5.はかり
本編5話です。前回の続きです。
店を出た先輩は、足早に目的地に歩いていく。そんな先輩の後ろを小走りでついていく。
先輩についていきながら、さっきの会話を思い出す。
先輩が話していたこと。それは、姉と先輩が親友だったこと。そして先輩の記憶は、姉との約束を最後に消えてしまっていたこと。
姉と親友だったということは、会う約束というのは遊びの約束だろうか。
親友の話は一度も聞いたことがないような気がする。いや、親友とは言わずに、有象無象として話題には出していたのかもしれない。
考え事をしていると、ふいに先輩が話しかけてきた。
「そういえば、妹ちゃんって1年生?」
「あ、はい」
「じゃあ、おねえさんと再開したら、入学祝あげるよ」
「え!別にいいですよ。」
「えー?親友の妹だよ?それくらいさせてよ」
「いいですって。その代わりおねえちゃんからもぎ取るので」
「あはは!いいねえ。おねえさんそういうの好きだよ?」
考え事の最中に話しかけられたせいで、思っていたことが吹き飛んでしまった。カフェのときよりも早いペースの会話に、思考がいまいちまとまってくれない。
「そういえば最近あったことなんだけど、あの子ったらまた委員会の仕事押し付けられちゃって!」
ん?
そんな話していた時なんてあったっけ。
ほんの少しの違和感。カフェでもあったような気がする。
「後輩とかといると良い先輩って感じなのに、二人になると愚痴がすごいんだよねえ。嫌々やるなら引き受けなければいいのに。妹ちゃんは知ってた?」
嫌々やっていた?
姉は仕事を嬉々としてやるタイプだし、思っていることはズバズバいう、はず?
あれ?
「委員会って大変だよね~。見てるだけでもそう思うもん」
違和感の輪郭がはっきりとした形になってくる。
はやく、早く言葉にしなくちゃいけないのに、言葉が出てこない。
「ねえ、」
突然先輩が立ち止まった。はっとして周りを見渡す。
辺りはすっかり暗くなっており、駅の方向とは違う方向に進んでいたことに気づいた。
姉と会う予定だった場所はこの辺りなのだろうか。
いや、それよりも。
「妹ちゃん」
あの時のような違和感。次に疑問が浮かぶ。
先輩って、こんな人だっけ。
先輩が、ゆっくり振り返る、
目が眩むような閃光。
そこには、確かな既視感があった。
2月になりましたね。無事に5話を迎えました。めでたい。
ではまた3月にお会いしましょう。