4.くらり
本編4話です。前回の続きです。
先の見えない道を走る、走る。
必死に姉を呼ぶ。喉がひきつれて声が出なくなる。
足を動かすが、だんだんと足の感覚が鈍くなっていく。
平衡感覚が狂い、自分が立っているのか止まっているのかわからない。
耳鳴りがやまない。視界がぼやけてきた。
意識が遠のいていく。そして…、
はっと目が覚める。
ついうたた寝をしていたようだ。
先輩につれられて、電車の中。
目的の駅まであと2駅。危ない、危ない。寝過ごしてしまうところだった。
落ち着いて話せる場所、とは、隣町のカフェだった。人通りが少ない場所はひやひやしたが、人が思いのほかいる店で、目撃者がいるようなのでひとまず大丈夫そうだ。
「さて、お姉さんの話だったよね」
「はい。覚えていることとか、変わったことがなかったとか聞いてます」
「うーん、正直微妙なんだよね。妹ちゃんを見て、びびっときたというか」
びびっと?
「うん。それまではほんの少しの違和感だったんだけど、妹ちゃんにあって、思い出がぽつぽつ浮かんできたって感じ。まだ全部じゃないけどね」
消えていた思い出がよみがえった?私を見て?
姉の友達なら、思い出すきっかけは他にもあっただろう。姉の痕跡が消されていても、何かしらあっただろうに。
「前兆とかは?姉のことを忘れるきっかけとか、時刻とか。心当たりはありませんか?」
「そこもあんまり覚えてなくって。たぶん寝てる間とかかな」
妥当な回答ではある。それっぽいというか。とにかく決定的な答えは出てこない。
もどかしい。本当はもっと直接的な質問をしたいのに、警戒心が邪魔をする。
「あ!」
「ど、どうしたんですか」
「思い出した。あのとき、お姉さんは言ってたんだ」
「妹をよろしくって」
「は、?」
どうして、なんで、は?
理解できない。姉がこの人に私を託した?それが本当ならお姉ちゃんはこうなることをわかってたってこと?それをこの人は忘れてたってこと?
「それ、いつですか」
「え?えっと、あの日は、、ううん、微妙に思い出せないや」
「いますぐ!思い出して!!!」
感情のままにテーブルを叩く。水の入ったグラスが衝撃で倒れかけ、危なげなく元の位置に戻る。
「え、っちょ、落ち着いて妹ちゃ」
「落ち着けるわけないでしょ!早く、はやく」
「ほら、水飲んで落ち着いて!」
押し付けられた水をあおる。少しすれば、溢れた感情も落ち着いてきた。
「すみません」
「いや、私もごめんね。親友の妹ちゃんだから、調子乗っちゃったかも」
「親友?」
「まあ、妹ちゃん小さかったし、覚えてないか。小学校のころからずっと一緒だったんだよ。」
そうだったかな。こっちには最近引っ越してきたのに。先輩はお姉ちゃんと一緒に進学してきたのかな。
小学生からの親友?お姉ちゃんは人見知りだったから、友達ができなくてしょんぼりしてた記憶しかないな。恥ずかしくて言えなかったんだろうか。
「そうそう、次の日に会う約束してたんだけど、その約束を、思い出と一緒に忘れちゃったの。今思い出したわ」
「どこで、会う予定でしたか?」
「移動しながらのほうが早いかもね。門限大丈夫?」
「はい」
「じゃあ、行こうか」
いつの間にか店内は橙に染まり、人はいなくなっていた。
店の扉のベルが鳴る。
あけましておめでとうございます、私です。
無事に4の完成、投稿ができて安心しています。
一応続くので、来月まで待っていただけると大変助かります。
正直これを読んでくださっている方は少数だと思っておりますが、言葉遣いに注意して書いております。致命的な誤字などございましたら、こそっと教えていただけると嬉しいです。
ちなみに作者は、登場人物を全員有効利用するチャレンジをしているので、脇役でも2回目の登場があるかもしれません。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。