11-4、私の世界の、数多の世界の……恨みを知れ
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「これは、悪食。この子はね、ゴミ箱にある約定、約定体の分だけ、強くなるんだよ」
「GOAAAAAAAAA!!!」
悪食が咆哮を上げる。
「さて、これまで、僕と君、どれだけの約定や約定体をゴミ箱に送ったかな?」
コルラプスェは今日一番の笑顔でデルスィに問いかけた。
「くっ!」
デルスィは残った瑪那1つを用い、白い大盾を持った戦士を呼び出し──
「あっはっはっはっはっ!!」
コルラプスェが手を振りかざすと、悪食が戦士に襲い掛かり、爪の一撃によりあっさりと破壊された。
「そんな脆い約定体では、時間稼ぎにもならないよぉぉ~!!」
そう言いながらコルラプスェは自分の額に手を当て、嘆くように空を仰ぐ。
「あぁ~、残念だったね! この間の決闘では、君のそのぉ~、なんだ? 執念的な? そう、何かにやられてしまったが~」
そしてコルラプスェは両手を広げ、嘲笑うような顔をデルスィに向ける。
「なんか丸くなった? 絆されちゃった? あらら~」
「あぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
デルスィの目は血走り、憤怒の表情をコルラプスェに向け、素手で殴り掛かった。あと数秒で回復するとは言え、今は瑪那が枯渇状態である。何より、完全に頭に血が上ったデルスィは、そこまで冷静に考えることができなくなっていた。
「ま、いっか」
「GOAAAAAAAAA!!!」
とびかかったデルスィに、悪食の右の爪が突き刺さる。
渡り人は、契約者以上に強力な障壁に覆われている。が、その防御力を超える攻撃を受ければ、当然負傷する。
「ごはっ……」
乱暴に爪が引き抜かれ、デルスィの口からは血と共に湿った声が漏れる。
コルラプスェが戯れに、まさに遊び半分でデルスィの世界を壊した。
当時契約者だったデルスィは、仲間たちと共に必死に戦っていた。が、そんな抵抗空しく、世界は崩壊を迎えた。
そして、渡り人へと覚醒したデルスィは、1人残された。崩壊した世界の欠片の中に1人……。
デルスィはコルラプスェを追った。
自身の器官から生み出される瑪那だけでなく、壊れた"故郷"の、仲間たちの残滓すらも力に、約定に、約定体に費やし、何もかもを投げ打ってコルラプスェを追い詰めた。追い込んだ。
仇敵の命に手がかかった。しかし、それはスルリと彼女の手を逃れてしまった。
そして、十数年の雌伏を強いられた。
体から分離した"憤怒"は、ひたすらに憎悪の刃を研ぎ続けた。最後の瞬間に見せた、仇敵のニヤつく顔を引き裂くために。
そのために、この世界を利用した。魔族を利用した。使いつぶしてやるつもりだった。
だが、猫と一つになったとき、彼女の刃は曇ってしまった。
「そんじゃ、さいならだな!」
一瞬意識が途切れていたデルスィは、仇敵の声で意識を引き戻された。
爪を引き抜かれて仰け反ったデルスィに向け、悪食は逆の手の爪を振り上る。
「あ……・」
そして振り下ろされる爪。
脳裏に様々な記憶が走り抜ける。だが不思議と、彼女の走馬灯を彩るのは、猫の姿で少年少女たちと過ごした日々だった。
(ごめんなさい、みんな……)
悔恨の念がデルスィに溢れたとき、視界にクマのぬいぐるみが映った。
それはただの遊びだった、元々そういった呪物的効果のあるアーティファクトだったが、その呪いを強めたのは……。
悪食が爪を薙ぎ払い、4本の裂傷が刻まれる。
「ぐぇ?」
コルラプスェの体に。
デルスィは、クマのぬいぐるみで悪食による爪の攻撃を受け止めていた。そのクマの瞳は、怪しく紫に輝いていた。
──ズォォォォォォォォォォォ
約束された終末は怒っていた。数多の世界を滅ぼした自分に反撃し、剰え手傷まで負わせた。
苛立ちを晴らすように、数百の触手を繰り出す。生意気にも目の前に立ちはだかる巨体を粉砕すべく。
大漁の触手を迎え撃つべく、終末を滅す者が巨大な右拳を繰り出した。
その軌道に存在した触手はブロック状に砕かれ消滅していき、続けて突き出された左拳により、更に数十の触手が砕け消え去る。
「GOAAAAAAAAAA!!」
両の拳による連撃で、数十数百の触手を粉砕してく終末を滅す者。しかし、あまりの攻撃密度に、迎撃しきれない触手が攻撃の隙間を潜り抜け、終末を滅す者の体へと反撃を加える。
だが、体を隙間なく覆う無敵鎧は、一切の攻撃を受け付けなかった。
更に苛立つ約束された終末は、触手を繰り出しながら体に閃光を収束し、吐き捨てるように光の奔流を終末を滅す者へと浴びせかけた。
