16.
本編十六話です。
チュートリアルを終えて一週間。
機械とエンカウントは、次第に増えている。
レーダー代わりの指輪はところかまわず鳴った。
登下校の道でも、学校の近くの空き地でも、休日の外出先でも。暇な休日はともかく、学校がある日は止めてほしい。成績に響くし、高校だから最悪卒業できないかもしれない。もちろん姉は大事だが、姉を見つけたときに自分の周囲がボロボロだったら?と考えるとぞっとする。今週はたまたま授業には被らなかったが、これからも同じとは限らない。
「葵さん!」
「いくよ!せえ、ッの!」
人間、よくあることは慣れてしまうもので。
戦うたび、何かを殴ることへの抵抗や嫌悪感が薄れ、麻痺していく。
およそ人には見えないものもいたけれど、機械のほとんどは人の形をしていて、殴ったときの感触は同じ。金属にぶつかったときのような痛みもなく。シリコンでできた人形を床に叩きつけたときのような、直接もってないのに、物の衝撃が手に伝わってくるような感覚。直接の感触がないのに、手に残る不快感。最初の時ほどのショックは受けなくなったけれど。
殴ったり蹴ったりするのも、壊すのも慣れはしないけど、それでも一歩、近づいている気がしている。
「ふう、今日は少なかったね」
「なんだか、動かないやつがいた気もします」
「いたね。最近おかしなことが多いなあ」
基本的には葵さんと一緒に駆り出される。
彼女の凄まじい勢いの拳は、慣れてみると頼もしい。強いという信頼もあるし、なにより早く終わる。親しい気でいると心持ちも楽になった。
「前まではなかったんだ。指輪の精度が鈍るなんてさ」
「誤作動とかですか?」
「かもね。意外にも仲間割れの跡だったりして」
「壊れても反応するんですね」
「仕組みの問題かな。指輪は感知したから鳴っているだけで、基本的に魔法少女の破壊でないと止まらないんだよ」
戦いながらの雑談も、多少慣れた今だからできる。あっという間に機械たちは動かなくなって、その日は解散になった。
静かな道では、どうしたって余計なことを考えてしまう。姉のこと、これからのこと。
一時心の余裕を感じていても、一人になれば悶々と考えてしまう。一人ではない時間を思って、服の上から指輪を握りしめた。
その日は、珍しく一人で現場に向かった。
葵さんは部活の練習でいない。人と歩くことに慣れ切っていた私は、用事が出来て少しだけほっとしていた。こんなことに安心する日が来るなんて。
向かった場所は、寂れた公園。
遊具は大きいが整備されている様子はなく、草木は生えっぱなしで、遊具は目に見えて錆びている。時間帯もあってか人っ子一人いない。そして、片隅には積み上がった機械。暗闇の中で腕や足が転がっているのは流石に怖い。ホラー映画を見た後に暗闇が怖くなるような、たぶん今日は夢見が悪いだろう。
これが、葵さんが言っていたおかしなことだろうか。指輪は静かになったけど、一応警戒のために変身しておこう。
戦うことには慣れたが、変身にはいまいち慣れない。全身の細胞の表面が入れ替わるような肌の泡立つ妙な感覚が、いつまでも慣れない。左手にはめた指輪も、何かを強制的に誓わされているような気分だ。
変身を終えて、ぎゅっと拳を握りしめる。すると、指輪に付いた大ぶりの宝石が辺りを照らし始めた。
機械が動いていないか、慎重に観察する。光の先には、バラバラ死体のようになった機械たちと、まだ自立している一体。いや、あれは…。
「魔法少女…?」
そこにいたのは、紫の衣装を身にまとった魔法少女。手に持っている箒の柄には大粒の宝石がついている。あれが彼女の武器なのだろう。電灯の光りを受け、機械に流れる蛍光色のオイルが箒から滴っているのが見えた。
「あの!この機械ってあなたが、」
視界が、急にぼやけた。一歩がやけに遠い。
自分の体が、自分の体が無くなったような。力が入らずに膝をつく。ピントが制御できない。彼女は、彼女は大丈夫か?機械の攻撃か、もしくは。
そう思ってようやく顔を上げた。瞳孔が、私の意思に反してきゅっと縮むのを感じた。
記憶の中でぼやけたていた姉が、より鮮明に笑ってそこに立っている。
「ごめんね」
2月になりましたね。
次回は3月の投稿となります。それではさようなら。




