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勇者の手紙  作者: NoKKcca
第五章
53/71

51.ダンジョン

 ――――ダンジョン。


 ダンジョンとは古代の遺跡や深い森などに瘴気が溜まり、魔物や魔獣の巣窟になっている場所を指す。そういった場所は総じて道が迷路のように入り組んでおり、一度入ったら出てこれないような地形になっている。

 また、ダンジョンの最深部には瘴気溜りの中心となる大型の魔物・魔獣が存在し、それを倒さない限り瘴気は集まり続ける。そして、その瘴気が新たな魔物や魔獣を生み出すのだ。

 そのため、一般的な瘴気溜りと同様に定期的な討伐が必要なことに加え、ボスを倒しダンジョンを解放することが最終的な目標になる。

 一方で、こういった場所には古代の宝や、貴重な素材など一攫千金を狙えるものがあることが多く、ハンターたちを引きつけて止まない側面もある。但し、戦闘の他にマッピング、物資の管理など多くの知識と経験が必要なため、挑戦できるのはベテランハンターに限られるのだが。


 ――――ある昼下がりのハンターギルド。


「帰ってこない……?」

「はい、通常依頼の討伐なのでそれほど深くは潜っていないと思うのですが……」


 眉間にシワを寄せて受付嬢が心配そうに言う。

 依頼には緊急と通常の二種類がある。

 緊急依頼は突発的に現れた脅威度の高い魔物や魔獣の討伐、災害時の緊急支援など、情報がまだ揃っていないが早急に対処が必要な内容が該当する。

 一方で通常依頼というのは、魔物や魔獣の定期的な間引きや、常時ニーズのある素材の採取などがこれに当たる。(いづ)れも予めギルド側でも難易度などが見通せており、背伸びをしなければ比較的安全に完遂することができる内容だ。


「三組……いずれも実力のあるパーティーです。最後のパーティーに関しては、前二組の捜索に向かってもらったのですが帰らずで……それが一週間以上前になります」

「何か不足の事態が起きたのでしょうか……?」

「ギルド側でもそう考えております。しかし、ギルドに所属しているベテランハンターの数は()ほど多くなく……」


 ここはコーペランテ諸国連合の中央付近に位置する、古代遺跡が点在する地域だ。どちらかと言えば観光地であり、比較的安全な地域と言える。

 そのため、所属しているハンターの数も限られており対応に苦慮しているようであった。


「軍に応援を頼むにしても状況が分からなければ頼むことも出来ず……かといって、このまま五月雨に人員を送るのも危険だと判断しまして、今回、勇者様に指名依頼を出させて頂くことになりました」

「分かりました。今分かっている限りの情報をください」


 情報をまとめるとこうだ。

 ・半月前二組のパーティーが依頼を受けダンジョンに出発

 ・通常一週間も経てば帰還するが、二週間経っても帰らないことを不審に思ったギルドが捜索のためもう一組を派遣

 ・最後の一組も一週間以上経った今も帰っていない

 ダンジョンについては、この町から徒歩で二日ほどの場所にある古代遺跡。最深部に辿り着いた者は未だおらず、ボスとなっている魔物・魔獣は不明。但し入り口から中程までは地図が作られており、魔石や魔獣由来の素材を手に入れることができる良い狩り場となっていて、道を外れなければ比較的安全とのことであった。


    ●○●○●


「――――という訳なんだ」


 ルカはメンバーにギルドで聞いた話を伝えた。


「古代遺跡で行方不明ねー、欲を出して罠にでも掛かったんじゃないの?」


 アイシャの言葉にルカは首を振る。


「うーんどうだろ? ベテランハンターは堅実だからこそ生き残っている分けだし。それに三組とも全員戻らないのはおかしいよ」


 ハンターという仕事はピンキリではあるが、ハンターだけで生計を立てているようなベテランは総じて慎重だ。勇気は必要だが蛮勇は人を殺す。自分たちの力量をギリギリ越えない範囲で活動することができるのがベテランである所以(ゆえん)だ。


