18話 嘘恋人
広瀬と二人で運動した日からしばらく経った日の昼休み。
あの日以来、広瀬に彼氏がいるということは一瞬にしてクラス内に広まった。まだ、噂が流れ始めて間もないのでクラス内に限った話だが。
きっとあの場にいた誰かが軽いノリで友達に話したのだろう。
それが徐々に広まっていき今に至る。
もちろん広瀬も美少女三人組の一人なだけあって男子からの人気は凄まじい。
早乙女さんと白鳥さんに劣るとはいえ、広瀬のクールさに射止められた男子は数しれない。
もちろんそれに関してはクラス内に限った話ではないわけで。
「ねぇ美波ー。そういえば彼氏くんはどうなったの?」
そこで美少女三人組の会話に耳が反応した。それは俺だけでなくクラス内のほとんどの男子も同様に。
「あーそれなんだけどさ」
クラス内の男子が息を呑んで聞き耳を立てる。
広瀬は溜めてからようやく口を開く。
「別れた」
広瀬のそんな一言により一瞬にして教室内は静寂に包まれた。
「えっ!? 美波別れたって……本当に? なんで?」
「実は相手が浮気クソ野郎だったんだよね」
そう、今回のことは俺たちで作戦を練っていたのだ。
彼氏がいるで通してしまえば早乙女さんから『彼氏は?』と聞かれて後々面倒なことになっていくだろう。
それで彼氏と別れたということを教室内で早乙女さんと話すことにより噂も自然消滅するという作戦。
相手の彼氏の顔もバレていないし特に俺に弊害が出るわけでもないので、彼氏さんを勝手に『浮気野郎』にして別れたと言えば簡単に納得もされる。
「えーそれは酷いね。あのトイレ探しのおじさんが…………別れて正解だよ!」
「浮気……最低最悪の行為……」
今回の作戦は広瀬のことも今後のことも考えて二人で出した結論。
でも、広瀬に彼氏がいないとなると男子達はまた今まで通りとなる。
別に今まで通りに戻るだけだから何も不満とかはないのだが……。
『浅野なんか不満そうじゃん』
二人との会話中にもかかわらず広瀬が俺にメッセージを送ってきた。
『別に』
『仕方ないなー』
『?』
広瀬の謎のメッセージに戸惑いながら顔を上げると、広瀬はスマホを机に置いて、
「さすがに彼氏はしばらくいいかな〜」
早乙女さんたちとの会話に再加入した。
「そうだよね。さすがに浮気した人と付き合った後ってなるとねー」
「うん……その判断が得策……」
そんな会話を交わすと同時にクラスの男子達のヒソヒソ話が聞こえ始める。
「やっぱりそうなるよなー、まあドンマイ佐藤」「また次があるよ」「まだクラスに美少女は沢山いる!」
「そういうお前らも美少女三人組なら誰でもいいとか言ってたろ」
「うっ」「俺は白鳥さん一筋だけどな」「まあ男なんてそんなもんだ!」
「あと言っとくけど別に俺は振られたわけじゃねーから!」
そんな男子たちの会話をぼんやり聞いていると、
――ヴー。
スマホが震えた。
『はらね』
一体なんの『ほらね』なのか不思議に思いつつ広瀬の方へ目を向けると、なぜか片目を閉じてこちらに向かい素早いウィンクを送ってきた。
本当に他の人にバレたらどうするつもりなんだ……。後それに。
『別に俺は不満なんてなかったから』
『普通に広瀬の嘘恋人がいなくなって安心してる』
『本当かなー?』
『なんで疑うんだよ』
『別にー?』
今日の広瀬はなんかウザイ広瀬だった。
「俺は絶対あんな奴には……」
「佐藤何か言ったか?」
「いや、なんでもない……あとひとつ聞きたいんだけど俺ってカッコイイよな?」
「なんだよ気持ちわりーな」
謎の男子達の会話を聞きつつ、広瀬とのやり取りを終えて、またいつも通り好きなゲームの掲示板を開く。
そんな時。
――ヴー。
またスマホが震えて上から通知が表示される。
また広瀬か……と思いながら通知に目をやるとそれは広瀬からのメッセージではなくいつもやっているMMORPG内での通知だった。
『今日やろう!』
ギルド内での昔から仲のいいフレンドからのゲームの誘いだった。
『やるか』
今日は広瀬との予定もなかったので受け入れることに。
久しぶりに一緒にやるから今日は目いっぱいキャリーしてもらうとしよう。
そんな少しずるい考えを持ちつつ、その後また掲示板を眺めたのだった。
そんな感じで今回は何とか俺たちの逢瀬がバレることも広瀬の彼氏に関する問題も解決したのだった。
◇◇◇
賑やかな昼休み中の教室で一人のS級美少女と呼ばれている女の子がスマホを見つめながら笑みを浮かべた。
「どうしたの? 杏菜」
「ん? いや、なんでもないよ!」
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