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第一章 女騎士が来た②

こぽこぽこぽ。

こぽこぽこぽ?

おかしい。

この川の水位はせいぜい10cm程度。小さなころはよく遊んだ川だ。よく知っている。くるぶしの高さ程度の川でどうしてこんな状況。流れも穏やかなもので、当然下流に流されるというもない。

溺れている?

いや、立てばいいだけだ。

意識もある。なのに立てない。

なぜ?

重い。何かが乗っている。

そういえば、川に落ちる直前、何かがぶつかったような。それで、バランスを崩したのか。落ちてきた?何が?

やっと、少し状況がつかめてきた。

うつ伏せの状態からなんとか首をあげて後ろを振り返った。

女性が僕の背中の上に座っていた。

そうか。彼女が堤防から転がってきて?それは分からないが、彼女が僕にぶつかって、一緒に川に落ちたようだ。

目も眩むような金色の髪。

外国の人だろうか。

 後ろを向いているため、顔は分からない。

水も滴るいい女。

 ぞの金色の髪についた水滴に夕日が乱反射し、光源のごとく輝いていた。

金の元素記号である「Au」はラテン語の「光るもの」という意味の言葉に由来しているらしい。なるほどどうして、光るものというのも言いえて妙だ。鯖や鰯のような青魚や、日本刀のことも「光物」と表現したりするが、それらはただ光っているように見えるだけだ。美しさまでは介在していない。

スポーツなどの大会における優勝の証が金メダルなのは高価だからというだけではないだろう。高価というだけなら、プラチナやダイヤモンドの方が高価だし、なんなら貴金属元素は他にも存在する。では、なぜ優勝の証が金なのかといえば、やっぱり美しいからに違いない。彼らの血のにじむような努力を評価し、称賛し、あるいはご褒美を与える。そう、金というのはそんな彼らに対するご褒美なのだ。彼女の金色の髪はそれほどまでに美しかった。

息を呑むような美しい金色の髪に息をするのを忘れてしまった。

そこで、振り返った彼女と目があった。

彼女の髪を見ていた(見入っていた)のは瞬きにも満たないほんの刹那の時間だったものの、なんだかばつが悪い。

だが、彼女から目をそらすことはできなかった。

その髪に引けを取らない端正なルックスを要していたから、ではない。

その女性はなぜか大層立派な甲冑を身に着けていた。

ぱちくり。

高さ10cmの川でおぼれる成人男性にもびっくりだが、目の前の女性が甲冑を普段着のごとく着こなしているというのもびっくりだ。

どちらがよりびっくりかといえば、甲冑の女性だろう。

きょとんとする僕を彼女もまたきょとんとした表情で見ていた。

深淵を覗く時深淵もまたこちらを覗いている、違うか。

ぼくが甲冑を着ていなかったからだろうか。

ただ、単純に彼女も動揺しているのだろう。

「その、大丈夫、ですか?怪我はされてないですか?」

「えぇ、それは。ありがとう。あなたこそ、大丈夫ですか?」

「はい。怪我は特になさそうです。ただ、その動いていただけると助かります。」

「すみません。」

頬を赤らめながら、すぐに動いてくれた。

いい子だ。

ただ、僕の背中の上で踏ん張ってから動かれると少し痛い。少しだけ。まぁ、かまわないが。

 「重かったですよね。ごめんなさい。」

 何度も頭を下げられては、こちらの方がなんだか申し訳なくなってしまう。

 「いえ、女性一人くらいしれていますよ。」

 立ち上がり、どこも怪我がないことを確かめた。

 あちこち汚れているが、問題はなさそうだ。

 「それで、あそこから落ちたんですか?」

 僕は堤防の上を指差した。

 「いえ、あそこから落ちてきました。」

 彼女はこともあろうか、豈はからんや、僕たちの真上をまっすぐに指差した。何もない空の彼方を。


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