6.せいかい
本編6話です。前回の続きです。
光が止む。
それと同時に、機械が壊れて崩れるような音が聞こえた。
恐る恐る目を開ける。強い光を一瞬直視したためか、まだ目の前がチカチカしていた。
「駄目じゃないか、女の子が一人で歩いてちゃ」
そこにいたのは、ひとりの魔法少女。
ただ、あの時の魔法少女とは決定的に違う。
色違いの青い装いに、頭の下で二つに括った茶髪。なにより目立つのは、左手にはまっている巨大なグローブ。
その優しい目つきに、頭をかすめた記憶があった。
「会うのはこれで2回目、かな?」
「え、演劇部の・・・!?」
「あ、覚えててくれたの?うれしいなあ」
そう。演劇部を見学しに行ったときにいた人。友達がきゃいきゃい言っていたかっこいい人だった。
でも、?
「あの、」
「ああ、言いたいことはわかるよ。あれはああいう役柄だったんだ」
「そうなんですね・・・」
学ランを着ていたし、胸もこんなになかった。だから、必然的に男子だと思っていた。
でも、今はお姉ちゃんより大きいし。本当に女の人に見える。むしろ今盛っている状態なのか?
とにかく、やっと関係者らしい人に会えたんだ。逃げられたりしないように慎重に接さなければ。
「聞きたいことがたくさんあるようだね。でも、今日はここまでだよ」
「な、なんでっ」
「そりゃあ、こんなに夜遅い時間に、女の子が一人じゃ危ないからさ」
そうだろ?と青い魔法少女が言う。
いや、女の子というのならあなたもだろう、と思う。とはいえ正論なので、大人しく従うほかない。
だが、逃げられてしまう方が問題だ。はやく話を聞きたくてしかたがない。
「急がば回れ、だよ。明日学校で落ち合おう。」
「、はい」
「あ、そうそう。みだりに言いふらしたりしてないよね?」
「してませんよ。言ったところで信じてもらえませんし」
「あー、それについても明日話そう。それじゃあ、気を付けて帰るんだよ」
そういって踵を返した青い魔法少女・・・、そうだ、名前聞いてなかった。
思い至ってからでは遅かった。彼女は薄暗い路地の壁面を駆け抜け、すぐに見えなくなってしまった。
、今日は、本当にいろいろなことが起こった。
未だに頭が追い付いていない。さっきまで、大量のアドレナリンで大量の情報を隅に追いやっていたけれど、誤魔化しがきかなくなって、私の頭はついに頭痛を訴え始めた。遅れて恐怖心がやってくる。
心臓が痛いほど動き始める。
魔法少女の背を見送った後、先輩がいたであろう方向を見やる。
そこには、制服をかろうじて纏った鉄くずがあった。
生物らしき部分(例えば目とか皮膚とか)が一切ないのに、どこかグロテスクに感じる。
これが先輩、いや先輩もどきだったという確証もないし、話していた内容が本当だったかもわからない。今後、聞いた話を思い出す機会も少なくなるかもしれない。
でも、心が疲弊している中で、ただ一人姉の話を聞かせてくれた人だった。
そのおかげで、今少しだけ冷静になれている。
ありがとう。嘘だったとしても、あなたに感謝したいと思う。
そして、あなたのおかげではっきりした。
私の中で、確かに姉との思い出が失われていることが。
3月になりましたね。毎度のことながら場面転換急転換で申し訳ない。
物語の内容的にひと段落ついてきたので、今どき流行り(ではない)の番外編でも書こうかなと調子に乗っています。予定は未定。
次回は4月の投稿となります。それではさようなら。