17話 遭遇
メンバーは早乙女さんと白鳥さんそしてその他多数。
女子生徒四人と男子生徒四人の計八人。
「ねえねえ、白鳥さん。後であれ二人でやろうよ」
一人の男子生徒が白鳥さんの横に並んで歩く。
「嫌……」
「えーそんなこと言わずにさー」
「ちょっと! 田島くん! ユイちゃん嫌がってるでしょ!」
そこの会話に早乙女さんが入り込んだ。
「えー、別にいいでしょー」
「私は……さっきから嫌だって言ってる……話しかけないで……」
「えっ!? そこまで!? 普通に傷つくんだけど……」
「まあ、どんまい田島」
他の男子生徒はその男子生徒を慰める。そして他の女子生徒たちは白鳥さんを「流石だね……」と持て囃す。
遠くから聞いてきても分かる。やはり早乙女さんと白鳥さんの二人が中心として会話が運ばれている。
どっちか一人でも欠けてしまえばあのグループは会話が円滑に進まなくなるだろう。
そんな余計なことを考えていた矢先、
「って、あれ美波じゃない! 美波ー!」
早乙女さんにバレた。
広瀬が好きな早乙女さんだからこそ、後ろ姿でも気づいてしまったのだろう。
まずい。八人全員がこっちへと近づいてくる。
俺が焦ってどうしていいか分からず顔を俯かせていると、広瀬が。
「知らないフリしてトイレまで駆け込んで。私が何とかするから」
今は時間がなかったので広瀬の言われた通り、従うことに。
他人のフリをして、そのまま顔を俯かせながらトイレの方へ逃げ込んだ。そしてトイレの入り口からバレないように様子を覗き込む。
少し怪しまれているようだが、何とか逃げ込めた。
それにしても白鳥さんがああいう集まりに参加するとは思わなかった。
早乙女さんはまだしも、学校で誰とも会話しようとしない彼女が……と思ったが、白鳥さんの視線の先にいるのは早乙女さん。
なるほど。大好きな早乙女さんに誘われたからついてきたということか。
「って、あれ? さっきの人は?」
広瀬の目の前まで来た早乙女さんが早速、異変に感じた俺のことを尋ねている。
「ん? あ、ああ。あの人はトイレ探しのおじさん」
「えっ、何それ?」
広瀬……さすがに誤魔化すの下手過ぎないか?
なんだよ、トイレ探しのおじさんって。
「そ、それより! 杏菜たちは何してるの?」
「私たち? 私たちは体育祭前に体を動かそうと、ってあれ? 私、美波も誘わなかったっけ?」
「いや、それには深いわけが……」
やっぱり広瀬は誤魔化すのが下手くそだ。焦っているのがバレバレ。
『私に任せて』と言われたのに全く任せられない。
「そんなことよりも広瀬さん今一人?」
一人の男子生徒が広瀬に訊いた。
まずい、ここで一人と答えてしまえば早乙女さんが『なら、なんで私の誘い断ったの?』と疑問に思ってしまう。
そう考えていると白鳥さんが間髪入れずに、
「彼氏……」
ボソッと呟いた。
その瞬間、その場にいた全員が驚愕する。
「えっ!? 美波そゆこと!?」
「えっ、広瀬さんって彼氏いたのか……」
「知らなかった……」
さて、広瀬はなんと答えるのか……。
黙り込んでいた広瀬がようやく口を開く。
「う、うん……まあ、そんなとこー」
いや、誤魔化せよ。
でも、確かに今の最善の選択はそのまま彼氏がいると通してしまう、だろう。
それが今最も楽な誤魔化し方。
だが、この誤魔化し方は後々面倒なことになるのが欠点だ。
「そう、なんだ……広瀬さん彼氏いたんだね」
「うん、みんなには黙ってたけど」
「どうして言ってくれなかったの、美波! 言ってくれたら盛大に祝ってあげたのに! その彼氏くんと一緒に!」
「それはマジで勘弁して」
「むぅー、ちなみにさっきのトイレ行った人が彼氏?」
「うん、そう。私のヘナチョコ彼氏」
ヘナチョコって……確かに運動は苦手だけど。
「そっか、なら私たちは二人の邪魔しないようにさっさとお暇しよっか。美波、いつかその彼氏くんに挨拶させてね」
「う、うん……その時が来たらね」
果たしてそんな時が来るのだろうか。
「じゃあ私たちは行くね――ほらみんな行くよ」
「うん……また……美波ちゃん……」
そして、早乙女さん白鳥さん率いる六人はバスケコーナーの方へ談笑しながら歩いていった。
俺もさっさと広瀬と合流しよう、と思ったらまだ一人だけ残っていた。
彼は確か同じクラスの佐藤くんだっけか。自己紹介の時スポーツが得意とか何たらと言っていた気がする。あまり覚えていないが。
これなら、広瀬と店内で合流するより外で合流するのが名案かもしれない。
『外で待ってる』
というわけで、広瀬にそれだけ送って入り口付近で待機することに。
早乙女さんたちはバスケコーナーへ行っていたし帰るのはまだ先になりそうだから遭遇する心配も不要だろう。
一体広瀬たちがなんの会話をしているのかは気にならないと言えば嘘になるけど一対一の会話を盗み聞きするのはさすがに良くない。
それに多分大した話では――
「おい」
そんなことを考えていると気づけば隣に広瀬がいた。全く気づかなかった。
「お疲れ。助かったよ」
「うん、助けてあげた。盛大に感謝してほしい」
「その割には誤魔化し方、結構狂ってたけど」
「なんだとテメェー、あれでも結構頑張った方なんだぞ」
「分かってるよ、ありがとう」
「うん、許そう」
そう言う広瀬の頬に少し赤みが帯びている気がした。
なんか、戻ってきてから広瀬の様子が少しおかしい。
普段通りと言えば確かにそうなのだが、少し違和感がある。
「広瀬なにかあった?」
その違和感の正体を確かめるため尋ねてみる。
「なっ、な、何が?」
「何かあったんだな」
「何もないって。浅野探ってきすぎ……そんなんだと女子から嫌われるぞ」
「広瀬からも?」
「……うっさい、早く帰ろ」
どうやら聞かれたくなかったらしい。
まあ、広瀬の反応を見るに嫌われてはないようだから良かった。
そして俺たちは店を離れて帰路へつく。
六月上旬でそろそろ暑くなってくる時季。
そんな中、運動後ということも相まって広瀬は少し薄着だ。
でも、肌の露出はある程度抑えられていた。
「それよりどうしよう」
「どうするか……」
俺たちが話している内容はもちろん今日あったこと。彼氏彼女のことだ。
別に俺の正体がバレたわけではないから大した痛手ではないのだが広瀬の方はと言うと……完全に彼氏がいることになってしまった。
「もういっそのこと付き合っちゃう? 私たち」
「は!? そんな軽いノリで」
「えへっ、冗談だって。浅野真に受けすぎ」
広瀬はこういう冗談を余裕で言ってくるから困る。
「もう」
その後なぜか距離がやたら近い広瀬に「また何かの冗談なのか」と言うと「寒いから」と返された。
それ絶対に薄着のせいだろ……そんなことを思いながら距離が近いまま帰ったのだった。
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