11-2、ふははっ、集中が足らないんじゃないかな?
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彼我のサイズ差は絶望的である。それは象と蟻、いや、クジラとミジンコほどに、存在の次元が異なる。
それでも、8人の契約者は"約束された終末"と対峙する。
「全員! 僕がサポートします!」
時魔術師が時間を操作し、全員の動きが高速化し、
「ダメージは俺が止める!」
白馬騎士が全力でバリアを展開する。
「俺たちの全力! 叩き込んでやろうぜ!!」
「そうですね」
炎ゴーレムが激しく燃え上がり、同様に、動く業火はその右拳に全火力を集中させる。
「足場です!」
マテリの天使がフロートシールドを2枚、距離は離れているが階段のように設置した。その先には、巨大クラゲの胴体がある。
「全力でやるしかないねぇ」
グラリスが手甲を構え、その横に黒衣収穫人が並ぶ。
「行くぞ──」
──ズドォォォォン
その瞬間、巨大な触手が軽く振るわれ、全員が根こそぎ薙ぎ払われた。
「ぐっ……、皆、無事か……」
岩や砂から這い出し、フィデス王太子が声をかける。彼の横に居る白馬騎士は、ボロボロと音もなく崩れ落ちた。
フィデスが周囲を見回せば、同様に起き上がろうとしているルスフやカルリディ、いや、全員の約定体が崩れ落ちている。
「何が、おきた……」
フィデスの問いかけに、マテリが答える。
「攻撃を、約定体で防げませんでした。この感覚、覚えがあります……・。おそらく、属性無効の能力……」
そんなマテリの言葉に、カルリディが食いつく。
「いや、しかし! 僕ら全員で、属性色はバラバラですよ!? 属性無効は色指定での……、まさか!!」
「すべての色の属性無効……」
マテリの呟きに、全員が絶句する。
「それだけじゃないね……」
膝を付いたグラリスが、崩れ落ちる両手の籠手を見下ろしながら、マテリの言葉を引き継いだ。
「契約者にダメージが入ると、ご丁寧に約定体を破壊する効果まであるみたいだな……」
絶望的分析が終わったタイミングで、彼らは紫の光に照らされた。
"約束された終末"の胴、そこに紫色の光球が収束し、光が零れた。
2度目の光線。迸る紫の閃光は世界の果てへと突き進み、虚空に大穴を穿つ。再び世界を割り、新たな次元の裂け目が出現した。
「あ、ぁ…・・」
「……、無理だ……」
フィデスは呻き、カルリディが絶望からの言葉を零した。
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「あははは! 決闘は久々だな! 15年ぶりくらい? 案外、そんなに久しぶりでもなかったな!」
コルラプスェは、軽やかなステップで踊るように、そして歌うように朗々と告げる。
2人は、"約束された終末"が顕現した場所よりも更に高い位置、雲海を眼下に望むような高度で相対している。しかし、次元を、世界を超える能力を持つ渡り人である2人にとっては"重力"など関係が無いらしく、まるで見えない足場があるように、そこに在った。
「今度こそ殺す!!」
デルスィは視線だけでも人間を射殺せるほどの殺意を籠め、コルラプスェを睨みつける。
コルラプスェの言う、15年前の決闘とは、デルスィが妄念と執念からコルラプスェを追い込み、仕掛けた戦いであり、その結果、追い詰められたコルラプスェはこの世界を規定し、命からがら逃げ伸びたのだ。更に言えば、世界観測の余波に巻き込まれ、ヴァレト達が転生するに至った。
そんなことも忘れかけているコルラプスェの様子に、デルスィの怒りはさらに加速した。
コルラプスェとデルスィは同時に瑪那を励起させ、お互いに2瑪那を行使し、周囲に滞空する器官を1つ増加させる。
「初手が瑪那基盤強化とは、安牌でつまらん手だな!」
「貴様も同じだろうに!!」
再び瑪那を励起させる2人。2つの瑪那を用い、コルラプスェがエルフのような約定体を呼び出し、それに対応したデルスィが2つの瑪那で火炎を生成し、エルフに向けて発射。
エルフは炎上し、悲鳴も上げることなく消し炭となった。
「酷いことするなぁ」
口では批難するようなことを言いつつも、コルラプスェはニヤニヤとしたいやらしい笑みでデルスィを見下ろしている。
コルラプスェはさらに2瑪那で木の精霊を召喚し、
「結晶化!!」
直後デルスィが2瑪那で行使した約定により、木の精霊が魔法陣に覆われ、直後小さな水晶の欠片へと変貌した。
「ありゃ、封印されちゃったか……、相変わらずやるねぇ~」
デルスィのことを覚えているのかいないのか、狂人の思考は支離滅裂である。
2人の周囲に滞空している5つ、いや、1つ追加されたため6つの器官は、すべての瑪那を吐き出したため、全部がくすんだ灰色へ変化していた。
「2ターン目だ」
コルラプスェがそう告げ、指を鳴らした瞬間。2人の6つの器官は、全て再び光を取り戻した。
2人は、再び同時に2瑪那を行使し、器官を1つ増加させる。これで、器官は7つ。
「しってた? 蜘蛛は昆虫じゃないんだってよ?」
