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14.

本編十四話です。前回の続きです。

ガラスに映っているのは、伸びた髪に、ひらひらと揺れるスカート。


「は!?」


葵さんの時も思っていたけど、随分とファンシーな服装だ。

この一瞬で服も髪の長さもメイクも何もかもが変わるだなんて。可愛いうんぬん以前に、違和感が勝ってしまった。

物語でしかありえないような現象。アニメなどにあるようなちょっとした演出ももちろんなく、早着替えでもなく。どこか薄気味悪さを感じるとともに、これまでの非日常の延長を行く違和感に思いのほか納得ができる気さえした。


しかしどうやって戦うのか。彼女は拳で戦っているけれど、素人の自分にできるだろうか?格闘技の経験もなければ、ましてや人を殴ったこともない。そういえば、初めて会った赤い魔法少女は魔法のようなものを使っていた。ああいうことができればその心配もなくなるのだろうか。

不安がつのって、ぐるぐると意味もない思考を巡らせる。聞いた方が早いし、一人で悶々と考えることに意味なんてない。


「まりちゃん!大丈夫そう?」


はっと顔を上げると、彼女は隣で覗き込むようにこちらを見ていた。いつもと変わらない笑顔。変わらない彼女に、心のどこかでほっとした自分がいた。

路地を覗き込むと、先ほどの男性が路地いっぱいに増えていた。大きく破損した個体が何体も地面に転がっているが、それ以上にどこからともなく増えていっているようだった。虫のように地面を這っている奴もいて気持ち悪い。


「なんか増えてるんですけど…」

「いやあ、なんか殴ったら増えちゃって」

「ウインクで誤魔化そうとしないでくださいね。これ、本当に倒せるんですか?」

「いけるいける!ちょっとホラーチックだけど、そんなに固くないよ!数が多すぎるだけ」

「それにしたって…」

「大丈夫!何体か倒せたら、後は全部私が壊しちゃうからね」


そういって、彼女は再び機械の群れに飛び込んでいった。ガシャン、ガシャンと乱雑な破壊音が路地に響く。不安になってきた。


恐る恐る物陰から様子をうかがう。やはり拳で戦っているようだった。しかし私には彼女の身に着けているようなグローブはなく、身一つのみ。

頭をひねって悩んでいると、ふと影が差した。暗くなるような時間帯でもないのに、なぜ。


顔を上げると、そこには生気のない暗い瞳。

黒々とした目としばし見つめ合う。


「いやあああ!」


至近距離であの不気味な顔を見る羽目になるとは。気づけば、驚きのあまり手が出ていた。ただ振りかぶっただけの拳は、相手の顔面にめり込み、見事な放物線を描いて、人もどきはスクラップになった機械の山の一部となった。


とんでもなく脆い。

思わずじっと手を見つめる。傷はおろか赤くなった様子もなし。固いものを殴ったはずなのに痛くない。


試しに、のろのろと近づいてきた個体を思い切りぶん殴ってみる。これも同様に、すぐに沈黙。

相手が脆いんじゃない。力が強くなっているんだ。

あれだけ脆くて遅いのならと、自ら進んで壊しに行った。拳を振りかぶり、足で踏み抜く。そんなに早くないから、簡単に避けられる。体が大きいから当てやすい。一発殴れば大抵は動かなくなる。だから、壊すことに抵抗がなくなるのは早かった。

こんなにあっさりと戦えるならもう少し早く知りたかった気もするが、過去に遭遇した化け物たちのことを考えると、多少力が強くなった程度ではどうにもならなそうだとも思う。


壊しても壊しても減る気配がない。葵さんの方も変だとは思っているのか、首を傾げながら殴るスピードを上げている。真っ青なグローブは輝きを増し、振りかぶるたびに吹き飛ぶ人もどきの数は増えている。それでも底が知れないことに困惑している様子だ。こんなにたくさん、一体どこから。

多少幅はあるが、それでも狭い路地だ。入ってきた方向と出ていく方向の他に、侵入経路の一切ない一本道。途方もないような気持ちになって空を見上げた。

それにしてもすごい山だな。スクラップの山は、葵さんがちぎっては投げた機械のパーツがこれでもかというほど積み上がっている。これは絶景だな、そう思って山の頂を見ると、ちょうど細いワイヤーのようなものが頂の一体を吊り上げて持っていくところだった。ワイヤーは高いビルの上まで続いており、消えたかと思うと入れ替わりに比較的無傷の人もどきが上から降って山の影に転がっていった。


「葵さん!」

「上に?道理で減らないわけだ。リアルタイムで修理されたんじゃ溜まったもんじゃ、ない!」


確実に機械の群れは減っていっている。葵さんの近寄りがたい勢いの拳が、すごい勢いで機械を壊しているからだ。時間の問題だとは思うが、それも体力のあってのもの。特に、私のような足手まといがいるこの状況は非常にまずい。


「こっちはどうにかするから、上の推定本体を頼めるかな?」

「む、無理ですよ!階段もないのにどうやって」

「足に力を込めて、壁に向かって走るの!後は全部、勢いでどうにかなる!」

「ええ!?どうにもなりませんって、きゃあ!」

「ごめんねえ、いく、よッ!」


腰を掴まれたかと思えば、高い高いの要領で持ち上げられる。そうして私を上空に飛ばし、思わずしゃがむように曲げた足の裏に、思い切り振りかぶった拳を叩きつけられた。

12月になりましたね。今年最後の投稿です。

次回は1月の投稿となります。それではよいお年を。

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