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テクニシャン・ジーロウ

やっぱり、いつだって頼りになるのは女性なんだね。



僕の依頼主は、心を失っている、と言うより奪われてしまったようだ。琴美というレディが二人になって、今それを取り返そうと奮闘してくれているのだ。



どうやっているのかはわからないけれど、彼女は二人に分かれて行動できるらしい。



忍者映画では分身の術はもはや定番だから、見飽きているけれど、実際に見るのは僕も初めてだ。



もしかしたら、大きなカエルも出せるのかもしれないね。でも、僕はカエルが嫌いで忍者になるのは諦めたタイプだから、できれば出して欲しくはないよね。



それに比べて、彼。大きな黒ネコのような姿は見ていて惚れぼれするね。



何かに操られているのか、つながっているのかはっきりしないけど、彼もついでに助けてあげようと思う。



つながっている誰かを必死にかばっているようだけど、彼は何か勘違いしているようだ。



僕には見えている。以前に僕が仕掛けたログインシステムが、動かないガールについている。



黒ネコ氏にも、古いバージョンの感情送信システム“ハートフル”が付けられているのもね。



別れさせ屋は、それに関してのプロだから当然だ。自分でカスタムしたこのメガネをかければ、一目瞭然さ。



でも、それがわかっただけではまだ何の役にも立っていない。さて、どうしたもんか?



琴美嬢が明らかにスタミナ切れを始めている。しかし、一時撤退というのも有り得ない。今、ガールが元に戻れなければ、黒ネコ氏も時間的にアウトだろう。



このままでは、僕たちが全面的に敗北してしまうのだ。それだけは避けなくては――。



「おじさん、その繋がっている子のためなら何でも出来るかい?」



僕は黒ネコ氏にそう話し掛ける。



「あぁ、約束しよう。私はこの子の無事を保証してくれるのなら、なんだってする覚悟はある」



僕は高らかに笑い、黒ネコに無茶だとわかっている提案をしてみる。



「じゃあ、そこに寝ている人形。首をひねってみてよ」



僕がそう言った時の皆はとてもいい表情を見せてくれたよ。何も言わなくても、この男は何を言いだすんだ?と聞こえてくるかのようだったね。



「そ、それは人形じゃないんだ。今は気を失っているだけでちゃんと心臓も動いている」



黒ネコはだいぶまじめな性格らしい。この身体は生きていると顔を強ばらせて、なんとか僕に思い止まらせようとしてくれている。



「わかっているさ。だから、今のうちに息の根を止めてもらいたいんだよ」



僕は本気だと、わかってもらわないといけないのさ。特に、ガールそっくりのウラガエシはね。



それを聞いていた彼女が琴美嬢を指差して、僕に叫ぶ。



「ジーロウ、おまえ頭がどうにかしちまったのか?この女があたしを捕まえれば、それは元に戻るんだぞ」



まったく、良い慌てっぷりだ。でも、まだ琴美嬢に隙を見せてはいないのはさすがだと言えるね。



「僕はこの子の依頼を失敗したんだ。証拠隠滅のチャンスじゃないか。それに琴美さんには悪いが、君は一生捕まえられないよ。それを待つほど、僕はのんびりしていられないのさ」