「とにかく、内部に変わったことがないかの確認と、可能であれば人員の救出がギルドの依頼だから、遺跡に行ってみよう」

「おう!」

「分かったわ」

「はーい」


 勇者パーティーは物資を整えダンジョンである古代遺跡に向かった。


    ●○●○●


 ――――森を進むこと二日後。


 ここはルイナス遺跡。およそ二千年前に栄えたコーペランテ諸国連合が一つの大国であった古い時代の遺跡だ。

 巨大な岩山の内部に作られたこの遺跡は、古代の軍事施設であったのではないかと言われている。内部の状態は比較的良く、レリーフや壁画などを見ることが出来る。但し構造が迷路のように複雑で、全体像は未だ見えておらず、近年も新たな道が見つかるなど発見が続いてる。しかし、内部はダンジョン化しており、魔物や魔獣の巣窟となっていることから全貌解明(ぜんぼうかいめい)には長い時間が掛かると見られている。


「ここがルイナス遺跡……大きい石柱だな」


 ルカの視線の先には遺跡の入り口がある。入り口には等間隔に並べられた長大な円柱状の石柱がずらりと並んでおり、その一部は風化し崩れている。


「おいルカ! こっち! これ戦闘の跡じゃないか?」


 バルドが手招きをした。

 遺跡の入り口を挟んで向こう側、石柱などが倒れてる一角に焼け焦げた跡があった。


「比較的新しそうね。先に来たパーティーが何かと戦ったのかしら?」


 戦闘痕をしゃがみ込んで見ていたアイシャが首だけ振り返って言う。


「そうかもしれないね……とりあえず軽く周囲を見たら遺跡に入ろうか」


 一先ず周囲を軽く見て回った結果、行方不明者に繋がりそうな物としては、折れた剣が一本茂みに落ちていた位だった。そのため、一行は剣の特徴だけ記録して遺跡内に向かった。


