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もしかして、わたくしを害そうとしていらっしゃいます?







 あら?


 何かしら、この感情波。




 馬車に揺られ始めてすぐ、コルネリアは自分へと向けられる感情波を察知し首を傾げた。


 コルネリアの持つ精霊の力のひとつに、自分へ向けられる感情を察知できるというものがある。


 故に、バスティアーンに害意が無いことも、おしゃべり貴族に強い悪意が無いことも知っているのだが、今感じているものは初めて感じる類の波長。


 


 害意はあるのに、そのことを悲しんでもいる。


 うーん、訳ありということでしょうか?




 今ひとつ思い切りに欠けるその感情波から、無視しても問題は無さそうだと判断しながらも、そうしてしまえば寝覚めが悪くなりそうだとコルネリアはため息を吐いた。


「やりたくないのに実行しようとしている、事情があるのでしょうねえ。はあ。面倒だけれど、巻き込まれてあげましょうか」


 幸い、精霊の力を使って護衛や御者と会話が出来るし、いざとなれば道を作って逃げればいい、とコルネリアは覚悟を決めた。


《アーベ、聞こえる?》


《はい。何でしょう、お嬢様》


 フランセン公爵家の優秀な騎士であり、精霊の力を有す一族でもあるアーベは即座に反応しつつも、未だ馬を寄せるような下手は打たない。


 それを流石と思いつつ、コルネリアは長い付き合いの彼が怒るだろう言葉を口にした。


《おかしな感情波を察知したの。確かめたいから、油断しているふりをして襲撃を見逃してくれる?》


《それは。お嬢様への危険を放置しろと?》


 苦い声で言われ、然もありなんと思うもコルネリアは我儘を通させてもらう。


《それほどの脅威ではないと思う。でも本当に危険になったら、助けてね》


《もちろんです》


 この感情波の感じから、そんなに腕の立つ者ではないと確信しつつもコルネリアはそう言って、アーベとの会話を終えた。


《トム。追跡されているみたいだから、人目の無い所へ行って欲しいの》


 次いで御者へと精霊の力で話しかければ、明らかにぎょっとした反応があった。


《自殺願望がおありで?》


《無いわよ、そんなもの。なんかね、おかしな感情波があるから確認したくて》


《お嬢様。過ぎたる好奇心は身を滅ぼすって言いますよ。おやめになった方が賢明かと》


《滅ぼす前に何とかするから、お願い》


《はあ。仕方のないお嬢様だ》


 こちらもコルネリアと付き合いの長いトムは、ため息を吐きつつも要望を叶えるべく馬の手綱を操作する。


 そんなこんなで、王城から然程遠くない公爵邸へと向かっていた馬車は、ひとけのない森の入り口へと方向を転換した。


「あ、そうそう。開けておきませんと」


 そう呟いて、コルネリアは、襲撃者が侵入して来るだろう扉の鍵を外す。


 ここまで至れり尽くせりにしたのだから、さあ遠慮なく襲っていらっしゃい、と窓外を見れば、必死に走って馬車に追い付き飛び付こうとしている男がいた。


 しかし何とも動きが鈍い。


「あれじゃあ、飛び乗ることもできないわねえ」


 一方の馬車と並走していた護衛のふたり、アーベとアリーダは後方へと下がりながらも油断の無い動きをしているのが後ろの窓から見え、その実力の差にコルネリアは苦笑するしかない。


「まあ、優秀な公爵家の騎士と比べたらいけないかしらね」


 呟き、御者のトムへと馬車を止めるよう指示を出した。


「お、おとなしくっ・・はあ・・しろ・・っ」


 そうした所で、漸く馬車の扉を開け入って来たのは、平民らしき服装の男だった。


 一応ナイフを手にしてはいるが、息が乱れているせいで脅迫の言葉は迫力に欠け、腰が引けているので誰でも簡単に転ばせることが出来るような状態で、脅されている筈のコルネリアには一切の恐怖が浮かばない。




 あのナイフの構え方、絶対に素人ですわね。


 それに握り方も、まるで幼子が懸命にスプーンを握っているよう。




 感情波を察知した時から分かっていたことではあるが、襲撃者は明らかに荒事に慣れていない。


 そして単身、公爵家の紋章が入った馬車を襲ったという事実から、コルネリアはこの襲撃者がやはり訳ありの実行犯で、黒幕は彼を簡単に切り捨てるつもりだと判断した。


「き、傷つけられたくっ・・なかったら・・ばっ・・馬車をっ・・下りろ」


 ナイフを突きつけられながら言われ、息が整うのも遅いですわね、と思いつつコルネリアはその指示に従う。


《大丈夫だから、堪えて》


 途端、御者のトムが殺気を放って下りて来ようとするのを抑え、コルネリアは襲撃者と向き合った。


《アーベ。アリーダと一緒に邸に帰って、お父様にご報告して》


 馬車が動けば流石に襲撃者も警戒するだろうが、後方の護衛ふたりが動いても気づかないに違いない、と断じたコルネリアは、アーベとアリーダにそう指示を飛ばす。


《お嬢様を襲撃者とふたりにしろと?》


《あらアーベ。わたくしの方が、この男より実力は上よ。疑うの?》


 アーベと居る時は、彼に指揮権があるためにアリーダは何も言わないが、かなり気が立っているのは感じられ、コルネリアは殊更に明るく告げた。


《・・・分かりました。ですが、努々油断なさいませんよう。何かあれば、すぐにご連絡ください。アリーダ、行くぞ》


《っ》


《大丈夫よ、アリーダ。帰ったらお風呂に入りたいわ》


 コルネリア様をお守りすることが生きがい、と言い切るアリーダにとって、今の状況は有り得ないだろうと理解しつつも、コルネリアはそう指示を出してふたりとの繋がりを解いた。




 さあ、襲撃者さん。


 どちらへご招待くださるのかしら。





ありがとうございました(^^♪


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