表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/23

難関シミズ

「私には、琴美さんが必要なんだ。どうしてわかってくれないのですか?」



額に血管を浮かせて、叫んでいる男がいる。華奢ではあるが、私の元部下は気迫に満ちている。



「わからん奴じゃな、シミズとやら。彼女は、わしのものじゃと言うておろうが」



ショッキングピンクの衣に身を包み、なぜかシミズに負けじと叫ぶ老人、想雲。一応、私の師匠らしい。



私には、時間があまり残されていない。向こうへ帰れる門というのが、もう少しで閉じてしまうらしいのだ。修業も八割で切り上げるしかなかった。



私を帰らせないため、シミズに引き止められるのはわかっていた。しかし・・・。



―――ただの口喧嘩じゃないか。私の修業は何だったのだ?―――



さっきから、私など関係なしに言い争いを続ける二人をよそに、私は立ちつくしていた。



怪しげな妖術を操り、我が行く手を阻むシミズ(元部下)。そして、それを気功術的な力で対抗する美しき退魔士、琴美(元部長)



―――そんな切なくも美しい戦いではなかったのか?―――



私の予想を大胆に裏切り、二人は不毛な口論を続けている。



「だからっ。爺さんは黙っていてくれ。俺は部長に、いや琴美さんに話があるんだ」



「いや、それはわしを通してもらわんとのう。琴美ちゃんは、貴様とは話しとうないんじゃから」



―――私の勘違いだった、ようだな―――



こんな、ただの言い争いに、私はショッキングピンクの衣を着て、ついて来ている。つまりは爺さんとお揃いの衣だ。



ひたすらに、わしを信じろ、それで修業の成果が発揮できる、と想雲が言うから着てはみたものの・・・。



騙されて、この有様だ。いつから私は、爺さんのものとなったのか?



これほどの後悔と虚しさは今までに経験したことはあるまい。出来るのならば、今すぐ消えて無くなりたい。



―――私は何を期待していたのだ?―――



「仕方がありませんね」



シミズがゆっくり歩いて、想雲に近づいて来る。師匠は手をかざし、待ち構える。いつか、やったようにシミズを消し去ってしまうつもりなのだろう。



―――このまま爺さんの言いなりになっていても良いのであろうか?―――



「同じ手が二度通用するほど、私は甘くありませんよ」



「琴美っ。逃げるんじゃ」



私がボーッとしている間に、シミズが目の前に立っている。その向こうでは想雲が倒れている。何が起こったのか、全く見ていなかった。



「琴美さん、僕と一緒に暮らしましょう。必ず幸せにしてみせますから」



シミズはそう言い、私の手を握る。しかし、今となってはどうでも良いことだ。



「ほお。君が私をどうやって幸せにすると言うのかね?企画書を見せたまえ」



「そ、それはまだ・・・」



さっきまでの勢いは嘘のようにシミズは口を閉ざしてしまう。



―――どいつもこいつも信じられん―――



「い、いかん。奴の思い通りになるんじゃない。自分を信じるのじゃ。そして、感謝じゃ」



想雲の声にはっとしたが、すでに遅かった。目の前でシミズが笑みを浮かべている。



「あなたに人を信じることなんて出来はしない。そうでしょう、琴美部長?」



―――身動きがとれない。こいつ、これが本性なのか?―――



「どうやら爺さん、あんた半分欠けているようだな?それでよくラブマスターなんて言えたもんだ」



「ふん、関係ないわ。例え、わしが全てを説明できていなくとも、その子はやると決めたらやる」



半分欠けているやら、全てを説明できないやら、私には何のことだかさっぱりだ。しかし。



―――私は元の世界に帰ると決めたのだ。今は師匠の教えを信じるしかない―――



私は、徐々に動けなくなった身体に気合いを入れ、声を振り絞る。



「想雲師匠。確か、もう一人の自分が見ていると意識する。そうでしたな?」



「そうじゃ、感謝も忘れるでないぞ」



最終段階の修業。やむなく途中で切り上げたのではなかった。



ショッキングピンクの衣だからと言って恥ずべきではない。自分を恥じた時点で腕は縮こまる。


―――これすなわち、キャッカンシー―――



たとえ、子供であろうと言い分はある。こちらの希望を伝え、頼れば必ず応えてくれるもの。


―――これすなわち、ジンジリョク―――



―――そして、それにカンシャが加われば、最終奥義は完成する―――



師匠は言っていた。おぬしのようなショシカンテツの力を持つものは必ずや、奥義を習得できる。おぬしほど、うってつけの継承者はおらんのじゃ、と。



シミズの呪縛が解け、私の身体が再び自由を取り戻す。



「さあ、シミズ君。どこからでもかかって来たまえ」



期待通りの展開に、私は胸が高鳴る想いだった。これだ。この死闘の末、私は勝利と目的達成を収めることができるのだ。



しかし、シミズは一向にかかって来ない。そればかりか、タバコを取り出し、火を付けている。



―――これは余裕なのか?それとも、あきらめたのか?―――



「き、きみ。どういうつもりなのかね?態度がなっとらんよ」



シミズは、ため息と共に大きく煙を吐き出す。心なしか、少し笑っているようにも見える。



「琴美さん、別にどこへなりと行ってもらっても構いませんよ。どうせ、あなたはもう、目的地にはたどり着けないのですから」



「どういうことかね?説明してくれたまえ」



―――ついさっきまで、私を動けなくしておいて、なぜ?―――



「おぬし、道をふさぎおったな」


シミズは背後からの声に振り返る。



「爺さん、まだいたのか。もう戻れないんだから、あんたはもう必要ないんだよ。これからは、琴美さんと二人っきりの世界になるんだからな」



このシミズの余裕。おそらく、道がふさがれたのは本当なのだろう。もう、時間を稼ぐ必要はないのだ。



だが、我が師匠想雲はまだあきらめてはいない。



「琴美、あきらめるのはまだ早い。自分を信じよ。さすれば、おまえ自身が必ず助けてくれるはずじゃ」



そうだ。カンシャで奥義は完成する。しかし、この状況で何に感謝しろと言うのか?



「琴美さん、あなたが戻ってもまた同じ過ちを繰り返すだけじゃないですか?」



「シミズとやら。それはおぬしの我儘じゃ、ただ人の足を引っ張っているだけではないかの?」



またしても、二人のいがみ合いが続く。どちらの言い分も理解はできるのだが・・・。



やり方は間違っているが、シミズは私のために自害した。師匠は、報酬もないのに稽古をつけてくれた。



―――二人の気持ちに、報いなければ―――



私になら、できるはずだ。そう思った時だった。



―――私がもう一人?―――



我が目の前に立っているのは、自分と瓜二つの女性だったのだ。




          続く

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