不便な安心
僕は一年の留学から日本に帰って来た。英語はだいぶわかるようにはなったし、イギリスでの友達もできた。
ただ一つ、心配だったのは僕のgirl friend(彼女)だった。メールや電話での連絡は欠かさなかったのだけど、一年もの間、会えなかったのだ。さぞ、寂しい思いをしていたに違いない。
僕は空港から直接、彼女の家に向かった。
「おかえり。どうだった?」
彼女は僕のために和食を用意して待ってくれていた。
「ああ、やっぱりご飯は和食に限るよ。一回パーティーでみんなにちらし寿司を作って食べたんだけどね。あれ以来だな」
僕が話を延々と続けていると彼女はあくびをし始めた。いつのまにか、十二時を過ぎていたのだ。
「そろそろ寝ようか?明日はアルバイトがあるって言ってたよね?」
僕は驚いた。二人でベッドへ横たわると、ほぼ同時に彼女は眠りについてしまったのだ。
僕は時差ぼけで目がさえてしまっている。しかも、久しぶりの再会に淡い期待も抱いていたのだ。まさか、先に寝てしまうなんて思いもよらなかった。
一応、迷ってみたのだが僕は彼女を起こしてしまうことにした。こればかりは仕方がない。僕は草食系男子などではないのだ。
ゆっくりと彼女へ手を伸ばしたその時、空中に文字が表示される。
「ログインパスワードを入力してください」
すっかり忘れていた。浮気防止プログラム。痴漢対策にもなるので、今ではほとんどの女性がこれを身につけている。
僕はパスワードを何度も入力しようとする。三度目のミスでロックがかかってしまう。二時間はパスワードを入れることすら出来なくなるのだ。
ようやく二時間が経ち、再挑戦しようとすると端の方に「パスワードを忘れた方へ」という表示がしてあるのに気付いた。
そういえば、そんな救済措置があったのだ。押してみると、表示が変わる。
「二人で初めて行ったデートは?」
僕はパスワード入力するのをあきらめた。