my father
誰かと助け合うことで、人は喜びを得ることができます。
人はそのために生まれてきたのではないでしょうか?
助けることができないとわかった時。関わるだけで相手の負担になっていると気付いた時。
そこにどうすれば、希望を見いだすことができるのでしょう?
―――――My father――――
僕が五歳の時でした。僕と母さんを守るため、父さんは警察に捕まりました。
リトルと呼ばれる僕の同胞は、生れ付き虚弱ですぐに死んでしまいます。
叱られただけ、誰かの怒りを感じただけでもストレスで死んでしまうのです。
いたずらはし放題、言葉使いも最悪。人の心を平気で傷つける子供でした。
そんな僕を母さんは大事に育て、父さんはそれを見守ってくれました。
「どうして、父さんは警察に捕まったままなんだよ?父さんが悪かったわけじゃない。僕をテレビに出そうとする奴らとそれを止めなかった警察が悪いんじゃないか」
「お父さんはあなたが元気に育つことだけを願っているのよ。争い事は望んでいないはずだわ。お願いだから、わかってちょうだい、晴十郎」
母さんはわかっていない。父さんが一番に願っていたのは母さんの幸せなのです。
確かに僕が生きることが母さんの幸せになる。結果としては同じなのかもしれない。それがわかっているから、僕にはそれ以上、何も言えませんでした。
それでも父さんだけが一人捕まっているのは釈然としないのです。
やり場のない気持ちを落ち着かせるために、僕は執拗に身体を鍛えました。
そして、十五歳になった僕は決心しました。
「母さん、僕が父さんを助けて来るよ」
十五歳とは言っても、普通の人間とは成長のスピードが違います。小学校からは学校に通ったが、卒業までに三年しかかかりませんでした。
リトルは、心身共に成長するスピードが早いのです。
すでに今年で大学も卒業間近。来年からは国の研究所に通うことになっています。
警察を相手にするなら、働き始めてからだと周りに迷惑がかかってしまいます。
「父さんはあなたに助けてもらおうなんて思っていないのよ。立派に社会に出ることが、父さんの気持ちに答えることじゃないかしら」
「母さん、そんなことはわかっているんだよ。父さんを助けたいと思うのは、この僕なんだ。父さんの犠牲の上に成り立つ幸せには、僕はもう耐えられないんだ」
僕がリトルだと思い出したのか、一瞬悲しそうな顔をした母さんが、笑顔を僕に向ける。
「強くなったわね、晴十郎。お母さんはあなたが心配でしょうがないの。お父さんが居なくなって、あなたにまで居なくなられたらお母さんにはまともに生きていける自信がなかったの。母さんも強くならないとね」
母さんは僕をここまで育ててくれました。でも、リトルがどうして死ぬのかなんて母さんにもわかっていません。
きっと涙を見せるだけでも僕が死ぬかもしれないと心配しているのです。
母さんが少しでも心配しないで済むように、僕は言いました。
「涙で僕は死なないよ。母さんが父さんを心配しているのもわかってる。大丈夫、無理はしないから」
母さんの涙はすでにあふれてしまっていたけれど、それでもまだ気丈には振る舞っていました。僕に心配をかけさせないためでしょう。
「母さんのわがままであなたを苦しめてたのね。弱い母さんを許してちょうだい。お父さんにも謝らないとね。でも、もう大丈夫。あなたがそこまで言うのなら行ってきなさい。父さんも喜ぶはずだわ」
唯一、心配だった母さんの決心を見届けると僕はすぐに出かけました。
場合によっては、武力で解決させることもあるかもしれないと覚悟をしていました。
一度に大勢は相手にできないかもしれませんが、五人ぐらいまでならなんとかなると思っていました。
運動能力は普通の人間より、はるかに優れているのです。
―――たとえリトルであっても殺されることがあるかもしれない―――
刑務所の門をくぐる時。今までにないほどの緊張が、僕に覆いかぶさっていました。
リトルの外見は非常に特徴的で、一目ではっきりと普通の人間とは違うことがわかります。
髪も肌も真っ白なのです。瞳は薄紫色で、この目を母はよく誉めてくれました。
刑務所の職員方にもそれがわかっていたのでしょう。僕を一目見るなり、親切に父の所まで案内してくださったのです。
すっかり拍子抜けした僕は、浮き足立っていました。今日から、また父さんと一緒に暮らすことで頭がいっぱいでした。
しかし、僕を見るなり父さんは言ったのです。
「晴十郎か?帰れ。母さんの元へ戻るんだ」
あまりのショックに、僕は何も考えられなくなりました。父さんが僕を説得します。
「私は怒りを解放させることを覚えてしまったんだ。それが心地よいことだと感じてしまった。しかも、意識が薄れて自分でもコントロールできなくなる。私は、おまえと母さんを傷つけたくはない。お願いだ。私のことは忘れて帰ってくれ」
僕は父さんの言葉から、何かを感じ取りました。愛情の中に隠された何かを。
「お、おいっ。晴十郎。大丈夫か?誰か医者を呼んでくれ。早く、医者を」
僕は消えいく意識の中で、父さんに抱き抱えられているのを感じていました。
続く