24話 体育祭後
体育祭の競技が全て終わった教室内。
疲労で即座に帰る人、余韻に浸る人、そして最後に打ち上げの話をする人。
「ねえ、早乙女さん、白鳥さん、広瀬さん。これから打ち上げで焼肉食べ放題にでも行かない?」
そんな話をしていたのは、前回スポッチャで遭遇した八人だった。そしてそこに広瀬も加わる。
「いいね! 私は全然大丈夫だよ!」
「私も……二人が行くなら……」
「うん、私もいいけどさ。それなら――」
「――それなら浅野くんも誘わない?」
広瀬に被さるように早乙女さんが言う。
それを聴いていた俺はと言うと、当然困惑。
どうしてあんなグループに俺を誘おうと思ったのか。
俺は今回何も活躍していないし、何よりあんな陽キャグループに混ざれるわけがない。確実に浮く。
そうこう考えているうちに、なぜか不服そうな広瀬含め九人が俺の席へ歩いてくる。
「ねえ、浅野くん! これから私たちご飯食べに行くんだけど一緒にどうかな?」
目をキラキラさせた早乙女さんに早速誘われる。
もちろん今、最善の選択は普通に誘いを受け入れることなのだろう。
周りの目もあるし、それに広瀬も同席していることがやはり大きい。広瀬がいるおかげで安心して赴くことができる。
それでも俺は、
「ごめん、早乙女さん。さすがに今日は疲れたからゆっくり休みたい、かな……」
「そっかー、それは残念」
あからさまに悲しい素振りを見せる早乙女さんの後ろには、怪訝な表情を浮かべる広瀬と、俺を睨む人物が二名。
白鳥さんと佐藤くんだ。
きっと二人は俺が行くことには反対だったが、早乙女さんの意見だからと言い出せなかったのだろう。
もちろん本当に疲労しているということもあるが、やはり俺はこういう時、圧に負けて空気を読んでしまう人間らしい。
俺がいなくなることにより二人が安心できるのなら、空気を読むまで。楽しい集まりに水を差してはいけない。
「じゃ、じゃあ俺は帰るからみんな楽しんでね。広瀬さんも今日はお疲れ様」
「うん! お疲れ様! 浅野くん」
「うん……お疲れ、浅野」
広瀬は最後取り乱していたのか、敬称が付いていなかったが、周りの人は気にしていないようで安心した。一人を除けばだが。
佐藤くんだけは気づいていたのか、通り過ぎる際また睨まれる。どうやら、体育祭の時も気のせいではなかったらしい。
でも、こうなるのは必然的。
普段ボッチの俺と美少女三人組の広瀬が仲良くするなんておこがましすぎる。こうなって当然なのだ。
とりあえず色々と疲れた……今日は早く帰って休もう。
そう考えながら、帰り道を一人で歩いてる時だった。
――ヴー。
誰からかなんて見る前から分かる。
『ねえ、なんで断ったの?』
『せっかくのチャンスだったのに』
『何のチャンスかは分からんが、言った通り疲れてただけ』
『ほんとに?』
『本当に。こんなところで嘘つく意味もないだろ』
実際嘘をついているわけではない。
でも、広瀬はそこまで見通していたのか、
『空気を読んだのではなく?』
ギクッ。
やっぱり広瀬には分かってしまうらしい。悪いけど無理にでも誤魔化すしかない。
今回に関しては俺だけではなく広瀬にも弊害が出るかもしれないし。
運が悪ければ美少女三人組の仲に亀裂が入る可能性すらあり得る。俺一人の判断で関係を壊すわけにはいかない。失敗するわけにはいかない。
そう思ったのだが、
『何を言ってる。空気は吸うものだ』
うん、どうやら俺も広瀬同様に誤魔化すのが下手なようだ。
『ふ~ん』
『そういう感じでくるんだ』
『ツッコまないのかよ』
『ツッコんだ方が良かった?』
『いや』
『いい』
『そっか』
『ならこの話はおしまいだね』
『じゃあ私は打ち上げ行くから』
『うん』
『楽しんで』
そう返信した俺は無言で真っ直ぐ家まで帰った。
◇◇◇
俺が失敗を恐れている理由。それは現在海外転勤中の父さんが関わっている。
不倫が発覚して離婚した後の父さんはかなり滅入っていた。
俺はそんな父さんを何とか慰めようとしたが、その度に父さんが口にする言葉は、
『お前は絶対俺みたいに失敗するなよ』
俺も初めは広瀬の言った通り、失敗なんてすればするほどいいと思っていた。
でも、父さんの言動、表情を見ているとそんな考えも簡単に変わった。
もし失敗してしまえば自分が傷ついてしまう。周りを不幸にさせるかもしれない。関わっている相手の人にも傷をつけてしまうかもしれない。
それならやっぱり無駄な挑戦なんてしない方がいい。何せ失敗しなくて済むのだから。
平和に暮らして何事もなく一生を終える。それが何よりも幸せなことだと思っていた。
だけど、そんなことはなかった。
父さんが海外転勤へ行ったあの日から俺は家で独りぼっちになった。悲しいという感情すらなかったと思う。
ご飯が全く美味しくない。家の中は静かで物音一つない。何をするにしても孤独感が俺を苛んだ。
それでも俺は友達を……大切な人を作ろうとはしなかった。無論、失敗を恐れていたから。
そして今現在もこの孤独な家で俺は独りぼっち。
だけど、昔とは違うところがある。
それはゲーム、MMORPGの存在だ。ゲームの中なら幾ら失敗してもやり直せる。
そして今の俺には広瀬も――そう思って無意識にフレンド欄を開くとそこにはオフライン表記の【minami】が目に焼き付いた。
そういえばそうだった。今は打ち上げに行ってるんだったな。
――グー。
お腹が鳴った。
現在時刻は六時。少し早いが何か買いに行くか。
よし、今日は久しぶりにジャンクフードを食べながらゲームをするとしよう。
そうして今の時間を無理やり至高の時間へ変えようと考えた俺は財布を持って玄関の扉を開けると、
「えっ?」
インターホンの前に絶対いないはずの人物が立っていた。
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