12.
本編12話です。前回の続きです。
氷のような大きな礫が、電柱にぶつかって軌道をそらす。
次いで、敵の頭上に塊が現れ、潰れる音がした。
氷が砕け散る。
そこにあったのは敵の姿ではなく、あの日出会った赤い魔法少女の姿だった。
木の枝のような杖を振り払うと、飛び散った氷が空気に溶けるように消えた。
やはり、少女と竜胆さんの変身した姿は似ている。サイズの違いはあれど、色違いのお揃いですと言われれば納得するような、瓜二つの衣装。胸には宝石のついた、ループ隊のようなものが下がっている。
少女は小さな声で何かをつぶやいた後、身をひるがえしてすぐに走り出してしまった。はっとなって、すぐに立ち上がる。
今度こそ、お姉ちゃんのことを聞かなければいけない。逃したらもう二度と会えないかもしれない手掛かりが、すぐそこにあるから!
「まって、お願い待って!!」
体に鞭打って走り出す。あの時と違って、魔法のように飛んでいくこともない。足はそんなに速くない、今度は届きそうな距離にいる。なんとか追いつかないと…!
「駄目だよ」
突然、竜胆さんが立ちふさがる。
「なんで!!あの子はあの日、」
「突然行ったら驚いちゃうよ。今は抑えてほしい」
「でもっ」
「お願い」
どうしてあなたが泣きそうな顔をするの。泣きたいのはこっちのはずなのに。
到底、納得なんてできない。
「…、わかりました」
痛みはないが振りほどけないほどの力で肩を掴まれ、追いかけることができない。
彼女は、含みがあるような、貼り付けた笑みを浮かべている。
どうせ、今から追いかけても追いつけないだろう。
だから、今抵抗したってなにも変わらない。そうやって今日も言い訳をするのか?
腹の中で、長いこと溢れている怒りがささやいた。
「あの人は誰なんですか」
「…、あの子はツバキちゃん。私より先に魔法少女になった子だよ」
小学生くらいにしか見えない少女が、高校生の竜胆さんよりも先輩?
彼女がどれだけ長いかはわからないが、どれだけ小さなころから魔法少女だったのだろうか。
「あの子は人見知りが激しいから。話しかけるなら、そっと優しくでお願い」
追いつかないとわかっていても、今すぐにでも追いかけたい。
溢れだした怒りを無理やり押さえつけ、飲み込んだ。
焦りは禁物だけれど。冷静に考える必要があっても、感情が先走ってしまう。
今回も、そうなのかもしれない。素直に従っておこう。
「そうだ、変身の練習する?」
「!」
「今回のようなことが、また起きないとも限らないからね。自衛手段は持っておいた方がいいだろう?」
今まで聞けなかったこともたくさんあるし、ずっと聞きたくてしょうがないこともある。
それでも、それを飲み込んで、常に冷静に、チャンスを見逃さないように。
信用を勝ち取って、少しずつ前に進む。それまで、姉が無事でいることを祈るしかない。既に多くの時間を浪費しているけれど、しくじってもっと長引いた方が最悪だ。
焦ってはいけない。
少しだけ、身を委ねるふりをしよう。
「戦い方は教えてくれないんですか」
「基礎を教えてからだよ。誰にだって適性はあるからね」
まず一歩。
変身の仕方を教わるところから。
10月になりましたね。
次回は11月の投稿となります。それではさようなら。




