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よっつめ

 レジーナVSヴィオラはレジーナが優勢だった。

 レジーナは順調に学園の有力者を落としにかかっている。この学園には生徒会と言われるものがある。学園の運営についてある程度まかされる。それはのちに大領主やある程度の役職に就くことが予定されている者たちのために、その采配を覚えるために用意されている。

 その中に入り込むのは国家の中枢に食い込むことになり、いくつかある空席をめぐって毎年熾烈な争いが繰り広げられる、らしい。

 ミアをはじめ魔法使いたちには関係のない話だが。


 その中にレジーナは入り込み、お手伝いに励んでいる。もちろん、下心がないというわけでもない。

 生徒会にいるのは優秀か血統がいい男性ばかり。一部の女性もその優秀さを認められる才女ばかりだ。彼らに気に入られるというのは、よりよい待遇を得られることにもなる。

 ただ、魔法使いにそれが必要かと言えば違うようにも思えた。普通は護衛よりも上から止められるものだが、レジーナは例外として認められていた。

 ミアは全然羨ましくもなく、よくやるなと呆れている。進んで騒動の中に首を突っ込み、奮闘する熱意はミアにはない。ほかの魔法使いたちも呆れているが、困っている時は手を貸す程度には好感があるらしい。

 ミアも目の前で困っていたら、仕方ないわねと手を差し出してしまうかもしれない。

 そういう愛嬌がある。


 その一方でヴィオラは婚約者のいる男性に言い寄るなんてと訴えているらしい。大多数のものは、レジーナの態度が仕事に真面目でそういう態度ではないとみなしていた。

 まあ、多少スキンシップが多いように見えるが、長く田舎にいたので距離感がおかしいのだろうと甘く見られている。また、その男性たちの婚約者たちとも親交をもっており、友好的だった。

 侯爵家のご令嬢ということでヴィオラの話は同意されることは多いが、それも表面上のこと。レジーナが排除される可能性は低い。

 そもそも彼女は魔法使いで、容易く排除することはできない。


 ヴィオラは忘れているのだ。あるいは他のものたちも。

 レジーナも魔法使い。おとぎ話のように、人をトカゲに変えてしまうことくらいできる。魔法使い内ではいつトカゲに変えるか賭けをしていた。ミアはトカゲに変えないに少額賭けている。うっさいから鳥にして焼き鳥にしてやると半ば本気で言っていたのを知っているから。


 レジーナはミアの前では騒がしいが大人しい。矛盾しているようだが、楽しそうに一方的に話してくるだけで実害がありそうなことはないからそういう言い方になる。

 表立っては付き合いのなさそうにふるまうのは、ミアの婚約者に配慮してのことらしい。


 レジーナとミアが会うのは学園のすみっこの魔女の庭園だった。

 人には見つけられないものも魔法使いにはよく使う避難場所だ。小屋に山ほどの本を詰めて、誰かが書き散らした論文未満と考えのメモ。片付け好きが片付けろと書きなぐった紙が壁に貼ってある。

 地下は研究施設もかくやという装置が置かれていて、さらに混沌を極めている。

 ミアは地下は3回しか入ったことがない。それも強制お片付け人員として。使っていないのにとぼやきながらも手伝ったものだった。


 ミアは小屋からお茶の道具を持ちだした。外に出るとレジーナが布を地面に敷いていた。

 手際よくお茶会の準備を進め、お湯が沸くのを待った。

 ほんの少しの間。それを埋める雑談を始めるのはいつもレジーナが先だった。しかし、今日はなんだか落ち込んでいるようだった。


「お姉さまの婚約者を奪うなんて、したいですけど我慢しているいい子なので、撫でてください」


「幼児なの?」


「幼児です」


 真顔だったので、ミアは撫でることにした。バカらしくなったのだ。


「近頃はいかがですか? 婚約生活楽しんでます?」


「変わりなく。お互いに興味がないから、気楽でいいわ」


「興味ないとほっといて、よそに女作ったらどうします?」


「愛人になって、子供をもうけて欲しいわ。私、触られたくないの」


「いやもうそれ、嫌いなのでは」


 ミアは明言しない。

 嫌いなのではなく、好ましいところがない。

 それなりに親しくなれば歩み寄れることもあるかもしれなかった。しかし、ミアはしたくない。


「そういえば、最近、お嬢様見ないんですけど何か知ってます?

 私の嫌な予感がビンビンに来てるんですよね」


「調子悪くて寝込んでいる、と聞いたわ。あちらは私になにかいうことはないから使用人が話していることしか知らないのだけど」


「……んー。やっぱり、決まりは外れませんか」


「決まり?」


「なにがあっても、わたしは、お姉さまの味方です。

 どうか。許さないでください」


 ミアはそれに答えず微笑んだ。


 その日からほどなく、ヴィオラは復帰した。人が変わったように、大人しくなって。

 最初の変化は別館に使用人が増えたことだった。邪魔なので、ミアは断った。しかし、お嬢様からの命なのでと横柄な態度を崩さない。

 ミアはため息をついて、学園の寮に避難することにした。

 誰かと言い争うのも疲れる。突然戻ってきたミアにレジーナは喜び、ほかの魔法使いはほっとしたようだった。

 聞けばレジーナが少々騒がしかったらしい。いつもは寮では大人しいのに、落ち着かないように誰かのそばにいるように。


 そのレジーナはヴィオラがどうなったかを聞きたがり、変化を聞けば表情をひきつらせた。


「最悪ですね」


「人に世話されることになれているお嬢様の考えることはわからないわ」


「ですね……。この個人主義が極まった魔法使いに他人って邪魔以外の何物でもないのに」


「あなたは違うみたいだけど」


「私は異端です。

 それではしばらく滞在されてください。護衛も喜びます」


「そうかしら」


「ええ、犬みたいにしっぽ振りますよ。あの野郎は」


「……なぜかしら、想像がつく」


「ほんと幻想のしっぽと耳が生えます」


 ミアは笑った。そう言えば、笑うのは久しぶりだったなと思いだす。


「あなたといると楽しい、と思う」


 そうミアが言えばレジーナは固まった。


「大丈夫?」


「…………息の根が止まるかと」


 実際呼吸を止めていたようにも見えた。


「お姉さまが楽しいならいいんですけどね。

 では、さっそく、楽しいお勉強を……」


「さっそくの意味がわからないけど」


「テストがやばいんです。助けてください。ここからは負けられない戦いがあるんです」


 大げさだなとミアは思ったが、頼られて悪い気はしなかった。


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