10章最終話、来たれ、"約束された終末"
いつもご覧いただき、ありがとうございます。
10章最終話です。
鉄巨人の一撃で、全員の約定体が全滅した。
「あ、ありえない……」
フィデスが倒れた状態のまま、絶望したように呟く。
「もぅ、邪魔しないでよね」
聞き分けの無い子供に言い聞かせるような口ぶりのデルスィは、それきり彼らに止めを刺すこともせず、"作業"に取り掛かる。
彼女の周囲に渦巻く膨大な瑪那。それを纏め、編み上げ、1つの約定を構築していく。
──天地崩壊
それは、世界の天地すべてを崩壊せしむ、究極の破壊約定。
鉄巨人は、そんな主人を見守るように、じっとしている。
事実、天地崩壊発動の邪魔さえしなければ、デルスィは彼らをどうする気もない。なぜなら、
「どうせ、世界と一緒に、滅びるから……」
マテリは地面に向けて呟き、その手を握りしめて立ち上がる。
「ま、待ってください!」
マテリは声を張り上げ、宙に浮かぶデルスィに語り掛ける。しかし、彼女は気にも留めず、"作業"の手を止めることもない。
「せ、世界を、壊すのですか!? 私たちの……、この、世界を!?」
デルスィは一瞬、ピクリと反応した。
「お願いです! この世界を、壊さないでください! お、お願い……」
マテリの言葉に、デルスィはわずかに表情をゆがめる。
「な、なぜ……、他に、何か他に手は、手段はないのですか?」
デルスィは、そこにかつての自分の姿を幻視した。
『や、やめて! 世界を壊さないで! なぜ、なぜこんなことをするの!!』
『意味なんてねぇなぁぁぁぁ! そこに世界があったからだよぉぉぉぉ!!!』
「ぐっ!」
デルスィは、約定構築のためにかざしていた手を強く握りしめる。
「お前に! お前にわかるか! 世界を消された者の気持ちが!!」
叫びながら、デルスィは水晶の柱を睨みつけ、
「奴が! 私をここまで追い詰めた!! やっと倒せる、やっと殺せるところまできたのに! 延命のためだけにこの世界を!! それに私まで巻き込まれて、世界の基底に織り込まれたんだ、奴と一緒に、あんな奴と!!」
デルスィはなおも叫び続ける。
「私は奴を滅ぼす! 滅ぼさなければならない! 消えてしまった私の世界のため、消えてしまったみんなのために!!! だからこの世界を壊し、奴をあそこから引きずり出すんだ!!」
デルスィは痛む頭を押さえながら、一気呵成に叫び続ける。
「ああああああああ! そうだよ! くそっ!!! 私も同じだ! 世界を滅ぼそうとしてるんだよ! ああそうだ! 滅ぼすんだ!!!」
「デルスィさん……」
マテリが悲哀の表情で、デルスィを見上げる。
「わ、私を、そんな目で見るな!!」
デルスィは、約定の構築を再開する。が、頭痛のせいなのか、なぜか思ったように進まない。
忘れていた記憶が、次々と浮き上がる。
デルスィが世界を超える渡り人となる前の記憶。
なんてことない、普通の少女だった。
家族が居た、幼馴染が居た、友達が、仲間が……、
やがて、1人の渡り人が、その世界に降臨した。
そして、彼女は契約者となった。
その渡り人は錯乱していた。
いや、渡り人なんて錯乱した者ばかりだ。正気な者など存在しない。当然だ、次元を超え、人智を越えた場所を渡るような者に、正気など存在しない。
その者は世界を壊す。そこに世界があるから。ただそれだけの理由で。
そんな狂気の渡り人を倒すため、少女は仲間の契約者と共に戦った。戦い抜いた。
そして世界は壊れて消えた。彼女を残して。
家族も
友も
仲間も
いつの間にかデルスィの頬に熱いものが滴っていた。視界がゆがみ、前が良く見えない。
それでも、彼女は約定を編み上げる。しかし、編み上げている先から、約定は解け、瑪那に還っていく。
「ぐっ……」
それでもなお、デルスィは歯を食いしばり、約定を編む。仇への憎悪を滾らせ……。
だが、約定は全て零れ落ち、ついには消滅してしまった。
「ふぐっ、でき、ない……。できないよ……。奴が、仇は、目の前なのに……」
ついに、デルスィは地面に降り、そして膝を付き地に伏せる。彼女の瞳から溢れた涙が、地面にいくつもの染みをつくる。
「デルスィさん。何か、方法を考えましょう。私たちも手伝いますから」
マテリはデルスィに静かに近寄り、その手に手を重ねる。彼女は涙に汚れた顔でマテリを見上げる。そして何か言いたげに口を開き──
『その必要はないよ』
突然、気絶していたイグノーラの体が浮き上がる。
その体から、黒い蒸気のようなものがあふれ出し、浮遊したイグノーラのすぐ横に集まると、人型を形成した。
黒いシルクハットに深緑の外套を羽織った男は、そのままイグノーラの首根っこを掴んで吊り下げた。
