴だ。
「広瀬は可愛い」
でも、なぜだか不思議とスッと言葉が出た。
きっと言わされているわけではなく、本心でそう思っているからだろう。
俺から見た広瀬は、カッコよくて、頼りがいがあって、たまにうざくて、でも凄くいい奴で、そして……誰よりも可愛い女の子。
そんな彼女は今顔を真っ赤に染め上げて、いつもの雰囲気と違って見えるせいでより一層可愛く思える。
「ふ、ふ~ん。そんな風に思ってたんだ~。確かにボッチの浅野だと私が可愛く見えても仕方ないよね~」
そう思っていたのに、突然いつものウザい広瀬に戻ってしまった。
顔色もいつも通りの俺をバカにするような顔で、そのまま歩き出す。その後を俺も追う。
「広瀬が言わせたんだろうが」
「でも、本心だったでしょ」
「うっ」
バレているらしい。
でも、今の広瀬はただウザいだけで可愛さなど微塵も感じない。
そう思った瞬間、期待を裏切るように手を握られる。
昨日感じた広瀬の温かさが右手に集まる。
女の子の柔らかい手に、恥ずかしがって顔を逸らす広瀬。
そして俺も同じく恥ずかしさで顔を逸らす。
それでもお互い手を離すことだけはしなかった。
周囲に同級生がいるかもしれないという心配を忘れてしまうほど二人で照れ合いながら無言で帰った。
◇◇◇
次の日の学校。
教室に入ると、広瀬と昨日告白した佐藤くんが何やら会話をしていた。いや、謝ってるようにも見える?
席についてそんな二人を眺めていると、なぜか佐藤くんの視線が俺の方へ向く。急いで視線を逸らすが、佐藤くんはそのまま俺の方へ歩いてくる、広瀬と共に。
佐藤くんと共に俺の下へ来た広瀬に突然、腕を掴まれる。
「ごめん浅野。ちょっと来て」
それだけ言われて、俺はある場所へ連れて行かれる。
その場所とは人目が少ない校舎の突き当り。
少しの恐怖心を抱いていると、佐藤くんが俺の目の前で立ち止まり、
「今までごめん!」
そんな謝罪と共になぜか頭を下げられる。
そんな謎の状況に当然俺は困惑。
確かに今まで睨まれたりはしたけど直接的に何かされたわけではない。
戸惑いながらも佐藤くんの隣にいる広瀬へ助けを求める視線を送るが、帰ってきたのは謎のサムズアップ。
「えっと……とりあえず顔を上げてくれるかな? 佐藤くん」
佐藤くんはおもむろに顔を上げて、苦悶の表情を浮かべる。
「その、佐藤くんは俺に謝るようなことはしてないと思うんだけど」
「……いや、俺は今まで浅野くんのことを邪険に扱っていた。嫉妬とは言え昨日もあんなことを言ってしまったし……」
「あんなこと?」
疑問に思いつつ、もう一度佐藤くんの隣へ視線を向けると、そこには顔を完全に逸らしている広瀬がいた。
そうか、昨日と言うのは告白のことか。
「ほら、浅野。佐藤くんも反省してるんだしそろそろ許してあげなよ」
落ち着いた広瀬が話題を変えようと口を開く。
って、
「なんで俺の方が折れない嫌な奴みたいになってんだよ」
「いやいや、浅野はボッチで頑固な人だよ」
「俺の頑固なところ見たことないだろうが」
広瀬とそんないつも通りの会話をしていると、佐藤くんから肩に触れられる。
しまった。周りに人がいないとは言え普通にツッコミを入れてしまった。
「その、ずっと気になってたんだけど浅野くんって広瀬さんとどうやって知り合ったの? 接点がなかったように思えるんだけど……」
「ああ、それは。LINEで広瀬から――」
「ちょっとちょっと! 何勝手に話そうとして――」
「え!? もしかして広瀬さんが直々にLINEを!?」
「うん。最初は俺も驚いた」
「あの、空気扱いしないでもらっていいですか? それに『直々』って……そんな王女じゃあるまいし……」
確かに広瀬は王女というよりかは騎士って感じだ。王女はどっちかというと――
「あっ! いた! 美波!」
考えていると、タイミングが良いのか悪いのか、王女様の登場だ。そしてその後ろには当然、銀髪を揺らすもう一人の騎士。
いつものように俺を睨みつける白鳥さん、早乙女さんが近づいてくる。
「俺、そういえば授業の準備してなかった。じゃあ、そういうことだから――」
俺はそんな早乙女さんたちを避けるように教室へ戻った。
これから佐藤くんに睨まれることはなくなるだろうが、まだもう一人異常なまでに俺を嫌っている人間がいた。
まだ睨まれるだけで直接的に何かされてるわけではない。つまり俺が早乙女さんか白鳥さん本人と交流を持たなければこの状況が変わることもない。
そう、S級美少女とさえ関わりを持たなければいい話だ。
広瀬と交流を持てたことすら夢のようなのにそんなこと天地がひっくり返ってもないだろうが。
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