第七話 デート前半戦
今日のデートの目的。
と、紙に書いてみる。視覚化はだいじだって誰かが言ってた。
朝日に照らされたノートに、箇条書きでそれを綴る。
とりあえず最初に挙げるのは、フルーユ様に『あなたと結婚できて幸せですよー!』とアピールすること。
この気持ちは嘘ではない。私を愛してくれる人を、私は愛したい。
次に、ペドッロ第一王子にかけられたあの言葉から、心理的に抜け出すこと。
「…………」
少し考えてから、自分の力で、と書き加えた。
なんだろう、常にそれに囚われているような感覚からはもう抜けたと思う。慣れた、の方が近いかもしれない。
でも忘れられない。何か周りから衝撃があると、心の影からひょっこり顔を出すのだ。
だから今日、断ち切る。振り切る。振り払う。
この先フルーユ様と幸せに生きるためには、必要不可欠なことだろう。
なんて考えていると、コンコンとドアが鳴った。
「ピノ様、陛下が準備を終えたそうでございます」
フルーユ様に仕える執事さんの声だ。はい今行きますと返事をして、部屋を出ていく。
廊下の鏡で微調整を済ませ、陛下のもとへ駆け寄った。
「おはようございま…」
挨拶をかけると、陛下がこちらを振り向く。同時に、自分の行動と目的の乖離にハッとする。
もっとこう、楽しみな感じを全面に押し出さなければ。
大きく息を吸い、もう一歩近づく。そして言った。
「おはようございます、今日は楽しみですね! いぇい!」
ハイタッチだよ、と手を前面に押し出した。
すると、
「…………」
「…………」
まだかな。
「…………」
「…………こうか?」
よしきた。
すると、陛下の手がそっとハイタッチに応じた。
よしよし、と満足した顔を見せてから、その手を握って城を出る。
じっと見ていれば目眩すらしてしまうような、雲ひとつない快晴だった。
「いい天気ですねフルーユ様。雲ひとつない青空です」
「……え、あぁうん、すごく綺麗だ」
私から目を離さないままそう言う。なぜ空を見ないのだろう。
「よし、今日は目一杯楽しみますよ! おー!」
「お、おー?」
私の突き上げた右拳に、頼りなく陛下の決意が並んだ。
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公爵令嬢は遠出をしない。
デートとか逢引とか言えば、庭園でテニスするとかそこら辺が定石になる。
お偉いところの令嬢が市民の行くようなレストランにいれば、大騒ぎになるだろう。
普通の国なら、の話だが。
ここはそう、王と市民の距離が極めて近い小国、ララグナ王国。
多少市民たちの中に溶け込んでようが、ちょっと声や微笑みを掛けられる程度で誰も気にしないのである。
と、いうことを。
「おいしいですね、フルーユ様」
「あぁおいしい。我が国の肉は最高だ」
今この瞬間、まさにレストランで、強く実感していた。
陛下の表情筋は相変わらずニート状態だが、私には暖かい黄色が視えた。
黄色は、おいしいって色だ。どうやら陛下は自国の料理が大好きらしい。
さて、これを食べ終えたら、いよいよデートの後半戦である。
城を出てからは、馬車で移動し、もちろんその間も暇にならないようにありとあらゆる雑談をしかけ続け、ここに着いて昼食をとり始める頃には、日は既に昇りきっていた。
つまり何が言いたいかというと、本番はこれからだということである。
一瞬見えた気がした彼の笑顔に思いを馳せながら、再度決意を、固める。