「コルラプスェ!!」
デルスィが黒いシルクハットの男を見上げて叫ぶ。その表情には憎悪が溢れている。
「はいどうも、みんなのコルラプスェですよ! ご無沙汰ぶりな人はご無沙汰!! 初めての人はよろしくね? まぁ? お付き合いも残りわずかなんですけどね!?」
コルラプスェと名乗るシルクハットの男が、ふざけた様子で告げ、
「いやいやいやぁ、時間稼ぎご苦労だったねぇ。こいつの体はなかなか居心地がよかったよ。最後にもう一働きがんばってね……、と、その前に、要らない予備は消しておこうか」
そう言うや、コルラプスェは、倒れた魔王の手当をしていたオヴィエンティアへと手のひらを向け、その手のひらに黒い光が収束していく。
「危ない!!」
コルラプスェが手から黒い閃光を発する。オヴィエンティアへ向けて真っ直ぐと進む光線の、射線にマテリと天使が割り込んだ。
2枚のフロートシールドと天使の盾でその黒い閃光を防御──
「ぐはっ!」
直後、マテリの背後にいるオヴィエンティアが呻きを上げた。
「……え?」
黒い閃光は、フロートシールド2枚を貫通し、天使の盾と胴体を貫き、更にマテリの脇腹をも穿ち、背後のオヴィエンティアの胸を射抜いていた。
オヴィエンティアは、既に息の無い魔王の体の上へと倒れ伏した。
「うぐ、し、しっかり……、しっかりしてください、ヴァレト、早く!」
マテリは腹部を押さえつつ、彼女の元へと近づく。
「……」
巫女の少女は、その黒い瞳をマテリに向け口を動かし、何かを訴えかける。
マテリは手を握り、声を聴くべく耳を近づけた。
「……お願い」
瞬間、その手を通じてマテリに何かが流れ込む。
「え!?」
マテリは驚き、身を起こしてオヴィエンティアを見た。が、その時には、既に彼女は事切れていた。
「うわぁ~、無茶するなぁ~」
コルラプスェは、自身の黒い閃光の射線に割り込んだマテリに、無感情な感嘆を告げる。
「コルラプスェェェェェェェェ!!!」
デルスィは、憎悪に塗れた表情でコルラプスェを睨みつけ、空へと舞い上がる。
「そう焦るなよ。すぐに決着をつけようじゃないか」
そういうと、コルラプスェは空に手をかざす。イグノーラの"巫女能力"に干渉し、大量の瑪那を引きずり出すと、かざした手を中心に、巨大な魔法陣が展開される。
「はいドーン!」
頭上の魔法陣から、更に上へ向かって光の柱が立ち登る。それはデルスィが作り出した黒い亜空間を貫通し、神殿の屋根を崩壊させ、天へと光の柱を打ち上げた。
「この世界は、無限の"可能性の海"から、俺が探し出し、観測し、既定したんだ。その段階で、この終末は定められていたのさ」
光の柱が空を穿ち、世界を揺らすように天が波打つ。
「来たれ、"約束された終末"」
空に無数の亀裂が走る。その亀裂がいくつも開き、紫色の別空間が覗く。
──ズォォォォォォォォォォォ
不気味な重低音を世界に響かせながら、巨大で、半透明な触手が何本も、その亀裂から"こちら側"へと侵入してきた。
=================
<情報開示>
約束された終末
・1048576等級(顕現に必要な瑪那は1048576ポイント)
・属性<無色>
・攻撃力:世界崩壊級 防御力:次元障壁級 耐久性:惑星級
・能力:属性無効<全ての色>
・能力:約束された終末が渡り人もしくは、契約者にダメージを与えた場合、その渡り人もしくは、契約者が従えている約定体をすべて破壊する。それは再生できない。
<情報再掲載>
属性無効
・指定の色属性に対する耐性である。属性無効<色>として表記される。例、属性無効<白>
・属性無効を持つ場合、その属性を持つ約定や約定体に対し、以下の状態となる。
1、ダメージを受けない
2、攻撃や効果は当たらない(対象を取る能力は、対象とすることができない)
3、攻撃を防御できない(例、約定体で攻撃を防ごうとしても防げないため、本体に当たる)
+++++++++++++++++
<次回予告>
「私の力、その深奥をお見せしよう!!」
シルクハットを取るコルラプスェ。
「あ、あれ、取れたの!?」
「いやいやいや、明らかに帽子だし、取れるでしょ? 取れるよね?」
「だって、世界滅ぼすときも、世界渡るときも、ずっとかぶりっぱなしだったよ!? あそこまで含めて頭だと思うにゃん!?」(思わず猫の語尾が出る)
「ふっふっふっ、私の秘密、よくぞ見破りました」シルクハットの中には蠢く○○○(放送禁止)
「マジで頭だった!!」
次回:ファッションではなく生身。
(これは嘘予告です)
遂に、本当のラスボス戦が始まります。
ということで、次回から最終章です。
次回更新は、3/3(金)の予定です。




