54.帰還
「えーと、改めまして。一体何があったのですか?」
受付嬢はいつまでもカウンターで話していると目立ってしまうということで、会議室に移動した後、事情を問いかけてくる。
ちなみにレミッサの座るところにはボロ切れが沢山敷いてあり、ソファーを汚さないようにしている。
「実は――――」
ルカは古代遺跡で起こった出来事を説明した。
「なるほど……まずはご無事……? に帰還されて良かったです」
ご無事に疑問符が付いてしまったのは血塗れなレミッサのせいだろう。
「ごめんなさい。そういう訳で竜の腹の中にあった認識タグくらいしか持ち帰れなくて、依頼を達成することは出来ませんでした」
「いえ! 今回は不測の事態が発生していますので仕方がないですよ。それに炎竜を討伐してくださったので被害を未然に防げました!」
ルカの言葉に受付嬢はブンブンと両手を振った。
ルカたちに期待されていたのは、異変の調査と行方不明者の捜索だ。後者については、レミッサが炎竜の腹から引き摺り出した認識タグがそれに当たるかもしれないが、前者については比較的浅い場所から未発見エリアに落下してしまった。そして、炎竜を討伐して脱出後、他の場所を確認せず帰還したため十分調査できたとは言えない。
しかし、町から僅か一日の距離に炎竜がいたという事実は驚愕だ。もし炎竜が腹を空かしたならば、襲われるのはこの街であったかも知れないのだから。その場合、この町は滅亡する運命しか残されていなかったであろう。
「一先ず皆様お疲れ様でした。後はこちらで認識タグの照合を進めさせて頂きます」
発見された認識タグは胃酸によって溶けかけているものもあった。随分前に喰われた人物のものも含まれているだろう。
「それで、もしも行方不明者がまだいるようでしたら、改めて捜索隊を出したいと思います。それは所属のハンターに依頼しますので勇者様方への依頼はこれで完了です」
異変の根幹とも考えられる炎竜は既に討伐されている。そのため危険度は下がったとの判断だ。
「分かりました」
ルカは出してもらっていたお茶を飲み干すと、依頼の報酬を受け取り、仲間と共に会議室を後にした。
●○●○●
「うぇー全身カピカピですー」
「だからまったくもう、あんな無茶苦茶を――――」
レミッサが気持ち悪そうだ。隣でアイシャがぶつぶつ苦言を言っている。
神官服の白い部分はもれなくくすんだ赤色になっており、彼女の美しくて長い白に近い金髪も、もれなくドス黒く染まっている。
「洗っても落ちないんじゃない、それ?」
「大根買って帰りますー」
「大根?」
何でも、血の付いたものを洗濯するときは、大根をおろしたもので洗うと落ちるらしい。医療現場にも精通しているレミッサの豆知識だとか。
しかし、レミッサが八百屋に行くのは必至で止めた。驚かせてしまうから、代わりにルカが買ってくることにする。
さっきから周囲からの目が痛い。
レミッサは気にしていないようだが、血塗れの神官と薄汚れた一団に
向け何事だ? と訝しむ目線が送られている。
●○●○●
パンパン――――
「うーん、ちょっとピンクっぽいですけど、まあいいでしょー」
宿の裏手で洗濯をしているレミッサ。
流石の大根もここまで血だらけの衣類には勝てなかったようだ。
ちなみに彼女の髪は無事に元の美しいものに戻っている。
「レミッサ、きれいに落ちた?」
宿からルカが出てくる。
「はい! ちょっとピンクっぽい気もしますがー」
「うーん。確かにちょっとピンクぽい気も……大丈夫? 血の匂いに誘われて獣が寄ってきたりしない?」
「クンクン。大丈夫じゃないですか? 匂いがしても大根です。それに手が限界ですー水つべたーい」
「大根臭……それはそれで……しっかり濯ぐんだよ?」
血の匂いがする聖女。大根臭い聖女。どちらも何か嫌だ。
「干したら夕食行くよ」
「いっぱい頑張りましたからね! 今日はごちそうです!」
道中の魔石や素材は放置してきてしまったが、最後の炎竜の魔石と素材は持ち帰ることが出来た。竜の素材はとても珍しく、とても良い臨時収入になったのであった。
●○●○●
――――明けて翌日。
今日は完全に休養日としたため、ちょっと遅めの朝食を取っているルカとアイシャとバルドの三人。きっとレミッサはまだ夢の中だ。
「あー昨日は疲れたー。まだ疲れが抜けない……鍛えれば何とかなるものなのかなー」
「勇者魔法連発してたもんなー」
ルカが食後のテーブルに突っ伏す。
バルドが食後のコーヒーを飲みながら目線でお疲れさんと言っている。
「私も腕パンパンよー。一度で手持ちの矢筒の中身を全部撃ち尽くすなんて思わなかったわ」
クルクルと肩を回すアイシャ。
「でも倒せたんだから良かったじゃないか」
「あんたは元気そうね? 体力お化け」
「うっせーお前こそ鍛錬が足りないんじゃないか?」
アイシャの言うとおりバルドはあまり疲れは見えない。炎竜との戦いの後は装備含めてかなりボロボロだったのだが。
「なんですってー」
「はいはい、そこまでそこまで」
ルカが気怠げに割って入る。
バルドとアイシャは仲が良いやら悪いやら、ちょいちょい喧嘩する。その度に止めるのはルカだ。
「「こいつがよー」」
「はいはい、今日くらいゆっくりしようよー」
ルカは再びテーブルに突っ伏した。
●○●○●
「お客さん、お手紙届きましたよ」
「ありがとう。お手伝い偉いね」
宿の一階で駄弁っていると、五才くらいの宿の娘さんが手紙を渡してきた。こうして度々お手伝いをしている。
「えへへ」
手紙を受け取り頭を撫でると、にぱっと嬉しそうに笑い、女将さんのところにパタパタと走って行った。
「んー、どこから?」
空になっていたカップを傾け、空になっていることに気づきテーブルに戻したバルドが聞いてくる。
「エレオノーラ様からだ」
「姫様から?」
「フェルティラ王国の?」
「そう」
早速封蝋を開け便箋を取り出すと、きれいな筆跡でこう書かれていた。
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ルカさん
お元気ですか?
いつも皆さんのご活躍を耳にする度にとても嬉しく思っています。
さて、この度筆を取りました理由ですが。
先日、我が国の王であり、私の父でもあるアルフォンス王が腰を痛めまして、起き上がれなくなってしまいました。
医師によれば安静にしていれば治るとのことでしたが、何を血迷ったのか、良い機会だから私に王位を譲ると宣われました。
何が良い機会だか全くこれっぽっちも分かりませんが、私が女王の位に付くことが正式に決まってしまいました。
つきましては、お忙しいところ大変申し訳ありませんが、戴冠式への出席をお願い致します。
エレオノーラ
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「……。何か怒ってない? この手紙?」
「怒ってると思うわ……何か感じる」
「ギックリ腰かな? あれ痛いらしいな……父ちゃんも起き上がれなくなってた」
横から見ていたアイシャが手紙からドス黒い何かを感じると言い。
バルドは動けなくなっていた父を思い出していた。
という訳で次の目的地はフェルティラ王国の王都に決まったのであった。
ちなみにレミッサはまだ起きてきていない。
次回更新は6/7予定です。




