14話 夜道
「んん?」
ゲームのBGMと共に目が覚める。
寝起きですぐには状況把握できなかったが、そういえば今日は広瀬が遊びに来ているんだった。
そんなことを忘れてしまうほどに熟睡してしまった。
ちなみにそんな広瀬はと言うと、眠る前と体勢は一切変わっておらず、未だに俺の肩に頭を預けていた。
というか、距離が少し近くなってる気がする。
さすがに今寝すぎてしまうと夜眠れなくなるので起こしておいた方がいいだろう。
それにこの距離は俺の心が持たない。実を言うとこっちが本音だ。
ということで広瀬を起こすことに。
「広瀬、広瀬……」
肩を優しく揺らしてあげながら名前を呼ぶ。
「んあっ」
「おっ、起きた」
「あさの?」
「浅野です。おはよう」
「えっ、うん……はよ」
「それより早く起きていただけませんか。そろそろ肩が限界なんですが」
「肩?」
何のことか理解していない広瀬は一度周りを見渡すと、状況を理解したのか、
「っ!? あっ、ごめん」
すぐさま離れて、手で口元の涎を拭いながら謝られる。
「大丈夫」
「うん、ほんとに……」
多分広瀬のことだから涎のことなんかよりも、体を密着させていたことを気にしているのだろう。
「「…………」」
予想していたがやはり気まずい空気になってしまった。
友達とはいえ、男女で身を寄せ合いながら眠るなんてまるで彼氏彼女の関係。
通話の時はまだ顔が見えなかったから良かったが今回はハッキリとお互いの顔を認識し合える。
そのせいで、くそ恥ずい……。
「……えっと、それより今何時?」
「時間?」
そういえば起きてから見てなかった。
俺はポケットに入れていたスマホを取りだし時間を確認する、
22:38
「あ」
「あ?」
「広瀬、親からの連絡は?」
「えっ、一応8時には帰るって言ってたから……うん、やばいわ」
どうやら俺たちはまたやってしまったようだ。
しかも前回とは比べ物にならないほどの失態。
俺は何の心配もないが、広瀬の場合、男の家で年頃の娘が夜まで帰ってこない。心配するに決まっている。
「とりあえず母さんに連絡してくるから待ってて」
「分かった」
広瀬はスマホを持ってどこか慌てた様子のまま、廊下へ向かっていった。
しばらくすると広瀬がどこか安心した表情で戻ってきた。
「どうだった?」
恐る恐る聞くと広瀬は親指を立てて、グッドサイン。
「良かった」
「うん、とりあえず今日はその友達に送ってもらえだって」
「えっとさ、ちなみにお父さんはなんて言ってた?」
「父さんは、よく分かんないけど後ろで暴れてた」
「それダメなやつじゃん……」
しかも怖いのが、怒りの対象が多分俺ということだ。
「まあ、とりあえず行こっか」
「うん」
ということで俺たちは二人で夜の道へ。
俺たちは等間隔に設置されている外灯に照らされながらゆっくりと歩く。
こうして、並んで歩くのは意外と初めてかもしれない。
それに距離も近い。
いつもは10メートルも離れて歩いていたから新鮮さが凄い。
もちろんこの時間帯に同級生が歩いてるはずもなく、精々、犬の散歩をしている人が歩いてるくらいだ。
「涼しいね」
「そうだな」
五月下旬でそろそろ暖かくなってくる時季。
薄着がちょうどいいくらいだ。
「そろそろ体育祭だね」
「げっ」
「もしかして浅野、運動嫌いなの?」
「引きこもりゲーマーの時点で察してくれ」
「それだと私も運動苦手ってことになるけど」
「いや、広瀬はゲーム上手くないし運動は得意だとおも――」
「――あ?」
「すみません、何でもな――」
「――許さん」
「生まれて初めて謝罪強制終了された」
「私も初めて人の謝罪止めたかも」
そんな謎コントをしつつ、広瀬の家まで近づいていく。
「それより広瀬、後どのくらいだ?」
「もうちょっと――それよりもう少しゆっくり歩かない?」
「えっ、いいけど……理由を聞いても?」
「浅野ともっと一緒にいたいから」
「えっ、それって……」
「それとも浅野は私と一緒にいたくないの?」
「いたい、けど……」
「だよね」
「うん」
それから俺たちは速度を落として他愛ない会話をしながら深夜の道をゆっくり歩いたのだった。
広瀬が質問して、俺が答える。
どうやら広瀬はもっと話したいことがあったから『ゆっくり歩こう』と提案してきたようだ。
◇◇◇
「ここまでで大丈夫」
「そう?」
「うん、すぐそこだから」
「分かった。じゃあここまでで」
「うん。じゃあ――」
そう言うと、広瀬は背を向けて前へ歩いていった。
さすがに男とは言えど俺も学生なのは変わらないのでさっさと帰った方がいいだろう。
ということで俺も広瀬に背を向け、前へ歩き出すと、
――ヴー。
スマホが震えた。
『浅野、今何してる』
『夜道を歩いてる』
『危ないよ』
『でも、奇遇だね』
『私も今歩いてる』
『はいはい』
『それでどうした?』
『忘れ物?』
『次は勝つから』
『お、おう』
『かかってこい』
『それと下着のことは忘れてね』
『なんで自分から言うんだよ』
『せっかく忘れかけてたのに』
『忘れかけってことは覚えてるじゃん』
これでどうして俺が責められるのやら。
『あと最後に』
『今日2人で寝たこと、学校の人には内緒にしてね』
『えっ』
『うん』
そう言ったものの、学校内での俺はボッチなのでそんな話ができるのは広瀬ぐらいなのだが――
『ふ』
『おいてめえ』
『分かってて言いやがったな』
『なんのことー?』
俺たちは別れてもお互い背中を向けながら、やり取りをして帰ったのだった。
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