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勇者の手紙  作者: NoKKcca
第一章
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2.初仕事へ

 ――――翌日。


 夕べは村の倉庫を借り一泊した。

 保存してある麦藁がベッド代わりで、始めはシーツから突き出すチクチクとした藁の感触が気になっていたが、ずっと荷馬車に揺られていて疲れていたせいかぐっすりと眠ることができた。


 翌朝、朝食は村長の家でごちそうになり、その後、村長の案内で案内役の木こりと合流し今後のことを相談する。


「村長。ギルドを通した依頼じゃありませんが、出発する前に条件など確認させてください」

「分かった」

「まず、魔物除けの杭の復旧、これは第一に。それに加えて正体が分からない畑を荒らした生物の調査。可能であれば討伐といったところでしょうか?」

「うむ。それでお願いしたい」


 村長はハイリスの説明に頷く。


「私たちは旅の途中なので期間は今日一日で。もしも今日中に畑を荒らした生物の方が解決しなかった場合は、ハンターギルドに依頼を出してください。依頼票は私たちがメルケイトのギルドまで持って行きますから」

「そうだな。一先ず魔物除けが直れば村の皆も安心できる」

「報酬は……、既に昨日の夕食と朝食をご馳走になっていますので、加えて明日出発までの食事でどうでしょう? あと、討伐した獲物の毛皮など換金できそうなものがあれば買い取りということで」

「それくらいなら問題ない」


 お互い認識を合わせ、ハイリスと村長は握手をする。

 すると横から案内を担当する木こりが口を挟む。


「村長、俺にはなんかないのかよ?」

「うーん? 今度、酒奢るよ」

「忘れんなよー」


 木こりは今回のことをそれほど深刻に考えていないようだ。ダメ元で聞いたところ酒を奢ってもらえることになり満足げだ。


 ハイリスはルカに向き直って言う。


「ルカ、いいか? これから旅をしながら色々な依頼を受けると思うが、ギルドを通さない場合は、今みたいにしっかり事前に条件を確認するんだぞ。あと忘れず報酬もな。勇者だからと助けを求める奴もいるだろうがタダ働きは駄目だ。金銭じゃなくても食事でも情報でも労働力でも何でもいいからもらっとけ、その方が相手のためにもなる」

「分かりました、先生」


 その後ルカとハイリスは村長と別れ、木こりとも先に魔除けの結界の修復を行うため後で声をかけると約束し一旦別れた。


    ●○●○●


「これが魔除けの杭ですか……? 本当にただの木の棒ですね」


 ルカが地面に刺さっている魔除けの杭を前につぶやく。

 直径は10cm弱、長さは地上に出ている部分が1mくらいといったところ、断面は正六角形で、側面には教会のマークと何やら文字のようなものが刻まれている。

 今ルカたちは、村を守る魔除けの結界を構成する杭の点検を行っている。

 ルカも知識としては知ってるが、結界の起点となる杭は人が生活する領域の最も外側をぐるりと囲むように打たれているため、普段気にとめることはない。

 さらに今ルカが言った通り、小さな村に使われているような杭は見た目はただの棒きれなため、知らなければ気づかないだろう。


 ルカのつぶやきに少し困ったような顔でハイリスが説明をする。


「まあ確かに見た目木の棒だがそう言ってやんな。結構すごいんだぞこの棒きれ」

「先生も棒きれって言ってるじゃないですか」


 ルカは少しあきれた声で突っ込みを入れる。


「待て待て、説明は終わってない。これも神聖術の一つが使われていて原理は分かっていないんだが、こんな棒きれで構成した魔除けの結界でも正しく設置すれば、大型の竜はさすがに無理だが小型の魔物や魔獣であれば侵入を防げる。凄いと思わないか? おまけに野生動物の侵入も少し減らしてくれるらしい、これは噂レベルだが」

「確かに言われてみればそうですね」


 説明を聞いてルカは、今度は少し感心したように杭を観察する。

 戦いに慣れていない一般人にとっては、小型に分類される魔物や魔獣でも脅威だ。それらが入ってこないという守りがあるからこそ、この村のような辺境の小さな村は存続できる。

 この辺りの杭は問題はなさそうだと、ハイリスはルカを連れまた歩き出す。


「まあ、この木の杭レベルだとあんまり広い結界は無理だけどな。たまに素人が結界の広さを変えようと引っこ抜いて移動させて結界が崩れたという事故もあったりすんだよ」

「領都とか大きな街はどうしているんです?」

「ああ、結界はな、付与された神聖術によって杭が生物と同じように周囲から魔素を集めて魔力に変換して結界を維持してるんだ。ここで杭の材質は、この周囲からの魔素の収集効率に効いてくる。つまり、精霊銀のような魔法と相性の良い素材を使うと大規模な結界を作れる。あとは魔石を埋め込んで周囲から集めた魔素に加え、あらかじめ貯めた魔力を併用するようにしたりな。魔石を使うと魔力の補充というメンテナンスが必要になるから王都とかごく一部しか使えないが、城壁と一体化させてたりする」


 見た目やや強面で引き締まった体格のハイリスは、武闘神官のように見られるが実際は研究者寄りの人間だ。

 神聖術については造詣が深く説明がスラスラ出てくる。

 そして通常表に出されていないことも…………


「あー、ここかー」


 ここまで結界を構成する杭を点検してきたが、一本の杭が半ばから折れているのを見つけた。

 ハイリスは折れている杭を引っこ抜くと、おもむろに出発前、村の大工にもらった杭と同じくらいの大きさの端材を突き刺した。


「よっこらしょ」


 ハイリスは肩にかけていた鞄を地面に置くと、ごそごそと中をあさり聖典を取り出した。

 魔除けの付与を行おうとしているハイリスにルカが尋ねる。


「えっ? 木片そのままですよ。六角形に整えたり、文字を刻んだりしなくていいんですか?」

「んっ? ああ、別にそんなことしなくても問題はない。飾りだ飾り」

「えぇー……」

「多少効率は良くなるが、まあ、加工した方が効果ありそうに見えるだろ? 普通は教会が作って売ってるわけだから見栄えだよ見栄え」


 そう言うとハイリスは結界の付与を行うための神聖術の発動に集中する。

 ハイリスの興味は神聖術自体であり、発動するために無くてもよい物は本質を知る上で邪魔でしかなく真っ先に削り落とされる。なのでハイリスの使う神聖術は余計な修飾が排除された実用に特化したものだ。


(これ、あんまり言いふらしちゃだめなやつじゃないかな……)


 ルカは何とも言えない表情で作業を見守る。


「これでよしっ。じゃあ一度戻って森の調査行くか」


 ルカに声をかけるとハイリスは鞄を肩に担ぎ直して、案内役の木こりの家に向かって歩き始めた。

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