表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

「春雪の、恋」

作者: みづき


 『── きょうまでありがとな……』


 そう言うとさっきまで付き合っていた彼氏が席を立ち、わたしを置いて店を出た。

 その姿が自動ドアに消えて行く。

行き交う人混みに紛れもう見分けなんかつかない。


 彼を呑み込んだ人の流れをテーブルへ頬杖ほおづえをつき、わたしはただ他人事みたいに眺めていた。

 足は動かない。追いかける気も起きないよ。


「……おかしいよね、なんだったの?」

 ポツリと思わず落ちた疑問はコーヒーショップ内のあちこちで交わされる会話の間に溶けていく。


 だって、本当におかしいんだもん。

わたしの記憶が確かなら『付き合って』そう言ってきたのは先輩なんですが?

 はぁ、と胸のなかにあるモヤモヤしたのを吐きだすみたくため息をつく。

何気なく見ていた外の風景がいつの間にか白く変わった。


「え?雪だ」

 チラチラ舞う季節はずれの白い小さな破片はフラれた直後でも存外ぞんがい綺麗と思えたから。

そんな自分自身にほっとする。


 雪のカケラは先輩が消えて行った通りを濡らす。

積もることもなく溶けてなくなる。

「……春の雪、だね」


 つぶやいたらポロリと一粒だけしずくが溢れた。

するりと頬を伝わり流れていく。

手の甲に滑り落ちていった。

 こんな風に思いがけず降った、春雪しゅんせつみたい。


 高校へ入学してすぐ、唐突とうとつに始まったわたしの初恋は、春の雪と同じにわたしの心のなかへ積もらず、淡い感傷かんしょうだけを残して消えていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