11話 テスト終わり
そしてテスト当日。
重い空気の教室でテストが始まる。
俺は毎日ゲームをしていたせいで、テスト前日(昨日)は痛い目を見ることになった。
一応、納得がいくまで復習をしたから大丈夫とは思うが。
と、そんな不安な気持ちを抱きつつ、テストに挑んだ。
◇◇◇
さすがにテスト期間中は俺も広瀬も疲労が溜まっていたのでゲームを起動することはなかった。
そして最終日。ようやく全てのテストが終わり、
「「「「「終わったー!」」」」」
クラスメイトたちの肩の力が一斉に抜ける。
俺も一気に肩の荷が下りて、椅子の背もたれに体を預ける。
「お疲れー、美波! ユイちゃん!」
そして、特に心配だったであろう早乙女さんの声が耳に入ってくる。
「うん、お疲れ杏菜」
「お疲れ様……杏菜ちゃん……」
「二人のおかげだよ! ありがとね!」
「杏菜ちゃん……結果まだ……」
「えへっ、そうだね。でもユイちゃんが教えてくれたところ――」
早乙女さんと白鳥さんがそんな会話をする中、なぜか広瀬だけは視線を落としていた。
――ヴー。
スマホが震えるのを感じて、どうして広瀬が視線を落としていたのか理解する。
『お疲れ』
『お疲れ』
『テストどうだった?』
『うーん』
『微妙かも』
『そっか』
『なら次から私が教えてあげよっか?』
『いや、いい』
『広瀬は早乙女さんを優先したげて』
『じゃないと早乙女さん補習受けることになるよ』
『確かにそうかも』
『うん』
『それよりさ』
『帰ったら』
「――みんな! テストも終わったことだしこの後クラスのみんなでカラオケでもどうかな?」
テストが終わり、浮かれた雰囲気の教室で広瀬とやり取りをしていると、突然クラスの男子が声を上げる。
「いいね! みんなで行こうよ!」
その提案にいの一番に反応したのは早乙女さんだった。
その早乙女さんの一声によって、あまり気が進まない表情をしていた男子生徒達が一斉に活気づく。
「ユイちゃんはどうする?」
「杏菜ちゃんが行くなら……私も行こかな……」
まさかのS級美少女全員参加により、男子達は更に盛り上がる。
そんな中、俺はというと、テスト終わりということもあって頭の中はゲームで埋め尽くされていた。
ずっとできてなかったから早くやりたくてウズウズしている。
「浅野くんはどうする?」
そんなことを考えていると、後ろから名前を呼ばれた。
「伊藤くんはどうするの?」
しまった、質問に質問で返してしまった。
「俺は用事で行きたくても行けないんだよね」
そう言うと、伊藤くんは早乙女さん達の方へと目を向ける。
どうやら伊藤くんも他の男子達と同じくS級美少女狙いのようだ。
「そっか、なら俺も今回パスかな」
まあ、理由はゲームなんだけど。
ということで、俺と伊藤くん、その他の用事がある人は帰り支度を始める。
「美波はどうする?」
そんな早乙女さんが広瀬を呼びかける声に思わず耳が反応する。
「うーん、私は疲れたし今回はパスかな」
「えー、そっか残念。でも確かに美波は率先して勉強手伝ってくれたもんね。だから許したげる」
「なんで私が妥協されたみたいなってんの」
「えへへっ、嘘だよ。ありがと」
そうか、広瀬も行かないのか。
当たり前だ、広瀬は早乙女さんの勉強にも付き合ってあげて更に夜は俺とゲームもしていたから疲労感は底知れないはずだ。
そう思っていたのだが――
――ヴー。
スマホが震えた。
『ねえ、なんでカラオケ断ったの』
『なんでって疲れてたから』
『ってか、広瀬も断ってたじゃん』
『たしかに』
『てか、聴いてたんだ』
『聞こえた、ね』
『どっちでもいいよ』
『それよりさ』
『帰ったらやる?』
『おう』
『やるか』
まさか誘われるとは思わなかったが、元から俺は帰ってゲームをやるつもりだったし。
広瀬もゲームをしたかったのなら嬉しい限りだ。
これで広瀬がまたしてもRPGの沼へと――
「うふふ」
余計なことを考えていると、横の少し離れた位置から広瀬の微笑みが聞こえてくる。
その笑いは俺に向けてだった。
『なに笑ってんだよ』
気になり即座にメッセージを飛ばす。
『いやー』
『浅野、カラオケを断ってまで私とゲームやりたいんだなーって思って』
『せっかく友達ができるチャンスだったのに』
『え』
確かにカラオケを断ってまでゲームをしたかったのは事実だけど、どうしてそんな考えになったのかが理解できない。
『私とゲームするためにカラオケ断ったんでしょ?』
『は』
初め見た時、広瀬が何を言っているのか分からなかったが、『私とゲームするため』なんて意味は一つしかない。
つまり、俺が広瀬とゲームをしたいからカラオケを断った、ということだろう。
『なわけねーだろ!』
『俺はテスト終わりの至高の時間をRPGに費やしたかっただけ!』
本当にとんでもない勘違いをしてくれたものだ。
『うん』
『そゆことにしてあげる』
『広瀬』
『さてはテスト終わりで浮かれてるな?』
『そんなことないよー?』
『ってか今思えばその理論だと広瀬もカラオケ断ったから俺とゲームしたかったってことになるぞ』
『しかも俺が断った後に』
『う』
『う?』
『うるさい』
『こら』
『今回はなんとしてでも逃がさんぞ』
『MMORPG万歳!』
嫌でも誤魔化すつもりらしい。
MMORPGの文字で俺を釣って話をすり替える作戦だろう。
そんな簡単な作戦に俺が引っかかるわけが――
『MMORPG万歳』
『よく言った』
『くっ、くそ』
『RPGの文字を見たら手が勝手に』
『どんまい』
俺たちはその後も、ゲームバカ丸出しのやり取りを繰り広げたのだった。
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