13.
本編13話です。
手掛かりがなくとも、時間は過ぎていく。あの一件以来竜胆さん、いや葵さんとの交流は回数を増し、より親密になったと思う。名前で呼ぶようになったし、連絡先も交換した。休日はショッピングに行ったり、平日でも、途中まで一緒に投稿したりするようになった。
未だに一抹の不安というか、不信感は残っているが、それはそれとして心の余裕はできてきていると思う。
変わらぬ毎日を送っていた。
今日こそは!魔法少女に変身する方法を教えてもらわないと!!
教えると言いながら、のらりくらりとかわしてきて!本当に教える気はあるのだろうか。
八つ当たりに近い気持ちのまま街を歩く。当の本人は、呑気な顔をしてランチのお店を探しているけど。
「まりちゃん?険しい顔してどうした?」
「お昼は決まりましたか?」
「お腹すいちゃった?ごめんね。今麺類で迷ってて・・・」
ビーーッ!ビーーッ!
突然、けたたましいブザー音が二人の鞄の中から鳴り出した。
驚いて思わず葵さんに抱き着いてしまったが、彼女は少し緊張した様子で周りを見渡した。
慌てて鞄を漁ると、例の指輪がひとりでに光り、振動しているではないか!
「な、なんですかこの音。どうやって止めるんですか」
「大丈夫。他の人には聞こえないよ。音も光も魔法少女以外には認識できないようになってるみたい。今はそれよりも」
葵さんは私の手を握ると、路地の方に走り出した。
「これ、あのキカイどもの反応を検知する機能もあるの。近いと光ったり、音が鳴ったりするんだけど、こんなに強いのは滅多にない。それだけ近かったってことだ」
急がないと、という彼女の背中を追いながら、変身まだ教わってないんだよなあ、とあきらめにも似た感想を抱いた。
路地の先には、人がおおよそ出さないような音を立てている男性が居た。
物陰に隠れながら、ささやき声で話す。
「そういえば、まだ変身の仕方教えてなかったね」
「本当ですよ。ぶっつけ本番で教えるんですか?」
「ごめんね。そこまで強い個体じゃなさそうだし、ちょうどいいと思って。変身の方法もそんなに複雑じゃないからね。私の真似をするだけだよ」
そういって、彼女は青い石のついた指輪を左の薬指にはめると、そっと口づけをした。
・・・くちづけ?
彼女の体は不思議なことに直視できる光に包まれ、光が膨らみ、卵が割れるように弾け、あの魔法少女の姿になって出てきたのだ。
原理は全く分からないが、なるほど、真似をするだけでできそうだとは思った。口づけをする理由は全くわからなかったけれど。
こちらを振り返った葵さんは、次は君の番だとでも言うように微笑み、路地に転がる化け物の方に向かって行った。
まず、鞄から指輪を取り出す。彼女は左の薬指にはめていたが、他の指ではだめなのだろうか。気恥ずかしさがこみあげてきて、せめてもの抵抗として人差し指にはまるか試してみた。微妙に緩かった。悔しいが、薬指がジャストサイズだった。
そして、口づけ。彼女は流れ作業のようにやっていたので慣れがなせる業なんだろうが、これもやはり気恥ずかしい。ええい、女は度胸!
またもや光が溢れだし、視界が光で溢れて見えなくなった。全身を這うように何かが動いているような感覚がするが、不思議と不快感はない。
しばらく経つと、視界が晴れ元の路地が見えてきた。
路地に転がったガラス片には、黄色いリボンを胸元に留め、魔法少女の衣装を纏った私がいた。
11月になりましたね。
次回は12月の投稿となります。それではさようなら。




