17.
本編17話です。前回の続きです。
白む視界に、紫と赤。
振り上げられた箒を受け止めたのは、黒く禍々しい枝。いや、魔法のステッキだった。枝のように分かれた先端には、真っ赤な宝石が2,3粒くくられている。
「知り合い?」
赤い魔法少女は、ステッキを構えながら振り返った。
幼い、でもしっかりした声。答えようとしたけれど、喉が張り付いたように声が出ない。顎が震えて、声が出なかった。
何も答えられない私を見て時間の無駄だと気づいたのか、彼女は向き直ってもう一度ステッキを振った。
光の粒がいくつも飛んで、ぶつかる。少なくとも私が入っていけるような隙はない。砕け散った礫の欠片は街灯の光を受けてきらきらと輝き、宙に溶けていく。縦横無尽に飛ぶ箒と、礫を生み出すたびに振られるステッキ。
魔法少女同士の戦いは、人間同士の戦いだ。機械と戦うよりも難しいし、下手をしたら殺してしまうかもしれない。普通は怖くて踏み込めない境界線。でも目の前では、殺し合うような勢いの攻防が繰り広げられている。
大きな音がしてはっとした。そうだ。お姉ちゃんをようやく見つけたんだ。聞きたいことも話したいこともたくさんあるんだ。この際、なんで魔法少女になっているかなんて関係ない。無事が確認できたんだから、あとは一緒に帰るだけ。
胸いっぱいに空気を吸い込んで、全部吐き出す。自分が一番得意な方法で、お姉ちゃんを連れ帰る。
「お姉ちゃんっ!!」
変わらず突っ立っているお姉ちゃんに対して、ドロップキックの要領で突進する。
お姉ちゃんは私に甘い。これを最後にやったのは小学生の時だっけ。今やったって、「しょうがないなあ」って言って帰ってきてくれるはずだ。
もっとも、あの頃の体重なんてたかが知れていたし、今やって受け止めきれるかなんて分からない。でも、人に元気に攻撃をしているくらいなんだから、このくらい激しい方がちょうどいいだろう。
ようやくお姉ちゃんはこちらを振り返って、突進している私を見た。
「おおきくなったね、ひまちゃん」
踏み込んだ足は、片手で受け止められてしまった。変身しているとはいえ、こんなに力強くなっているなんて。そのまま足を振り回され、遠くに投げ飛ばされる。
箒を操っていたからてっきり魔法系の能力だと思っていたけど、変身すれば一律で力が強くなるものなのだろうか。
内臓が持っていかれるような強い遠心力が、ぐんとかかる。何とか態勢を整えて着地しようとしていると、箒が目の前に迫ってきた。空中で体をひねって回避しようとするが、少しだけ脇腹をかすめてしまった。後ろにある木がえぐれるのが見えて、痛む場所を抑えながら、当たらなくてよかったと思った。
「知り合いだったの」
いつの間にか隣に退避していた赤い魔法少女は、肩で息をしながら睨んでくる。むっとして睨み帰すと、拗ねたようにそっぽを向いてしまった。その間にも攻撃の手は止めていないようで、大きな雪の結晶がお姉ちゃんの周りを飛び回り、箒を回避しながら礫を降らせている。それでも箒によって少しづつ減らされてしまっていた。
「…ツバキ」
「え?」
「僕はツバキ。あなたは?」
「私は、」
言おうとして、不意に嫌な風を感じた。同時に後ろに飛ぶと、立っていた場所に勢いよく箒が突き刺さった。
「さっき!あの紫の人が『ヒナ』って呼んでたけど、あなたの名前であってる!?」
「え、あ、うん!」
「じゃあヒナ!単刀直入に言うけど、僕たちであの人に勝つのは無理だ!」
結晶が壊れる激しい音の中、箒の猛攻を避けながら必死に声を上げて話す。呼ばれた名前は違うけど、訂正する余裕なんてない。
「機械は壊れているから、僕たちの仕事はもう終わってる!あとは撤退するだけだ!」
「でも、お姉ちゃんが!」
反論しようと隣を見た途端、赤い魔法少女、いやツバキが視界から消えた。
ついに避けきれずに腹から攻撃を食らって、生垣の向こうまで吹き飛ばされた。それに気を取られた一瞬で、私も足をすくわれて転んでしまう。擦りむいた膝がじくじく痛む。それよりも、吹き飛ばされた彼女の安否が心配だ。
「ツバキちゃん!」
生垣に埋まってうなだれている彼女は、一見すると大きな怪我はしていないように見えた。肌には固い枝で擦れてできた小さな傷がたくさん刻まれている。血は出ていないみたいだけど、ゆすってもピクリとも動かない。
口に手をかざすと温かい風を感じる。生きてはいるようだった。目の前で人が死ぬところは見たくないし、お姉ちゃんが人を殺すところも見たくなかったから。
彼女の腕をもって、何とか持ち上げる。年下の小柄な女の子でも、特段鍛えているわけではない私には重く感じた。
お姉ちゃんは何も言わない。ただ、薄く微笑んでいるだけ。追いかけるでもなく、じっと私たちの背中に視線を感じていた。
3月になりましたね。
次回は4月の投稿となります。それではさようなら。