僕は、手の平で黒ネコ氏に、さあ、とうながす。



「ウラガエシのおまえがこの身体を手に入れれば、より力を得るのはわかっている。そうなるよりはましってわけさ」



黒ネコ氏が歩き出したと同時に、彼女は琴美嬢を振り切る。



「やめろ。それはあたしの体だ」



彼女が一直線に向かって来る。これじゃ、まるで僕たちが悪役みたいだけど、これはこれで面白いよね。



脱け殻となったガールを守ろうと勢い良く走って来たウラガエシが何かにぶつかった。



「ログ イ ンパ スワードを 入 れてください」



彼女がぶつかったのはガールの見えない壁。さらに、ウラガエシの素早かった動きが突然スローモーションに変わる。



「あ、その周辺はウィルスチェック中だから“重い”かもね。気を付けるんだよ」



何が起こった?どうすれば、抜け出せる?誰の仕業だ?彼女の思考が増えれば増えるほど動きは鈍くなっていくようになる。



「ぐ ぬう。おま え――」



琴美嬢はその隙を逃さなかった。多少、動きが遅くなっても一つの物事に集中している彼女が負けるはずはない。



ウラガエシの両手を片方ずつ、二人で持って奪われた心をひっぺがす。



黒ネコ氏には何が起こっているのかわからないんだろうね。僕は、立ち尽くす彼の肩に軽く手を置く。



「協力ありがとう、おじさん。あなたのさっきの想いはちゃんと送信されているはずだ」



黒ネコ氏に付けられていたのは、ハートフルシステム。元々は、お互いがすれ違うようになってしまった夫婦の絆を修復するために作られたものだ。



だから、怒りや憎しみといったネガティブな感情は送信されない。黒ネコ氏のように感情を殺しているよりは、少しでも相手のことを考えた方が良いってことさ。



特に重大な選択を迫られると、どうやったって考える。本来は大事な人と、他人の命を天秤にかけられるようなことは出来ないけど、追い詰めれるとね――。



相手の大切さを改めて思い知ることになるんだ。自分が罪を背負ってでも助けたい人っているんだよね。



少し騙したようで申し訳ないけど、なんか期限時間があと少しだったようだから仕方がなかったんだよ。



今、彼は放心しているようだから、後でゆっくり説明させてもらおう。僕も彼に聞きたいことがいくつかあるしね。



ウラガエシも捕まえることが出来たし、一石二鳥。彼女からは、僕そっくりの男のことも聞かなくてはいけない。



どういう経緯で彼らは現れたのか?僕を捕まえて、何をするつもりだったのか?



ウラガエシが本体の魂だけでなく身体までも取り込めば、身体能力が飛躍的に向上するのはわかっている。しかし、それが何になる?



――まさかとは思うが、ウラがオモテを喰い尽くそうとでもしているのか?



「あ、ジーロウさん。この間はありがとうございました。今度、改めてお礼をさせてくださいね」



心を取り戻したガールが目を覚ましたようだ。やけに好意的なガールの態度が気に障ったのか、ワイルドフラワーの視線が背中をえぐるように突き刺さったよ。



スパイス程度の嫉妬は、恋には必要不可欠だ。そして、人生に情熱を持つためには恋もまた必要不可欠。ワイルドフラワーもよくわかってくれているみたいだよ。



「ジーロウ、行くわよ。そっち側にはもう用はないでしょ?あの捕まえた方のそっくりさんに色々聞かないと」



「待って。まだ終わっていないわ」



そこにはナイフを握り締めたレディが立っていたんだ。



「そんなものは早いとこ、しまっておいた方がいいね、お嬢さん。いったい、何が終わっていないと言うのかな?」



彼女はあっさりとナイフを僕に差し出した。そして、ガールを指差して言ったんだ。



「私の名前は楓。あのウラが動けない内に、その子に背中から心臓を刺すよう言ってもらえる?それでウラは消滅するわ」



正直言って、驚いたよ。いくら女の子の頼みでも、素直に聞けない場合もあるんだね。



普通、心臓を刺されたら人は死んでしまうからね。いくら、悪人と言えども、殺してはいけないと思うわけだよ。



しかし、楓というレディには張り詰めた空気が漂っている。どうやら、だいぶ焦っているらしい。



「まずはそこのカフェでティータイムはどうだい?話せば分かり合えることだってあると思うんだ」



「あなたが信用できないって言うのなら、それでも構わない。でも、手は出さないで。邪魔をするのなら容赦しないわよ」



手を出さないで。なんて素敵な言葉だろう。



僕の頭は、すでにどうすれば手を出せるのかを考え始めていた。



          続く

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