誕生日の後
私は放電こそが愛情なのではないか?と思う。
何かをしてもらうだけで愛などと言うのは片腹痛い。
充電してもらっておいて使わない心など何の役に立つと言うのだ?
心は使えば使うほど、強くなる。そこに愛情が生まれてくるのである。
私は元部下を叱りつけていた。
「何たることだ。君、この責任はどうとってくれるのかね?」
「琴美さん、もういいじゃありませんか。僕はあなたと一緒にいたいんだ。二人でのんびり暮らしていきましょうよ」
「何を言っておるのだ?私にはまだ、やらなければならないことがある。君、離したまえ」
私は、このシミズと言う男に愛されている。一度は受け入れようとしたのだが、それがあまかった。
会社もない、このような場所に連れて来られて私にどうしろと言うのだ?
いくら、腹が減らないからと言われても仕事ができないのが苦痛で仕方がないのだ。
「お嬢さん、助太刀いたそう」
誰?と思う間もなかった。ぶつぶつ言いながら、老人が手をかざす。
彼の手から、光があふれ出したかと思うとシミズはいなくなってしまったのだ。
―――やりすぎなのでは?―――
言い争いをしていたのは事実だが、私の元部下だ。跡形もなく消し去ってしまうのはどうかと思う。
ただちにクレームをかけようと老人に歩み寄ると、彼は言う。
「悪霊じゃよ、あれは」
―――近づいてはいけない人だったか?―――
何を言いだすかと思えば、悪霊だと?私の部下に限って、そんなはずはない。ちょっと、お茶目をしただけではないか。
「おぬし、自分の状況が把握できとらんようじゃの」
「変わったことをおっしゃるご老人だ。しかし、何を言おうと私の部下を消したのは事実。次は法廷でお会いいたしましょう。覚悟なさるがいい」
「待ちなされ。あの男はまだちゃんとどこかにおるわい。だいたい法廷など、この世界のどこにもありゃせんよ」
どこかにシミズがいるのなら探さなきゃならない。私は老人の話で足を止めてはいたが、再び歩こうとした。
「待ちなさいと言っておるだろう。せっかちなお嬢さんじゃの。おぬし、この世界から出たいのじゃろ?」
私は振り返って、老人をまじまじと観察する。神道なのだろうか?
衣を着てはいるのだが、ショッキングピンクなのだ。初めて見た時に「ふざけるな」と言おうとしてタイミングを逸していたのだ。
―――駄目だ。いまいち信じがたい―――
何も言わずに再び立ち去ろうとした時だ。私はとんでもない事実を聞かされる。
「シミズじゃったかな?あやつがおぬしをここへ連れて来たのは会社のためなのじゃ。おぬしのことが好きでここへ連れて来たのではない」
「ふざけているのは格好だけにしておきたまえ、ご老人。何を証拠にそんなことを言っているのかね?」
「証拠なら、たくさんあるわい。まず道理が通っておらん。好かれているのなら、それを裏切った形で怨念となる。シミズはおぬしがレズかもしれないと知っただけじゃ」
「それはシミズの中で裏切りに値するのではないのかね?」
「おぬしが直接シミズを裏切ったわけではあるまい。怨念と言うには、理由が浅いとは思わんかの?」
確かにそれは少し気になっていたところだ。彼は理由のない嫉妬に狂うタイプではない。冷静で、調和を重んじるタイプなのだ。
―――好きだと言われて、私は舞い上がっていたのか?―――
何たる不覚。一番状況が飲み込めていなかったのは、この私だったのだ。
しかし、シミズが会社のために私をここへ連れて来たというのはどういうことだ?
私が会社にとってマイナスだというのか?しかも、私をここへ連れて来れるほどの怨念を持つほどに。
実にけしからん。許しがたい。彼がどう考えていようが、私は会社に戻らなくてはならないのだ。
「で、どうすればこの世界から抜け出せるのかね、ご老人?」
老人はなぜか背中を向ける。
「ワシの修業は厳しいぞ?おぬしについて来る自信がお有りかな?」
その背中には大きな文字で“愛”と書かれていたが、見ていないことにした。
ここを出る方法さえ聞き出せばいいのだ。余計なことは聞かず、最短で調子を合わせていれば良い。
「はい。覚悟はできております。何卒、よろしくお願いいたします」
「さすがは部長じゃ。礼儀に関しては問題なかろう。これから、おぬしが為すべきことを先に言っておこう」
もう何でもいい。帰れさえすれば良いのだ。
「はい。よろしくご教授願います」
「シミズの悪霊を惚れさせるのじゃ。これすなわち、恋愛道なり!」
―――あ、そうなんだ―――
受け流せ、時間の無駄だ。すでに、私は考えるのを止めていたのであった。
了