コルラプスェが2瑪那で小蜘蛛を召喚。
「焼き尽くせ!!」
そこへ、デルスィの2瑪那火力が飛び、小蜘蛛に着弾、炎上する。
「そう何度もやらせないね!」
コルラプスェがそれに対応する。1瑪那で小蜘蛛を巨大化。強化された小蜘蛛は炎で燃え尽きず、生き残る。
「ちっ!」
「あ、ついでにホイ!」
ついでのように2瑪那を用い、コルラプスェがが手を上へとかざす。突然漆黒の雲が渦巻き、そこから迸る黒い稲妻により、デルスィの器官が1つ破壊された。
「くっ!!」
デルスィは悔し気に、残る2つの瑪那で全身が赤熱する騎士を呼び出した。
「はっはっは! ちょっとキツくなってきたんじゃないかい? 3ターン目だ!!」
2人の器官が全快する。コルラプスェは7つ、デルスィは1つ破壊されたため、6つ。
デルスィは、減った器官を補うように、2瑪那で器官を1つ増加させる。これで、デルスィも7つ。
「僕の精霊ちゃん、戻っておいで」
コルラプスェはいつの間にか木の精霊から変貌した水晶の欠片をその手に持っており、頬ずりしながら3瑪那を行使し、水晶の欠片を破壊した。
砕けた破片から瑪那が噴き出し、それが再び木の精霊を形成した。
「そしてぇぇ!! 小蜘蛛ちゃん! 木の精霊ちゃん! あのお嬢さんを懲らしめてやりなさい!!」
コルラプスェが宣言しながらデルスィを指さすと、木の精霊と小蜘蛛が彼女に向かって襲い掛かってきた。
赤熱騎士は木の精霊を迎撃する。
赤熱騎士の振るう燃えるランスが木の精霊に突き刺さり、同時に精霊の伸ばした鋭利な蔓が、赤熱騎士の体を貫いた。2体は相打ちとなり、お互いに消滅する。
が、小蜘蛛は消えゆく赤熱騎士の横を通過し、デルスィに襲い掛かる。
「劫火!!」
デルスィは3瑪那を費やし、より強力な火炎を小蜘蛛に叩き込み、
「GYAGAAAAA……」
悲鳴のような叫びを残し、小蜘蛛は燃えて消滅した。
「あ~ぁ、僕の精霊ちゃんと小蜘蛛ちゃんがぁぁぁぁ~、ま、仕方ないか」
コルラプスェはテンションを激しく乱高下させながら、2瑪那で再び黒い雲を出現させ、デルスィの器官を破壊した。再びデルスィの器官は6つ。
「くそっ!!」
お互いに、今のところ本体へのダメージはない。が、デルスィは押され気味であった。
15年前、一度はコルラプスェを追い込み、止めを刺す寸前まで持ち込んだ。
それは、決闘に持ち込むまでの様々な出来事が、彼女の追い風となっていた部分もあり、何より、彼女の中に渦巻いていた、どす黒い復讐の怨念が、彼女の力を実力以上へと引き上げていたのだ。
復讐心は今でも心にあり、今も彼女をその黒い炎で焦がしている。しかし、今、心にあるのはそれだけではなかった。猫となり、10年近くも過ごした暖かな思い出。それが、復讐の業火を極わずかに弱めてしまった。その、"極わずか"の差で、彼女は少しずつ追い込まれている。
デルスィは頭を振り、思考を払う。今は目の前の仇敵に集中するときだ。
瑪那未使用だった器官が破壊されたため、今残った瑪那は1つ。瑪那1つで使える約定を逡巡し──
「ふははっ、集中が足らないんじゃないかな? おいで、悪食」
デルスィが数瞬の思考に陥っていた間に、コルラプスェが残った2瑪那で約定体を1体呼び出した。
それは熊のような巨体の怪物だった。しかし、熊とは異なり、肌には毛が無く荒れた皮膚が露出しており、さらに最大の違いは、頭を真っ二つに割るような巨大な"顎"が備わっていることだ。
「これは、悪食。この子はね、ゴミ箱にある約定、約定体の分だけ、強くなるんだよ」
「GOAAAAAAAAA!!!」
コルラプスェに紹介されたことを理解しているのか、悪食は咆哮を上げた。
「さて、これまで、僕と君、どれだけの約定や約定体をゴミ箱に送ったかな?」
コルラプスェは今日一番の笑顔でデルスィに問いかけた。
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<情報開示>
悪食
・2等級(顕現に必要な煌気は2ポイント)
・属性<緑>
・攻撃力:低 防御力:低 耐久性:低
・能力:ゴミ箱にある約定および約定体の分だけ、攻撃力、防御力、耐久性を全て1ランク上昇させる。
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<次回予告>
「これで王手だねぇ」
「ならば、飛車取り!!」
「いや、王手だからね?」
「角取り、金取り、銀取りぃぃ!!」
「いやだから王手だって!!」
「香車取り!」
「桂馬も狙ってあげて!? ちょっと動き変わってるけど、仲間入れてあげよう?」
「歩取り!!」
「いや、言わないよね? 普通"香車"も"歩"も言わないからね? というか王手だって!!」
「王が死ぬと終わり、いつからそう、錯覚していた?」
「ルール無視かよ!」
次回:接戦! チェスバトル!!
(これは嘘予告です)
「将棋ですらなかった!!」
本作も残すところ4話で完結です。
次回更新は、3/8(水)の予定です。




