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15.

本編十五話です。前回の続きです。

ぐん、と体が持ち上がると同時に、分厚い空気にぶつかる。あっという間に空中に放り出され、内臓を持ち上げられるような強い浮遊感が私を襲った。

落ちる、と思った。恐怖のあまり必死に足を動かすと、いつまでたっても衝撃がやってこないことに気づいた。大地を踏みしめているときのような、絶対的な安心感。目を開けると、私は確かに空中に立っていた。


幾度となく降りかかる摩訶不思議に、いい加減頭が慣れてきたのかもしれない。多少残った恐怖が痛いほど心臓を動かしているが、それ以上深く考えずに一歩踏み出した。


高いビルの屋上。その上にどっしりと構えた、明らかな人工物。

小型の溶鉱炉のような見た目で、蜘蛛のようにいくつもの足が底から生えた本体。今まさにスクラップになった手下を修理しているところで、機械を修理しているはずなのに、まるで動物の体を無遠慮に暴いているような生々しさというか、気色悪さがあった。覗く赤色が血のようで、ぞわり、と悪寒が背筋を駆け上がった。


さて、どうやって倒すかが問題だ。

かろうじて人の形を保っていた人もどきもクリーチャーになった元人間のような風体で、それはそれは躊躇したものが、明らかに機械の形をしている本体は単純に頑丈そうだ。

殴ればこちらの手がタダでは済まないであろう。いくら変身して強くなっているからといって、殴ればこちらの手がタダでは済まないことが容易に想像できる。


悩んでいる間にも機械は修復され続け、葵さんの負担が増えている。試しに殴ってみて、無理そうであれば助けを求めよう。あれだけ勢いよく殴れるのだったら、この大きな機械でも簡単に吹き飛ばせそうだし。


下を見ないようにしながら、一歩踏み出す。相変わらず、何かを踏みしめる感覚がする。

久しぶりの感覚。ラインもトラックも、ピストルの音も、コーチの掛け声も何もない。構え、走り出す。不思議と体は軽く、あっという間に目標の目の前に来た。


修理に夢中になっていたそいつはようやくこちらを認識し、何本もある鋭い足を振りかざそうとする。でも、私の方が早い。勢いのままに体をひねり、足と足の隙間に踵を落とした。




頑丈な外見からは想像がつかないような軽い破裂音とともに、本体は弾け飛んだ。割れた風船のように飛んだ機械の破片に押され、私の体はビルの屋上から弾き出された。

今度はどれだけ足を動かしても、どこにも引っかからない。ハイになった気持ちが冷めかけた瞬間。


痛みを感じるほど強い抱擁の感覚とともに、空中ではない安心感がじんわりと広がる。


「あっぶな…、まりちゃん、怪我は!?痛いところは!気分は大丈夫?」

「ちょ、だ、大丈夫です!葵さん、大丈夫ですから!」

「よかった、よかった…!変身してても、あの勢いなら絶対怪我すると思って…」

「あ、それで気になったんですけど。なんか殴ったら思いのほかぶっ飛ばせちゃって。変身したら力が強くなるとかあるんですか?」

「人によるかな。大抵は体が頑丈になるし、力が強くなる人もいれば、超能力的なことができるようになる人もいる」

「空中に立つのは?あれ出来なかったらどうしたんですか」

「それはごめん。ちゃんと説明する余裕も無かったし、出来なかったら受け止めるつもりだったよ。一応、能力には特徴みたいなのがあってね」

「特徴?」

「例えば、私ならグローブだね。他の人が持っていない武器や防具、ちょっとした装飾が目印なんだ。キミならほら、靴に宝石がついているだろう」

「え、これがですか?」


あの緊迫した状況では衣装をまじまじと見つめる余裕はなかった。ましてや、ふわりと広がったスカートで視界にも入らなかった靴なんて、わざわざ見ようとしなければわからない。

たしかに、エナメル生地のような柔らかい質感の靴に、ブローチに使われるような大粒の宝石と、取り囲むように小粒の宝石が埋め込まれているのがわかる。葵さんの靴にはそれがなく、ただ少し私の靴よりヒールが高いだけだった。


「キミの場合は、空中での走行と強力になった蹴りだね」

「言語化するとちょっと地味ですね」

「そうでもないさ。空中を走ることができるって、結構ロマンだと思うんだ!私は単純に殴ることに特化しているのみだからね。こっちの方が地味だよ」

「そんなことないですよ。浮いてるってだけで怖いんですからね」

「いやいや」

「いやいや」

「「…」」



アハハハ!

なんだかおかしくって、声を上げて笑った。私も彼女も笑顔だった。私たちはランチの約束も忘れて、機械の残骸の中、手を繋いで帰るのだった。






そして、それを見守る影が一つ。

あけましておめでとうございます。もう1月になってしまいましたね。

今年も何卒、『さびっさび!』共々よろしくお願いいたします。

それでは、また来月お会いしましょう。

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