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お約束できまして?







「さあ、着きましたわよ」


 無事、目的の場所へと辿り着いたコルネリアは、デニスにそう声をかけてから入口を開いて父の執務室へと入った。


「お父様。ただいま戻りました」


「ああ。お帰り」


 精霊の道の扉が開く気配を察知していたフランセン公爵は、執務の手を止め立ち上がって愛娘を迎える。


「お父様。こちらが襲撃者、ヘーレン子爵家のデニス様ですわ。妹御を人質に取られ、助けたくばわたくしを森にある小屋へ連れて行くよう言われたそうですの。その際に、メレマ伯爵家の紋章入りのナイフを渡されたとのことですわ。わたくしは、実行犯として彼を処分する大義名分のためではないかと考えております」


「なるほど。紋章入りのナイフを盗まれ、悪用されぬうちと追跡したが時既に遅く、その凶刃にお前が倒れており、せめてと実行犯と思しき男を拘束しようとするも抵抗され、やむなく殺した・・とでもするつもりだったか」


 苦い顔で言う父に頷きつつ、コルネリアは急かされてデニスの目隠しを外す。


「おいっ。着いたならさっさと・・っ!!」


 執務室に入ってすぐ会話を始めてしまいデニスを放置した形になったコルネリアは、その責める言葉を素直に聞こうと思うも、デニスの方が公爵の迫力にたじろいだ。


「君が、我が娘を害そうとした子爵家の者か」


「っ」


 威容を誇るフランセン公爵と、生まれて初めて見るような立派な設えの執務室に圧倒され、デニスはまともに声を出すことも出来ない。


「お父様。わたくし、馬車にもわざと招き入れましたので」


「わざとだと!?」


 コルネリアの言葉に、デニスは恐怖も忘れて叫んだ。


「ええ。わざと護衛を遠ざけて、馬車をひとけの無い場所へ進めましたわ」


 さらっと言われて、デニスは傷ついたように口を歪めるも、フランセン公爵は驚く様子も無い。


「それはそうだろう。どう見ても、うちの連中に敵うとは思えないからな。この計画は、そもそも君を実行犯に選んだことで失敗に終わる筈だった、ということだ」


 御者にさえ敵わないと言い切られ、デニスは益々落ち込んだ。


「ああ、そんなに落ち込まなくても大丈夫ですわ。うちがみんな強いだけですから。それより、妹さんを助けることを考えませんと。貴方が裏切ったと分かったら、すぐにも殺されてしまうかもしれませんわ」


「っ!こうしちゃいられねえ!」


「お待ちなさい」


 コルネリアに指摘され、闇雲に走り出そうとしたデニスは、ちょい、と足を引っ掛けられて見事に転ぶ。


「なにすんだよ!」


「じゃあ聞きますけれど、何処へ走って行くつもりでしたの?この邸の出入り口だって知らないのに」


「あ」


「はあ。その様子ですと、この邸の出入り口は知らなくとも妹さんが監禁されている場所は知っている、なんてことも無さそうですわね」


 コルネリアの言葉に、絨毯に座り込んだままのデニスがこくりと頷いた。


「ああ。知らねえ」


 そんなデニスを見、コルネリアは父公爵を見た。


「お父様。救出のために力を貸したいのですけれど、いいですか?」


「最初からそのつもりで首を突っ込んだのだろう?まあいい。うちの騎士団を動かす。王立騎士団へも私から連絡しておくよ」


「ありがとうございます」


「礼を言うのは、お前ではないような」


 言いつつちらりとデニスを見るも、デニスはフランセン公爵の意図に気づかない。


「デニス。妹さんの持ち物、今何かありますか?」


「あ、ああ。あいつらがアニタを監禁しているっていう証拠に渡された。それ、アニタが行方不明になった日に持ってたものなんだ」


 何故か眼光が益々鋭くなったフランセン公爵に怯えながら、デニスは一枚のハンカチを取り出した。


「お借りしますね。・・・まあ。見事な刺繍」


「そ、そうか?」


 材料はごく普通のものなのに、その技術が素晴らしいと褒めるコルネリアに、何故かデニスが頬を染める。


「あら?もしかして、貴方が刺しましたの?」


「じ、実はそうなんだ」


 その様子から、もしやとコルネリアが尋ねれば、デニスが落ち着かない風ながらも肯定した。


「そうなのですね。素晴らしい才能をお持ちだわ」


 しみじみと言うコルネリアを、デニスは奇異なものを見るように見つめる。


「それだけか?」


「それだけ、とは?」


「その、男のくせに、とか」


 言いつつコルネリアとフランセン公爵をちらりちらりと見るデニスに、ふたりは合わせたように首を横に振る。


「そんなの関係ありませんわ。見事なものは見事ですもの」


 当然のように言うコルネリアの言葉に、フランセン公爵も頷く。


「へえ。あんた、やっぱり変わってんな。親に似たんかな」


「コルネリア」


「はい、お父様」


 名を呼ばれ、コルネリアは承知していたかのようにハンカチをフランセン公爵に渡した。


「これは。一番近い王立騎士団の支部からも、結構な距離があるな。急いで申請を出そう」


「わたくしは、妹さんの傍に行きます」


「お前が?うちの騎士団の誰かを派遣すればいいだろう」


 子爵令嬢の救出に自ら行くとコルネリアが言えば、フランセン公爵の顔が渋くなる。


「中途に絡んで手を離せ、とおっしゃるのですか?」


「いやしかし、危険なのだぞ?ここまで事を進めただけでも充分ではないか」


「回避することも出来たのに、わざわざ招き寄せたのはわたくしですわ」


 この先は騎士団に任せても、と説得する父公爵を反対に説き伏せ、コルネリアは検知した場所へ自分が行く権利を手に入れた。


「デニスは、この邸で待機していてください」


「ちょっと待て。俺も行くぞ」


 似た者親子の会話を黙って聞いていたデニスは、突然留守番を申し付けられ待ったをかける。


「ええぇ?」


「なんだよ、その迷惑そうな声。アニタは俺の妹なんだぞ。俺が行かなくてどうする」


「行って、何か役に立てます?邪魔しません?」


 冷徹に言われるも、デニスは引かず、決して大きな声を立てたり物音を立てたりしないことを条件に付いて行くことを許された。






ありがとうございました(^^♪

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