──ゴォォォォォォォ
光が消え、砂塵が晴れ、そこには何の変化もない終末を滅す者が依然として存在していた。
終末を滅す者は強烈な踏み込みから、一気に約束された終末の胴体へと肉薄する。
──ズズォズォォォォォォォォォォ
約束された終末は迎え撃つように、何十もの触手を束ねた強烈な刺突を放つ。だが、終末を滅す者は防御すらせずに突進した。
やがて衝突する両者。だが、無敵鎧がその攻撃の全てを弾き、触手の束を割って強引に接近した終末を滅す者が、大きく振りかぶって右ストレートを撃ち放つ。
それは津波のような触手の群れを消滅させ、約束された終末の胴体へと突き刺さった。
──オゴロガォォォォォォォォ……
約束された終末は鈍い動きならも胴体をねじり、中心部への直撃だけは避けた。が、胴体の一部が大きく砕け消え去った。
感じたことのない痛みに、約束された終末は混乱した。とにかく敵を遠ざけようと、闇雲に触手を叩きつける。が、その全てが破壊される。
──ズォズォズォズォズォズォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ
それは恐怖の絶叫か。約束された終末が声にもならない叫びをあげる。
「「「消えろぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」
ヴァレト、マテリ、リアの想いが重なる。
終末を滅す者の瞳がひと際強く光りを放ち、
「GOAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
全弾必殺の威力を持つ連打が、約束された終末に叩き込まれた。
「あたしは3年前、このぬいぐるみに"呪い"を施した……」
「な、なにを……」
これまで、常に嘲るような、余裕の表情だったコルラプスェに、初めて焦りが浮かぶ。
「私の世界の、数多の世界の……」
「やめ──」
デルスィは、クマのぬいぐるみを手放す。
「恨みを知れ」
それは重力による自由落下で落ちていく。
今まさに、"約束された終末"を滅ぼすべく吹き荒れている"終末を終わらせる渦"の中へ。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
"終末"をも滅ぼす破壊の波が、コルラプスェの体へも齎される。
彼の持つ強力な障壁がその攻撃に抵抗を示す。が、それは風前の灯のようにあっさりと押し流され、体のあちこちがブロック状に砕けて消えていく。
その瞬間、2人の器官が全て回復し、"4ターン目"が始まった。
「あぁぁぁぁぁぁ!!」
コルラプスェは千切れ飛びそうな右腕を振りかざし、約定を編み──
「今度はぁぁぁぁぁぁ、これ以上、何も使わせないぃぃぃぃぃぃ!!」
デルスィは、既に約定を構築していた。消費瑪那は、現在使える6つ全て。
「最終戦争!!」
その約定が行使された瞬間、放出された波動により、デルスィの周囲を旋回していた器官が全て砕けて消えた。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」
それはデルスィだけではない。コルラプスェの器官も全て砕け散った。
「滅びの時だ、コルラプスェ」
「ながぁぁぁぁぁぁぁ、僕の世界がぁぁぁぁぁ! こわ、こわれ、れれれれれれがぶごぁぁぁぁぁぁ……」
コルラプスェの全身が格子状に斬り刻まれ、砕けて消滅していく。あとに残るのは、黒と緑の粒子だけ……。
そして、
──オゴガゴォォォォォォォォ……
終末を滅す者の連撃を叩き込まれ、約束された終末も砕けて消滅した。
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<次回予告>
「あ、ひ、ヒストリア……嬢、こ、今度の、にぃ、日曜びぃに……」
「あ! マテリ様! 今度の日曜、小生とショッピング行きましょう!」
「えぇ、いいですね」
「散々"男子"を自称していたのに、趣味は完全に女子じゃないですか」
「ん? 2人だけのショッピングがうらやましいのかな? ん?ん?」
「僕は従者なので、当然お供しますが?」
「えぇ~、お呼びじゃないんですけどぉ~。女子同士のショッピングに首突っ込むのとか、どうかと思うよ~?」
「リア、そう言わずに」
「アイアイマム!!」
「……」
「うにゃ、どんまいにゃ、ラクティス。今にゃら、我輩の腹、撫でてもいいにゃ?」
次回:約束された週末
(これは嘘予告です)
今回でラスボス戦は集結です。本作も残り2話で完結となります。
次回更新は、3/13(月)の予定です。




