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第一次ニンジン革命

ターニャの父親が苦悩していた。



「パパーニャ、戦争始まるかもしれない言てるね。でも、あいつは嫌い過ぎるだから結婚は厳しよ。どうしたらいいか、あなた?」



ターニャの父、パパーニャ(生まれた時から、この名前だったのか少し気になるところだ)は、ターニャを政略結婚させようとしていた。



「ターニャの結婚が破棄されることで、戦争となれば間違いなくこの国は滅びるだろう。我々が、あの強大な国ヒュージニアに勝つ術はないのだよ」



そうパパーニャは言っていた。そこまで、重大な結婚を僕は止めてしまったのだ。



―――僕がいなくなってしまえば―――



そんなことまで考えてしまう。しかし、それでターニャが不幸になるのは僕にとっても堪え難い。パパーニャの覚悟まで踏みにじることにもなってしまう。



「ターニャは、私たち夫婦の宝なのだ。君、明日の朝にでもターニャを連れ去ってもらえないか?娘がいないとなれば、ヒュージニア国王もあきらめてくれるやもしれん」



その晩、僕はほとんど寝ることができなかった。ターニャの両親とこの国の人達を犠牲にして、僕たちが幸せになれるのだろうか?



朝になっても何一つ、解決することはない。食欲はなかったが、家族での朝食だからと僕は広間に向かっていた。



「食べて元気だすよ、あなた」



食べられるわけがない。この国の食料は全てヒュージニア国からの供給に頼っている。昨晩、パパーニャからそう聞いていたのだ。



―――たとえ、一人分の食料でも残しておきたい―――



ぼんやりと考えていると食事が運ばれて来る。



「今日はターニャも全部食べるよ。久しぶりだよ」



何が?と思ったが、並べられた食事を見て納得した。



またしても、錠剤とスープだけだったのだ。僕は怪我をして寝たきりのようなものだったから、錠剤とスープだけなのだと思い込んでいた。



しかし、そうではなかったのだ。この国では、これが普通の食事だったのだ。生きるのに必要な栄養を全てこのスープと錠剤だけで摂っているのだろうか?



―――そういえば、ターニャが錠剤を口にしているところを見たことがない―――



「ターニャ、君はなんでこっちの錠剤みたいなのは食べてなかったの?」



ターニャがなぜか照れて、下を向いている。予想外の反応に僕は動揺する。女性には聞いてはいけないことを、よりによってご両親の前で聞いてしまったのか?



ターニャの母、ママーニャが代わりに答えてくれる。



「この子はダイエットしていたのですよ。そんなことしても体壊すだけだと止めたんですけどね。この錠剤を食べないとお腹がすいてしょうがないはずですから」



ママーニャはそう言って笑っている。僕はその違和感にはっとする。



―――ターニャは錠剤を食べなくても平気だったのだ。では、なぜ食べる必要がある?―――



「ちょっと、この食事お借りします。ターニャ、君は今日も錠剤は止めておいた方がいいかもしれない」



そう言うと、僕は自分の分の食事を持って立ち上がった。これを調べれば、何かが解決するような気がする。僕は、自分の宇宙船に急いだ。



僕の勘は的中した。あの錠剤には死なない程度の毒、そして満腹中枢を刺激する成分が含まれていたのだ。要するに、腹が減らないように毒を飲んでいたのだ。



しかし、含まれている毒だけで死ぬことはない。あの錠剤をたくさん食べたとしても死ぬことはないのだ。2、3日も食べなければ毒は体内からは消える。



―――僕とターニャは少なくとも2、3日はあの錠剤を口にしていなかった―――



問題は人参だったのだ。人参に含まれる成分と、錠剤の毒が結合した時にだけ、初めて人を死に追いやるのだ。



戦争の兵器として、密かに栽培されていた人参はヒュージニア国には効かない。効くのは、この国だけだったのだ。



僕はパパーニャにかけあった。



「この国で作っている人参の出荷先はヒュージニアですね?そこでは人参が作れないのではないですか?」



パパーニャは、僕をなだめるように笑う。



「よくは知らないが、作れないんじゃないかな?ヒュージニアも食料をただでこの国に渡すわけにはいかないだろう?仕方なく人参と交換ということにしてくれているんだよ」



―――これではっきりした。この国とヒュージニアの立場は逆だったのだ―――



「お父様、僕とターニャはここに残って戦います」



この言葉が第一次人参革命の始まりとして、学校の教科書に載るのは4年後のことだった。



           了

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