第一章 女騎士が来た③
さんざん使い古された、ありふれたありきたりなシチュエーション。でも、そんなテンプレで王道こが出会いというにふさわしい。
例えば、転がってきたオレンジを拾い、坂の上を見上げると穴の開いた紙袋を抱えた女性が立っているような。白のオールインワンに麦わら帽子でカジュアルなスタイル、そんな清楚さと爽やかさを兼ね備えたようないでたちがいい。
例えば、図書館でたまたま目に入った本をとろうとしたら、指が重なったような。三つ編みおさげに眼鏡の委員長。俯きがちだが、眼鏡を取ると間違いなく美少女に化けるに違いない。
こんな“ありえそうな”出会いですらも、小説の中だけの産物だ。
現実に期待などしてはいけない。
白馬の王子様がいないように、硝子の靴の灰被り姫もこの世には存在しない。
ましてや、空から女性が降ってくるなど、現実的に不可能だし、小説だとしても臭すぎる。
空から女性が降ってくる出会いの先駆けと言えば、ラピュタであるということは多くの人が認識を共有することだろう。空から落ちてくるシータをパズーが受け止める。ジブリ随一の出会いであり、アニメでも随一の出会いだ。この二人の出会いがどれだけ劇的だったことか。これを機に、空からヒロインが降ってくる=運命の出会いという構図が、あるいは方程式が出来上がったといっても過言ではない。
だが、劇的過ぎるがゆえに使い倒されてしまった。
それでも。
それでも、一度は期待してしまう出会い。
彼女が指差した方角、どこから落ちてきたのか、期待を込めつつも聞き間違いだろうと思い、半信半疑、いや一信九十九疑、もう一度尋ねた。
彼女はやっぱりこう告げた。
「空から落ちてきました。」
今度は吹きつけた風が水面を揺らした。
日はすっかりと沈み、空は黒とも青ともいえない色合い。それでいて稜線へはまだ夕方のようでオレンジのグラデーションが続いている。
家路のサイレンはとうに聞き逃した。
吹く風は、4月の割に涼しく、ずぶ濡れの身体を嫌がらせのように包んだ。
胸中は落ち着かずそわそわとしている。