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ななつめ

 その贈り物がやってきたのは、ミアが夕食の誘いを断った三日後のことだった。


 レジーナはその荷物を一瞥してため息をつく。

 ミアはどうしようと少しばかり困っていた。

 その他の魔法使いは遠巻きにそれを見ていた。


「適量というものを婚約者はご存じないようですよ。

 お姉さま、やっぱり、私にあの人くれません? 調教してみたい気がします」


「それがいいような気がしてきた」


 魔法使いの女がミアとレジーナしかいないのだから好むものがわからないにしても限度がある。

 魔法使いの寮に送り付けられてきたものは、ドレスや宝石、靴、それから本。適度であればだれでも喜ぶものだろう。

 店でも開くのかという物量を事前告知なしで送り付けられれば大概の人は困る。

 部屋に入る量でもなく、玄関ホールに積みあがっているため通りすがる魔法使いたちがぎょっとしたように二度見していったのをミアは何度も見た。一度は通り過ぎていくものの怖いもの見たさなのか恐る恐る戻ってくる。

 そういうわけで意外とギャラリーが多い。


「私が思うにああいう男は恋愛経験が足りません」


 ミアに断わりを入れていくつかの箱を検分していたレジーナはそう断言した。


「モテる男では」


 この贈り物にドン引きしている護衛の一人がそういう。ミアにしてもああいうのが女性ウケの良い男であるという認識はある。素敵と憧れる女性も多いようであの方の婚約者がこんな人なんてという嫌味と辞退しなさいよという圧はあった。国王陛下からの勅命なので、ぜひともあなた方から陛下に進言してくださいと言えば黙ったが。


「モテるから、ですよ。

 顔良し、血統良し、資産も問題なし、性格はまあ、保留するにしても、結婚後の生活に困りそうにない。だから、結婚相手としてはモテます。異性としてモテるとはまた別です。

 モテるがゲシュタルト崩壊しそうですが、そういうことです」


「……で?」


 ゲシュタルト崩壊とは何か、というのも気になったがミアは結論を聞きたい。


「自らいかずとも勝手に寄ってくるから、自分から相手に歩み寄ったことないんですよ。

 結果、女性経験がなさ過ぎて、今まで蔑ろにしてきた女性の好むものをお姉さまに送り付けている、ということになりますね。

 つまり、女とはこういうのが好きで送っておけば機嫌がよくなるであろう、いっぱいあって高級であれば満たされて、好きになってくれるだろう、ということです」


「魔女の巨釜のほうがまだまし」


「あの、場所塞ぎの代名詞にすら負けるとは……」


 どういう原理か不明なモノで原料を入れると調合されたポーションが出てきたりする。遺産の一種ではあるが、結構ありふれているうえにでかい。新居にも研究室にもいらんと断りがちである。


「まあ、仕方ありませんね。

 サイズ調整もしてない買ったままのものを送り付けてくる店の矜持も大したことはありません」


 ふんと鼻で笑うレジーナは歴戦の強者である。

 ぱちぱちとどこからともなく拍手されてちょっとばつが悪そうではあった。


「送り返したい」


「それもまた面倒になるので、陛下にご相談しましょう。

 寄付も悪くはないですが、コレの処分は骨が折れます。侯爵家伝来の宝石もありますし」


「ほんと、正気かしら」


「それだけ婚約破棄されては困るということでしょう」


「そうね」


 白い結婚、書類上の婚姻でいいから遺産管理してと王からの要請もあった。あっちにはちゃんと言い聞かせておくからという話だったのだが、言い聞かせてコレなのかとおもうと失望する。

 その贈り物たちはそのまましばらくロビーに置かれることになった。普通なら盗難しないか心配になるところだが、変に危機察知能力の高い魔法使いたちがそういう暴挙に出ることはない。また、護衛も安定的な職を重んじる。もう少し換金しやすいものなら少し危ういかもしれないが、高級すぎて売るのにも困るようなものには手出ししない。


 ミアはそのまま部屋に戻ろうとしたが、レジーナが引き止めた。


「お姉さま、ほかに何か変なことはありませんでしたか?」


「強いて言えば、ヴィオラ嬢が静かね」


「やっぱり……。

 では、私を無視してください。あ、外では、です。寮の中はべた甘に寄り添っていただいても」


「理由は」


「ヴィオラ嬢とこれから揉めるからです。板挟みが面倒だと思うので、放置で」


「今までもそうだったじゃない」


「今まではお姉さまとも揉めてたじゃないですか。

 でも、お姉さまとは先日和解の申し出をしている。そうなったら、お姉さまを利用しやがりますよ。奴は」


「……確かに面倒そうね」


 ミアがそういうとレジーナはほっとしたようだった。裏に何かあるが黙っていてほしいらしい。


「でも、和解する気はないわ」


「といいんですけどね……。同調圧力ってのは意外と侮れないので気を付けてください」


 レジーナの心配はミアにはピンとこなかった。ミアのことなどどうでもいいに決まっているのに。


「私が肝に銘じている言葉があるんですけどね。

 弱いものは弱いままではおらず、強いものも強いもののままではいない。足元をちゃんと見てないとひっくり返されることはあります」


「覚えておくわ」


 その忠告が正しかったことをミアが知るのは数か月必要だった。

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