    ●○●○●


「皆は遺跡に入ったことある?」


 ルカが皆に尋ねる。


「いや」

「いーえ」


 バルドとレミッサは入ったことがないようだ。


「アイシャは?」

「私はダンジョン化した遺跡は初めてだけど、遺跡は入ったことはあるわ。エルフの里にもあるの」


 アイシャは自慢げに胸を張った。


「それじゃあ、アイシャ。遺跡で気をつけた方がいいことってある?」

「そうねー、遺跡によるけれど罠には気をつけなきゃいけないわ。天井が降ってきたり、落とし穴だったり色々あるから」

「戦いながらだと危ないな……」

「大丈夫よ。罠は魔法で分かるから。それに地図もあるし。今回は遺跡の探索が目的じゃないでしょ? 地図にある範囲を探して一旦報告に戻りましょ?」

「そうだね。僕らまで遭難しちゃ意味がないし」


 アイシャの提案に頷く。

 方針を決めた一行は地図を頼りに遺跡の中に入っていった。


    ●○●○●


 ――――遺跡内部。


「この辺は明かりがあるんですねー」


 レミッサが壁に埋め込まれ光っている魔道具を指差す。


「二千年前に取り付けられたものらしいけど、魔力を流せばまだ使えるらしいよ。凄いね魔道具って」


 ルカが感心している。


「視界が確保されてるのは助かるな。よっと」


 バルドが崩れた石柱を飛び越えながら振り返る。


「ちょっとあんまり先に行かないでよ。地図あるけど見つかってない罠あるかもしれないんだからー」


 アイシャが先頭を行くバルドに注意する。


「わりぃ、わりぃ」


 しばらく代わり映えのない景色が続く通路を進むと、少し開けたホールのような場所に着いた。

 ここまではハンターが頻繁に訪れるため、魔物や魔獣との戦闘はほとんどなく進んで来れた。


「これは……まだ新しい。行方不明のパーティーのものかもしれないね」


 壁際にまだ新しい焚き火の残骸など、野営の後が残っていた。


「ここまでは無事に来ているみたいね」


 転がっていた枝で残骸をつつきながらアイシャが言う。


「僕らも少し休憩しようか」

「さんせーです」

「そうね、ここから分かれ道になっているみたいだし。少し休んでいきましょうか」


 ルカたちもここで一旦休憩することにした。

 車座に腰を下ろし軽食を口にする。


「アイシャ。この先ってどうなってるの?」


 地図を持つアイシャにルカが尋ねる。


「道は三つあるわ。でもそのうち一本は少し行ったところで通れなくなってるみたい。残り二本が更に奧へと通じる道ね」


 地図上を指で辿りながら答える。


「うーん……それじゃあ念のため通れない道を確認してから奧に行こうか」

「そうね、念のため地図の範囲は確認していきましょ」


 小休止を終え再び歩き出す。

 ホールから左に伸びた道は所々崩れて狭くなっており、五分ほど進むと完全に崩れて通れなくなっていた。


「この道はここまでね。戻りましょうか?」


 手元の地図にチェックを入れるアイシャ。

 踵を返そうとしたその時。


 ミシッ、ガラガラガラ――――


「「「「!!」」」」


 四人の足下が突然崩れ、下の階層に落下した。

 砂埃が舞う。一面真っ白だ。


「ゲホゲホ、皆大丈夫?」


 ルカが声を掛ける。


「大丈夫だ!」

「いてて、ちょっと脚やっちゃったかも」

「うぇー、お尻打ちましたー」


 生きてはいるようだ。

 その後、レミッサに回復の神聖術を掛けてもらい状況を確認する。


「あー、こりゃだめだな」


 バルドが目の上に手を当て上を見上げる。

 上階の床が遙か上に見える。手持ちの道具では戻るのは難しそうだ。


「落とし穴とか魔法で見抜けるんじゃなかったの?」

「はぁー。老朽化は別なのよー、まったくひどい目にあった」


 そういえば、アイシャは魔法で罠を調べていたはずだと思い出しルカが問いかけると、アイシャは溜息をついた。


    ●○●○●


 一行は地図にない未発見のエリアに落ちてきたようだった。

 一先ずルカは魔石で光るランプを取り出して明かりを付けた。


「っ! これは……古代の壁画?」


 ぱあっと明るく照らされた壁面には全面に巨大な画が描かれていた。


「瘴気から魔物が生まれている? いや……でもこれは真っ黒の穴から出てきているように見えるな……」


 そこに書かれていたのは武装した古代の兵と対峙する魔人と魔物の姿。良く見ると魔人と魔物は真っ黒に描かれた渦のような穴から出てきているように描かれている。


「レミッサ、魔族ってどうやって産まれるって習った?」


 神官学校を卒業し、この中で一番知識があるであろう彼女にルカが問う。


「えーと、魔族の中でも魔物は瘴気から産まれるって習いましたー。魔獣は動物が瘴気の影響で変化したもの、魔人は昔は魔獣と同様に人が変化したと考えられていましたけど、今は魔物と同じで直接産まれるっていうのが定説ですー」

「それじゃあ、穴から出てくるってのは少し違うね」

「そうですねー。この画は瘴気溜りとはちょっと違うように見えますー」


 レミッサも自分の知っている話と異なり首を傾げている。


「これって結構な大発見なんじゃない?」

「まあ、そもそもこの通路が未発見だしな」


 ちょっとワクワクしてきたアイシャにバルドも同意する。


「手持ちの道具じゃ戻るのは難しそうだから先に進むか? どこかで地図の道に戻れるかも知れないぜ」

「そうだね。最悪レミッサに遺跡をぶっ壊してらえば脱出できそうだし」


 バルドの言葉にうーんと少し考えながらルカも先に進むことを選択する。

 これだけ脆ければ、レミッサの魔法で遺跡を壊すことで上階に戻れるだけの瓦礫は作れるだろう。威力を誤って生き埋めにならなければだが

 一行はこれまで以上に慎重に遺跡の奧に歩を進めるのであった。

次回更新は5/28予定です。

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