13話 煽り合い対決、再び 2
用意しておいた、お菓子、飲み物を机に置いて隣同士でソファに座り、早速お目当ての格ゲーを起動。
「ってかゲーム機、古いやつかなーって思ってたけど最新のやつじゃん」
「当たり前でしょ。格ゲーの頂点へ登り詰めたいのならこんなの朝飯前」
「浅野、どんだけ頂点目指すつもりなの……」
「もちろんやってるゲーム全部」
そんな会話を交わしつつ、両者前回とキャラは同様で対戦が始まった。
俺は前回と同じようにまた【田植え攻撃】を炸裂させようと考えたのだが、広瀬はちゃんと練習を積んできたのかしっかり対策されてしまった。
それに加え前回とは比べ物にならないほど、動きが良くなっている。
「くっ、くそ」
「ほらほら、ゲーセンの時の威勢はどうした」
「テスト期間で練習する暇なんてなかったはずなのに、どこでそんな時間を……」
「才能だよ」
「絶対に負けられん」
そんな会話をしつつ、その後俺たちは初戦にもかかわらず接戦を繰り広げたのだった。
結果は、
「あぶねー」
ギリギリで俺の勝ちに終わった。
「くそ、もう一戦」
「今日は何戦でも付き合ってやる」
「じゃあ私が勝つまで」
「それ終わるのか……?」
「一回勝ったぐらいで図に乗りやがって」
それから俺たちはまたゲームを楽しんだのだった。
◇◇◇
「ここでこのコンボを決めて。あぶねー、今日の連勝が打ち破られるところだった」
あれから30分ほど対戦したが、今のところ俺の全勝。
だが、前回と比べると広瀬は圧倒的に成長しているので、一瞬でも気を抜いてしまえば、また俺の愛用キャラが地面で這いずり回ることになる。
「次は勝つ」
「かかってこい」
でも、熱い対決ができる分、楽しさも増す。
別にゲーセンの時が楽しくなかったと言っているわけではない。
相手が強ければ強いほど倒しがいがあるというものだ。
「ねえ、浅野」
キャラ選択もせずにすぐ隣の広瀬が尋ねてきた。
「なんだよ、早くキャラ選べよ」
「楽しい?」
「えっ。楽しい、けど……」
「そっか。なら良かった」
「?」
初めは広瀬の言っていることに何も理解できないでいたが、少し考えると答えが出た。
広瀬は負けず嫌いではあるものの、誰だってボコボコにされるゲームが楽しいわけがない。
広瀬は自分のそんな心の内をさりげなく俺に伝えようとしたのかもしれない。
そう思っていたのだが――
「それならさ、たまにこうやって家で集まってゲームやろっか」
「えっ、俺としては有難いけどいいのか?」
「もー、こういう時は素直になればいいのに」
「素直に?」
「うん。私とゲームしたいんでしょ? 理由なんてそれだけで充分――それに、私も浅野とゲームするのは楽しいし」
「うん……それなら……」
広瀬が楽しんでくれていたことによる安心、半面、『俺とゲームをしたい』と思われていたことによる喜び。
それは今までの喜びとは異なり、心が温かくなる喜びだった。
「ってことで、私1P側もーっらい」
「あっ、ずりーぞ!」
ニシシと笑いながら歯を見せてくる広瀬を一瞬綺麗だと思った。
でも今は、
「広瀬」
「ん?」
「ありがと」
「何のことだか」
「広瀬、こういう時は素直になればいいのに」
「生意気なこと言うじゃん……蜂の巣にしてやる」
「何でだよ! 後、格ゲーにマシンガンはないから」
そんな何度もしたような他愛ない会話をしてまたゲームを再開した。
広瀬が家に来てから五時間ほどが経った。
正直勝敗なんて覚えてないくらい対戦した。
ざっと俺の勝利が7割、広瀬が3割と言ったところだろうか。
思ったより負けて悔しい。
だが、広瀬はそれでもまだ負け惜しみを発動して、ゲームを辞めようとはしない。
まあ、まだ時間は夕方頃だし、時間的には大丈夫なのだが――
【You win!!】
ゲーム画面には動きが止まった広瀬のキャラが俺のキャラにボコボコにされている映像が映し出されていた。
「広瀬?」
「…………」
反応はない。
なんか前の時も同じような体験をした気がする。
とりあえず状況把握をしようと、すぐ隣の広瀬の方へ目を向けようとしたのだが、
「スー」
そんな息と共に、肩に何かが優しく乗っかった。
『スー』という寝息と肩に何かが乗っかったこの感覚。
考えつく答えは一つしかない。
距離が近すぎるあまり、広瀬の短い髪がチクチクとこそばゆい。
「波動拳……」
広瀬は疲労のあまり俺の肩に頭を乗せて、ぐーすかと眠っている。
そして更に寝言まで。
しかも、夢の中まで格ゲーだし。
「俺の気も知らないで……」
だが、気持ちよさそうな顔で眠っている広瀬を起こす気は微塵も湧かなかった。
「スー、スー」
前の通話越しの時よりは至近距離かつ鮮明に寝息が聞こえてくる。
そこに更に感触も匂いも伝わってくる。
こんな状況に万年ボッチだった俺が耐え切れるはずもなく。
通話の時は、広瀬に釣られて俺も一緒に寝てしまうという失態を晒してしまったが、こんな状況だと、同じ轍を踏むという心配はなさそうだ。
そんな軽い気持ちで勝手に安心していたのだが、人間という生き物は極度の緊張状態でも時間が経てばその環境に慣れてしまう。
そして更に慣れてしまえば、簡単に釣られてしまう。
「瞼が重い……」
俺は限界まで来ていた。
だが、もし動いてしまえば広瀬が起きてしまうかもしれない。
そんな広瀬に甘々な結論に至った結果、
ゲームのBGMと二人の寝息が流れる部屋で、俺たちはお互いに身を寄せ合いながら眠ったのだった。
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