1話 A級美少女
スクールカースト――それはどこの学校にも存在する序列。
1軍2軍3軍。大体が顔かコミュ力によって決まる。
2年6組【浅野樹】、俺は4軍……5軍……よりも下の最下層のグループのさらに下。グループにすら属していないボッチ。
友人や親友、ましてや彼女なんて呼べる存在はまともにいない。
だが、友達が特段いないというわけでもない。俺にも少なからずの友達はいる。例えば。
「おはよう、浅野くん」
「おはよう、伊藤くん」
伊藤悠人くん……俺の数少ない友人の一人だ。
とは言っても、新学期の日、後ろの席というきっかけで話すようになった程度の仲……俗に言うよっ友。
伊藤くんも特別、距離を詰めてこようとはしないし、今のこの距離感がお互いにとって最適解なのだ。
だから、俺は空気を読んでそれに従うまで。
「おっはよー!」
教室内の生徒たちが気だるい雰囲気の中で、ほぼ義務的な挨拶を交わし合う中、一人の明るい声が入口方面から聞こえてきた。
「おはよ、早乙女さん」
「うん、おはよっ! 山田さん!」
「私、田中です……」
名前を間違えながらも数々の友人と挨拶を交わしながら、教室内で笑顔を振り撒いている天然な女の子【早乙女杏菜】。
綺麗な金色のロングヘアが特徴的で常にクラスの中心的存在の女の子……別名S級美少女。
別名というか、あまりの可憐さにクラス内の男子を中心として勝手に付けられた称号。それがS級美少女。
クラス男子の身内で噂されている程度なので、本人は知る由もない。
そしてうちのクラスにはもう一人S級美少女が存在する。それが――
「ユイちゃんもおはよ!」
「おはよ……杏菜ちゃん……」
早乙女さんと挨拶を交わした女の子【白鳥唯奈】。
ボブカットの銀髪が特徴的な女の子……彼女も早乙女さんと同じくS級美少女。
普段は無口で仲のいい人以外と話している姿を見たことがない。
「今日も相変わらずだねぇ~、ユイちゃんは他に友達は作らないの?」
「今はいい……杏菜ちゃんいるし……」
「えへへ~、でもそれなら美波も――」
「おは、杏菜。唯奈ちゃん」
「っ! 美波! おっはよ!」
「おはよ……美波ちゃん……」
そして最後に、S級美少女の会話に何食わぬ顔で参加した女の子【広瀬美波】。
少し青みがかった黒髪ミディアムヘアで、ちょっとばかし背丈が高いのが特徴的な女の子……彼女は【A級美少女】だ。
「ちょっ、近いって、杏菜」
「え~いいじゃん~、私たちの仲でしょ」
「ちょっと、唯奈ちゃん。杏菜止めるの手伝って」
「杏菜ちゃん……美波ちゃんが嫌がってる……」
「むぅー、ユイちゃんまで」
学校での三人は常に一緒にいる。
男子たちが作った謎の階級が本人たちの耳に届くことはない、とは言っても勝手にランク付けされるのは気分がいいものではないだろう。
でも、確かに俺の目から見ても、早乙女さん、白鳥さん、そして広瀬美波が一緒にいるところを見ていると、少しばかりだが見比べてしまう。
だからと言って、広瀬美波も二人に負けず劣らずの部分はあるわけで……というか、そもそも勝手にランク付けをされている時点で、それは男子たちの話題に上がっているということになる。つまり、広瀬美波も他の二人と同様に男子からモテていると言っても差し支えないだろう。
そんな美少女三人組の談笑を男子たちはこそこそ話のネタにして、チラチラと盗み聞きしている。
今日も俺はそんな彼女、彼らたちを横目で見ながら、スマホで好きなゲームの掲示板を眺めていた。
――ヴー。
家族以外まともに連絡先がない俺のスマホが震え、上から通知が表示された。
『今日ゲームやらない?』
それは【みなみ】という名前からのメッセージだった。
それを見た瞬間、即座に既読をつけ返信する。
『いいよ』
A級美少女の【広瀬美波】。そう、彼女は俺が唯一、仲のいい友達と呼べる存在だろう。
学校では話さず、こうしてLINEでやり取りするという何とも歪な関係だが。
『いつからできる?』
『もちろん帰ってすぐ』
『暇人だ』
『暇人です』
『認めるんだ』
『当たり前、俺からすればRPGは全てだから』
『なにそれほぼ労働じゃん』
『いや、ゲームは労働じゃないでしょ』
『娯楽でしょ』
『正論パンチ食らった』
『でも、あまりプロを舐めるなよワレ』
『ごめん』
『まあいいや』
『まあいいのかよ』
『とりあえず私も帰ったらすぐできるから』
『できる時また通話かけるんでよろ』
『おけ』
そうしてやり取りが終了すると、俺はスマホを閉まう。
基本的に広瀬とのメッセージ内でのやり取りは毎回こんな感じ。
本当にネット内の友達のような接し方だが広瀬は実際に同じ学校なのだ。
俺はおもむろに広瀬たちの方へ目を向ける。
「むぅー、美波。私たちといるのにスマホいじってる……」
「ああ、ごめんごめん」
「何見てたの?」
「ん……ちょっとした調べ事だよ」
少し間が空いて広瀬は答えて、上手く誤魔化した。
そしてその後は流れるように日常会話に戻っていく。
本当に切り替えだけは立派なことで。
広瀬は今の俺たちの関係を内密にしてくれている。
特に前もってそういう打ち合わせをしたわけではないが、お互いがそれを暗黙の了解として受け入れて、空気を読みあって、すり合わせる。
そもそも俺たちは逢瀬とか以前に、リアルで話したことすら一度もない。
LINEやゲームをするだけの関係、と思っていたのだが……。
広瀬が二人との会話中、一瞬だけこっちに向かって微笑みかけてきた。会釈とかはなくただ一瞬微笑むだけ。
一体俺に何を求めているのやら……。
「美波、どこ見てるの?」
「ん~、なんでもないよ。それより休日のことなんだけど――」
そう言うとまたしても何事もなかったかのように、話を再開した。
【A級美少女】こと【広瀬美波】は友達なのにリアルでは関わらないという不思議な関係の俺の唯一の仲のいい友人だ。
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