第十一話 一方その頃②
第一王子視点の番外編です。
「荷物、確認させて頂いてもよろしいですか」
がさがさ、ごそごそ。
「はい、通って大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
門が開く音がする。カラカラ、と車輪が前へと進んだ。
がたん。
荷車が止まる。
その隙を見て俺は手を離し、ゴロゴロと路地裏へと転がっていった。
俺はエスカ王国のイケメン第一王子、ペドッロ・エスカルティ。
今日はあるミッションをこなす為、この国、フルーユ王国へと舞い降りた。
そのミッションとは、かつての婚約者であるピノを連れて帰ること。
彼女は、俺の人生最大のピンチを救うキーになるのである。
女運のとことん無い俺。また婚約破棄したりされたりすれば、第一王子としての称号は弟に譲ると、父に言われてしまった。
なので一番可能性のありそうなピノとの婚約破棄を破棄しに来た、という訳だ。
税関も念入りに荷物を調べていたが、まさか一国の王子が荷車の下に貼り付いているとは思うまい。人間の盲点を突いた見事な発想だ。
え? 初めから手紙なんて書かなければよかったんじゃないかって?
分かってないね。予告したら怪盗みたいでかっこいいじゃないか。
さぁ、結婚式はもうすぐだ。早く向かわなければ。
怪盗王子のこの僕が。
彼女の心を奪いに、ね。
────────────────────
「出入口の方こちらになりまーす、あと数分で始まるのでお急ぎくださーい!」
式場の前でお姉さんが案内をしている。そしてその周りでは屈強そうな男たちが鎧を着て立っていた。
強行突破は無理そうだ。よし、ここは怪盗らしく変装といこう。
ポケットから巾着を取り出し、被る。
よし完璧だ。
入口へ向けて歩き出す。
問題なく通れる───と思ったその時。
「ん? すみませんそこの貴方、巾着とってもらえますか?」
お姉さんに声を掛けられた。字面だけ見ると嬉しい。
いや待てそんなこと言ってる場合じゃない。お姉さんが手に持ってる紙、透けて見えるが、あれは間違いなく俺の手配書だ。
ここで脱ぐとまずい。何か、何か策を考えなければ───。
「取れと言っているだろう!」
その時、俺は後ろから伸びる屈強男の手に気が付かなかった。
奪われた巾着は宙を舞い、俺の顔面が露わになる。
「「あ!」」
お姉さんと声が合った。字面以下略。
「ひっ捕らえろ!!」
わー! と屈強メンズが一斉に襲いかかる。
逃げる。それしか無かった。
しかし、俺の行動を読み取ったらしい男が、足首に刃を入れてきた。皮膚の上から鋭い痛みが閃く。
「がっ!」
耐えきれず、転ぶ。
後ろで、ピシッ、と縄の張る音が聞こえた。
ここで捕まってしまえば、突入できる可能性はゼロになる。
かと言って逃げ切ったところで、次が成功するとはとても思えない。
滲み出た冷や汗が、傷口に染みる。近づく足音が、終わりへのカウントダウンを代行する。
王位が。王位が無くなる。俺の人生が終わる。
想像しただけで悪寒が迸る。
それなら、俺は、何のために生まれて、なんで、あ、ああ、あ、
「うあぁぁぁぁぁあああ!!」
喉から焦燥が溢れて飛び出した。
痛みには目もくれず、思い切り地面を蹴る。ぶつかった男が怯むのを確認する前に、式場へと走り出した。
「おい待て!」
嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ。
俺は第一王子なんだ。第一王子じゃない俺なんて俺じゃない。
「うらぁ!!」
気づけば目の前にあった大きなドアに、叩き割るくらいの気持ちで飛び込んだ。
綺麗に並んだ人々が、一斉に俺の方を向く。
そしてその中心に、彼女は居た。
息を吸う。精一杯。この式場を真空にするくらいに。
俺は今、人生の分かれ道で。
これまでに無いほどの恐怖と焦燥に突き動かされて。
人生最大の感情を、人生最大の大声に乗せて。
「ちょっと待ったああああああぁぁあんああ!」
そう叫んだ。
次回が最終回になります。




