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クラスにS級美少女がいるけど、A級美少女と仲良くなった話  作者: 砂糖流


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25話 失敗の恐怖

「ひろ、せ……?」


 打ち上げに行っているであろう広瀬はなぜか某ファーストフード店の袋を持って、インターホンの前で立っている。


「えへへっ、バレちゃった」


「バレちゃったって……打ち上げはどうしたんだよ?」


「…………なくなった」


「ほんとに?」


「本当。こんなところで嘘つく意味ないでしょ」


「空気を読んだわけではなく?」


「それ()ない」


 空気は読んでいないと断言され、しばらく目を見合わせると広瀬は軽く微笑んで、


「とりあえず中入ろっか」


「そうだな……って、何自分の家みたいに招いてんだよ」


 そうツッコミを入れつつ、とりあえず二人で中へ入る。


 居間に着くと、広瀬は持っていた袋を机に置く。


「ずっと気になってたけどその袋は?」


 見た感じ二人分あるように見えるファーストフード店の袋。もしかして……。


「ゲームしながら一緒に食べよ」


「やっぱりか」


「親帰ってこないでしょ?」


「そうだな……それならせめてお金だけは――」


「いらない。そもそも私が勝手に買ってきたものだし」


「でも、俺さっき同じもの買いに行こうとしてたし」


「もう……それならさ。お代は浅野の時間ってことでどう?」


「時間?」


「そう。何度も言ってるけど私は浅野と一緒にいる時間が好き。だから浅野の時間を私に頂戴」


「そんなのなくても俺は幾らでも――」


「しつこい、そんなんじゃ一生彼女できないよ」


「それは……嫌、かも」


「だよね」


 失敗したくないとはいえ今まで友達を作ろうとしなかった俺なのに、なぜか彼女ができないのは嫌だと思ってしまった。


 それは今、目の前に広瀬がいるからなのだろうか。


「私も一生彼氏できないのは嫌って思うし」


 妖艶な笑みを浮かべる広瀬も俺のことを考えてそんなことを言っているのだろうか。


 分からない。恋愛ましてや友情なんて知らない俺がそんなこと分かるはずがない。


「とりま早く食べよ。お腹空いてるし何より腕が鈍る」


「腕が鈍るってまさか……」


「格ゲー。目いっぱい練習してきたから今度こそは蜂の巣に――」


「だからマシンガンはないって」


 そんな何度目かも分からない会話をしつつ、ポテトを手に取りながら格ゲーを広瀬と共に楽しんだ。


 心地よかった、楽しかった、ご飯が美味しかった。


 広瀬という一人の女の子がいるだけで家の中は一気に賑やかになり、不安感、孤独感全てが心の中から消えていく。


 それでもやっぱり。


「なあ、広瀬」


 格ゲーで負け、悔しがっている広瀬に自分から話を切り出す。


「どうしたの? ポテトならもうないよ」


「分かってるよ! って、そうじゃなくて……何も訊かないのか?」


「何を?」


「その……今日どうして誘いを断ったのかとか、どうして失敗に恐れてるとか……」


「訊いてほしいの?」


「いや、まだ……」


「なら話さなくていいよ」


 正直、言うのは怖い。何せ、かなりトラウマなことだから。


 話そうとするだけで震えが止まらなくなる。


 話したことにより失敗して広瀬との関係が切れてしまえば……そんな杞憂に過ぎないと分かっているのに考えてしまう俺はやはり面倒くさい。


 言いたくても言えない。


「ごめん……めんどくさくて……」


「ほんとに」


「うっ……」


「でも、話そうとはしてくれたんだよね?」


 そう言われて俺は首肯。


「ならいいよ。だって私から言わせればいいだけの話だし――浅野、頭貸して」


「頭?」


 疑問に思いながら頭だけを広瀬の方へ向ける。


 すると、グッと後頭部に手を回されて、瞬間広瀬の胸が目の前まで来る。


 当たるか当たらないかの距離。いや、鼻だけは既に柔らかい感触がある。


 そんなことを考えると、またグッと抱き寄せられてとうとう顔全体が胸に埋まる。


「よく今まで我慢したね」


 温かい。心地よくて今にも涙が溢れ出しそうになる……でもこんなところで泣くわけにはいかない……。


「今日の浅野、ずっと酷い顔してたよ。だから放課後杏菜も浅野を誘ったんだと思う」


「っ!?」


 そうだったのか……気づかなかった。

 無意識に『失敗』ということから恐れていたんだと思う。


「俺は……ずっと……」


「いいよ、今は私の胸貸してあげるから」


 ずっと、ずっと、俺は家族仲良く暮らしていけると思っていた。


 きっと不倫も何かの間違いだと思っていた。だって……二人ともあんなに幸せそうに暮らしていたのだから。


 でも、そんなこと考えていたのは俺だけだった。


 父さんも母さんも離婚したと同時に俺への愛情は消えた、一瞬にして……。


 だからもう元には戻らない。ただ耐えるしかないんだ。


 もう……一生……。


「泣いていいよ。私は何も聞こえてないから」


 言われた瞬間、今までの全ての感情が溢れ出ていく。


 母さんのこと、父さんのこと、友達のこと、孤独感、劣等感、自己嫌悪、恐怖、不安。


 全てを吐き出しても広瀬なら受け止めてくれる気がした。


 だから俺は、


「ずっと、ずっと寂しかった……ずっと友達が欲しかった……ずっと誰かとご飯を食べたかった……もっと……もっと家族と一緒にいたかった……広瀬とも、もっと一緒に……」


 初めて全てを人にさらけ出した。涙が止まらない。


「よしよし」


「俺は……俺は……」


「もう無理に喋ろうとしなくていいから」


 広瀬は涙で顔をぐちゃぐちゃにする俺をお構いなしに抱き寄せる。


 そんな温かさに俺は気の済むままに甘えるのだった。


 ◇◇◇


 しばらく時間が経ち、かなり落ち着いた。


「ごめん、もう大丈夫」


 ずっと黙って抱き寄せてくれていた広瀬に言うと、手の力を緩めて解放される。


 落ち着いたとは言っても、まだ恐怖は完全に消えていない。


 だからと言ってこれ以上甘えるのも気が引ける。


 それでも広瀬がどこかへ行ってしまうそうな気がして、離れるのは嫌だと思ってしまった。


「ほんとに? まだ甘えてもいいけど」


「うっ……」


 だから、そう言われてまた甘えそうになってしまうが、


「もちろん追加料金は発生するけど」


 突然そんな冗談を言われる。


 それでも広瀬は恐怖している俺に気を遣ってか、離れようとはしなかった。


「いや、金取るのかよ」


 だから俺も安心して、いつも通りのツッコミを入れることができた。


「えへへっ、冗談だよ。ほら、おいで」


「う、うん……」


 お互い照れ合いながら、更に体を密着させ合う。


 だが、さっきまでのとは違う。お互いが求め合う密着……そんな気がした。



 いつも静かで寂しかった家は、やはり今日も静かで物音一つしなかったが、いつもとは違い甘い空気が漂っていた。


 それはきっと『好きな人』が隣で俺と同じく頬を染めているからなのだろう。


「広瀬」


「ん?」


「ありがと」


「こっちこそ……ありがとね、浅野」



 そんな甘い空気が夜中の解散まで続いたのだった。

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